101.今日までお世話になりました
新しい武器は斧だった。それも長柄のやつ。
こういうのはハルバードって言うんだっけか?
ともかく、同じ長柄の『不浄の大鎌』よりもかなりゴツい武器だ。
刃の部分はデカいし重い。なんだってたたっ切れそうだぜ。柄は『恨み骨髄』に似て、何か巨大な生き物の脊髄みたいな形をしている。うっかりすると骨が外れてしまいそうな外見だが、『恨み骨髄』があれでかなり丈夫なんでこいつもその心配はないだろう。ないと思いたい。
『【非業の戦斧】:その斧に纏わる血塗られた惨劇の歴史は今もなお続いている。関われば最後、悲運は避けられない。真なる持ち手として選ばれし者を除いては』
視界に浮かぶ説明文を読んで、相変わらずの内容だと嘆息する。
だがこいつが良いもんだってのは持っただけで十分伝わってきた。
俺はずっと単純明快な、こういう武器を欲していたんだ!
「極風魔法『フォースブラスト』!」
振り下ろした戦斧とガレルの風魔法が衝突する。さすがに強ぇ、反撃を間に合わせたばかりか普通に押し勝とうとしてきやがる。
だがこっちだってまだ手は残してあんだよ!
「【活性】発動だぁ!」
今回のレベルアップでこいつもLV3になった! これでモルグだけじゃなく俺もパワーアップしたも同然だぜ!
「おぉおおぉぉぉおぉぉぉっ!」
「ぐっ、この……!」
「――【死活】も発動ぉ! 対象は【活性】と『非業の戦斧』!」
「!?」
ここが決め時なんだ。だったらとことん継ぎ込むっきゃねえぜ!
モルグはまだしも【活性】や【武装】で生み出した武器にも【死活】の効果が及ぶのかってのはまだ確信がなかったが、とにかく物は試しとやってみた。外れたならSPの無駄遣いでしかねーが……俺の勘はばっちし当たったみてーだ。
斧にも、そして俺自身の体にも! さっきモルグを強化したのと同じ黒いオーラが出ている! そしてその途端にむんむんと力が沸き上がってきやがるじゃねえか!
「これで終わりだ!」
「なん、だって……このアタシが――押し負けるだとぉ!?」
戦斧が『フォースブラスト』の突風を切り裂いた。弾かれて姿勢を崩したガレルへ、俺は上から斧の長柄を叩き込んだ。「ぐぶっ……、」と腹を打たれて苦しげな声を漏らしたガレルはそのまま落っこちていく。
やったぜ! どうにかガレルを無力化できた……!
「ゼンタくーん!」
「お、ヤチ!」
喜びに浸りながらモルグと一緒にガレルのあとを追うように落ちていく俺を、ドラッゾが拾ってくれた。ヤチに支えられて辺りを見渡せば……ドレイクはもうどこにもいない。頼んだ通りに狩りつくしてくれたらしいな。
「完璧な仕事だな……ところでスコアはどうなった?」
「ガレルさんは45点。私たちは――46点。勝ったよ、ゼンタくん!」
「……! うっしゃああ!」
たった一点差! かなりあぶねーところではあったが勝ちは勝ちだ。これでもうガレルは俺たちのことを諦めるしかない。
「一時はどうなることかと思ったが、なんとかやれたな。ヤチ、ドラッゾ、モルグ。お前たちが力を貸してくれたおかげだ……ありがとな」
「そ、そんな私なんて……」
「グラウ!」
「ゴアッ!」
「はは、感謝ぐらい素直に受けとりゃいいのに。見ろよ、ドラッゾたちなんてこんなにはしゃいでるぜ」
「まったくその通りだ。いつまでもウジウジ癖が治らないねえ、あんたは」
「うおっ!? ガレル!?」
何食わぬ顔でドラッゾの背に乗っていたガレルは、ふーと息を吐いて座り込んだ。
いやいや、敵の居場所で何をしてんだこの人は。我が家みてーにくつろぐなっての。
「ゲームも終わったんだからいいだろう? 賭けはあんたたちの勝ちだ。約束通りこれ以上の勧誘はしない。ヤチのことも手放そう」
「……やけにあっさりだな?」
「はっ、約束を反故にしたほうがよかったかい?」
まさか、と俺は首をぶんぶんと振ってやった。
狩りのゲームならともかく、この女とガチで戦り合うなんざゴメンだぜ。
それを見たガレルはけらけらと笑って、
「あんたもヤチも惜しいことは惜しいが、ゲームを楽しめんだからまあ良しとしようかね。さっ、船へ連れてっておくれ。ポレロまで送ってやるからさ」
「自分で連れ出しといてよく言うぜ……」
◇◇◇
ブラック・ハインド号の甲板に戻った俺たちは、ヤチの【奉仕】というスキルでどこからともなくワゴンに出現した軽食を胃に納めつつポレロを目指した。その最中のことだ。
「キャプテン! プーカへ五番隊が戻ったそうです!」
「ん、そうかい。一番の新参だってのに、テミーネのやつ仕事が早いじゃないか」
「キャプテンの見る目が確かだってことですね」
「違えねえ!」
今食ってるサンドイッチの肉がなんの肉か生み出したヤチに聞いてもさっぱりわからなかったことで呆れていた俺は、ガレルたちの会話が少し気になった。
「五番隊ってなんだ?」
「ああ、ブラック・ハインド号には一回り小さいサイズの分船があってね。それぞれにアタシの選んだやつが船長として乗って、方々で色々と仕事をさせているのさ。なんせうちは大ギルドだ、食わせていかなきゃならんのが多いからね」
はーん、隊を分けて手分けして稼いでるってわけか。
そんで五番隊ってこたぁ、最低でもあと五つは空飛ぶ船を所有してるってことだよな。
本船のブラック・ハインド号よりは小さいらしいが、それでもすげえよな。ガレオンズが全船で空を行く様はきっと圧巻の光景だろうよ。
「あんたを六番隊の隊長に置けばちょうど全部の船が埋まるんだがねぇ……テミーネも後輩ができりゃあ喜ぶはずさ。どうだいゼンタ、飛行船の船長にゃなりたかないかい? 今ならヤチだってあんたの専属にしてやってもいいよ」
「おい、勧誘はもうしないんじゃなかったのか?」
「なんだいケチ臭い。飯の間のちょっとした雑談の一環だろうに」
「んじゃ雑談として答えるが、お断りだ。俺はアンダーテイカーから籍を移すつもりはねえ。ヤチもこのまま連れ帰らさせてもらうぜ」
「つれないねえ。そういうとこも嫌いじゃないよ」
けっけけ、と悪そうにガレルが笑う。
さっきは潔い雰囲気を出しときながら、こいつさてはちっとも諦めてねーな? つくづくとんでもねー女だ。【活性】+【死活】でぶん殴った腹を痛がる様子もねーし……俺は自分のことを人間離れしてきたと思ってたところだが、案外そうでもささそうだと考えを改める。大ギルドの団長ともなれば素のままでもこんだけ人間離れしてやがるらしいからな。
『シバ・ゼンタ LV23
ネクロマンサー
HP:125(MAX)
SP:90(MAX)
Str:111
Agi:90
Dex:72
Int:1
Vit:77
Arm:71
Res:38
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV3】
【活性:LV3】
【心血】
【集中:LV2】
【察知:LV1】
クラススキル
【武装:LV5】
【召喚:LV4】
【接触:LV2】
【契約召喚】
【血の喝采】
【偽界:LV1】
【死活】』
今の俺のステータスとスキルはこんな感じだ。改めて、森でのサバイバル時からするとすげー成長したと思う。
そしてあのときからずっと世話になってる【武装】のスキルもとうとうLV5だ。
5ってのは切りのいい数字だが、果たしてこの先はあるんだろうか?
なんとなくここで打ち止めってのもあり得そうな話だ……しまったな、カスカにこういうとこも聞いとくべきだったか。
や、あいつがLV5まで育ったスキルを持ってるとは限らねーし、持ってたところでそれ以上上がるのかどうかってのはわからねーだろうけどよ。
「そら、ついたよあんたたち。ボートで下ろしてやるからこっちに来な」
ずっとブラック・ハインド号の甲板にいたひとつ目のカメラ鳥も飛び立って、組合のほうへ帰っていく。ガレルの言っていた通りにあれは組合員が監視カメラとして寄越したもんだったらしい。そのお役目が終わったんで一足先に撤収したんだろう。
「気が変わったらいつでもプーカへおいでよ。なんなら一報入れてくれりゃ迎えに行くよ。アタシ自らでね」
「わりーけど俺たちの気が変わることなんてねえよ。なあ?」
「う、うん……、ガレルさん」
「なんだい、ヤチ」
「今日までお世話になりました!」
深く頭を下げるヤチに、ガレルは目を大きく開いた。
それから、これまで見せてきた猛獣めいた笑みとは明確に違う、とても柔らかな表情になった。
「こき使ったことに恨み節でも吐くかと思えば……まったく、そういうとこだよ。あんたも少しは覇気ってもんを見せたらどうだい。――今後も元ブラック・ハインド号の乗組員として! 恥ずかしい姿を人様に見せないと誓いな!」
「は、はいキャプテン!」
「ならよし! ……とっとと行っちまうがいいさ」
背筋をピンと伸ばして返事をしたヤチに満足そうにしたガレルは、それっきり俺たちに背を向けて、最後まで振り返ろうとはしなかった。
俺を誘えなかったこと以上にヤチとの別れを惜しんでいるように見えたってのは……ま、言わないでおいてやったさ。
口に出さなくたって、きっとヤチにもそれはわかってたはずだからな。
『シバ・ゼンタ LV21+2
ネクロマンサー
HP:111+14
SP:77+13
Str:98+13
Agi:79+11
Dex:61+11
Int:1+0
Vit:67+10
Arm:62+9
Res:32+6
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV3】
【活性:LV2】+1
【心血】
【集中:LV2】
【察知:LV1】
クラススキル
【武装:LV4】+1
【召喚:LV4】
【接触:LV2】
【契約召喚】
【血の喝采】
【偽界:LV1】
【死活】New!』




