100.スキルをパワーアップさせるスキル
100話ヴァー
「クソがっ、まさか生身で空を飛べるたぁな!」
ビュンビュンと風を撒き散らして宙に浮くガレルはハッキリ言って異様だ。風魔法がここまで強力だとは思わなかったぜ。
ボートの加速力もやはり、ガレルの魔法で後押しされた結果だったのは間違いねえな。
「この状態だと加減が利かないんだ。だが可哀想に、そうさせたのはあんただよ!」
ゴウッ! とガレルがこちらへ近づいてくる。生きた嵐が突っ込んでくるみてーだ! 実際、移動に巻き込まれたドレイクはそれだけで激しく錐揉みして意識を失い落ちていく。
攻撃してるわけでもねーのにスコアを稼ぎやがるか……! いや、それよりも。奴の狙いは俺たちなんだ! どうにかしねーとマズいぞ!
「ドラッゾ! 捻り込みだ!」
「烈風魔法『ウィンドカッター』!」
飛んでくる三日月状の風の刃を、ドラッゾはどうにか受けずに済んだ。すぐ横を通り過ぎてったそれが奥のドレイクたちを真っ二つにしてるのを見て、冷や汗をかく……当たらなくてよかった。あれを食らっちゃ今度こそドラッゾが飛べなくなっちまうぜ。【察知】のスキルがいつ攻撃がくるのかを知らせてくれなけりゃ本当にそうなってただろうな。
「やるね! よく意思疎通ができている。ドラゴンゾンビとそんなことができるのは大した才能だと褒めてやりたいが……それだけじゃあアタシに勝てやしない!」
「!」
また近づいてくる。距離が詰まる。だが今のガレルは魔法の射程を計算してるんじゃない――あの顔は自分で直接決めようとしているとしか思えねえ!
「やらせるなドラッゾ! 腐食のブレスだ!」
「グラァアゥ!」
「あっ、それは――」
後ろでヤチが何かを言おうとした。
それが俺の指示を咎めるものだったってことにはすぐに気が付いたぜ。
何せガレルに向かっていったブレスは、全部Uターンするみたいにこっちへ戻ってきちまったんだからな!
「はっはぁ! そっくりお返しするよ!」
「しまった、風で息を送り返してきやがるとは……!」
「私に任せて! 『心身禊払い』!」
俺の失態をカバーしようとヤチが箒を振るい、返ってきたブレスを塵掃除のように霧散させた。それで胸を撫でおろしたのも束の間。
「轟風魔法『エアストライク』!」
「グラァア……ッ!」
ガレルの風を纏った体当たりで、ドラッゾが直にやられた。乗ってる俺たちもがくんがくんと揺れて危うく振り落とされるところだったが、なんとか耐えた。だがモロにダメージを受けたドラッゾはかなりキツそうだ。
まだなんとか飛べてはいるが、これまでの傷の蓄積もあってガレルを相手に戦闘についていけるとは思えない。
こうなったら……!
意を決した俺は、後ろに手を回してヤチの手を握った。
「ゼ、ゼンタくん……!?」
「悪い、ちっと怖いかもだが辛抱だぜ。召喚解除!」
「え? きゃあっ!」
飛行中だがドラッゾの召喚を解く。すると当然、その背に乗っている俺たちは落ちることになるが……ならすぐに召喚しなおせばいいんだ。
「【契約召喚】、『ドラゴンゾンビ』!」
「グラァウッ!」
再召喚されたドラッゾは、一度引っ込んだことで翼の傷も綺麗さっぱり消えている。疲労もないようだ。完全にやられちまう前に戻すことができればこういう芸当も可能だってことだ……ただ、また50ポイントものSPを消費したのは相当痛いけどな!
「ほーお! そんなにポンポンと呼び出せるもんなのかい!? やっぱり来訪者ってのは便利だねぇ。やり合えばやり合うほどに、是が非でもあんたをうちの船に乗せたくなってくるよ!」
「だったらこのゲームに勝ちゃいいだろ!」
「ああ、言われずとも……そうさせてもらうさ!」
「来るか……! ドラッゾ、とにかく上に飛べ!」
「グラァ!」
傷が治って(?)速度も向上しているドラッゾだが、台風状態で飛ぶガレルのほうが明らかに速いな。空を自分の庭だと言うだけのことはある……、スコアボードを見れば、奴の得点は45にまでなっていた。一方こちらは32から動いていない。
「ゼンタくん、どうするつもりなの? ガレルさんはすぐに追いついてきちゃうよ……!」
「逃げ切れやしないってのはわかってらぁ。だから迎え撃つ――【心血】を発動!」
50の消費は【SP常時回復】任せじゃ時間がかかる。今からガレルとぶつかろうってときに少量の残高でやりくりすんのは心許なさすぎるってもんだ。ここはHPを犠牲にしてでもSPを増やさなくちゃならねえ場面であり……。
そして何より度胸が求められる場面でもある。
「ヤチ。ドレイクの頭数……残りは僅かだぜ。ドラッゾと協力して早いとこ全滅させてくれ。スコアを上げさせないのには先に狩るってのが一番だからな」
「ゼンタくんは?」
「そりゃ決まってる。お前たちが狩ってる間……ガレルを足止めすんのさ」
真下から真っ直ぐドラッゾを追ってくるガレルを確かめた俺は、ヤチのリアクションを待たずに飛び降りた。
「……!」
下のガレルが意外そうな顔をする。
だが、俺が『不浄の大鎌』をこれ見よがしに構えたことで奴はニヤリと笑った。
「今から何をすっかはわかるよなぁ――逃げんなよ、ガレル!」
「誰が! あんたこそ空中でアタシに敵うと思ったら大間違いだよ!」
「んなのやってみなけりゃ、わっかんねえだろうがっ!」
落ちる最中にガレルへ向かって思いっきり大鎌を投げつける。重力も加わって結構なスピードで飛来した大鎌を、しかしガレルは風で壁を作ってあっさりと弾き飛ばしやがった。
「何やら薄気味悪い鎌だが! 当たらなければなんちゃないねぇ! このままあんたも風の餌食にしてくれよう!」
「そうはいくか……【召喚】! 来てくれ『コープスゴーレム』!」
ガレルに――いや、ガレルの纏う風に激突するというタイミングでモルグを召喚する。俺の代わりに風とぶつかったモルグはゴリゴリと表面を削られていくが、ダメージを肩代わりしてもらって俺はなんとか無事だ。
「ゴアアァッ……、」
「なんだこの魔物は!?」
「死肉のゴーレムだ、ズタボロな見た目ではあるが頑丈なやつだぜ! キョロと同じく骨がある! 肉だけどよ!」
「はっは、多芸だねぇゼンタ! けれど盾代わりに魔物を使うくらいで得意ぶってちゃ世話ないね――アタシは盾ごとまとめて吹き飛ばすまでだ!」
「!」
ゴォォォオッ! とガレルの風が勢いを増した。
「大旋風魔法……『ライジングストーム』!」
「うっ、ぐぅおおおおおおおっ!?」
「ゴァアアアアアアアアアッ!!」
とんでもねー爆発的な暴風がガレルを中心に放たれた。至近距離にいる俺たちは回避のしようもなくそれを食らう。すっぽりとモルグの背中に隠れている俺ですらも風に飛ばされそうなほどの勢いだ。
これは無理だ、モルグでも持ちっこねえぞ……!
ガレルの言葉通りにモルグ共々吹っ飛ばされちまう、と歯を噛み締めたとき……そいつは目に映った。
『レベルアップしました』
「来た……!」
クエスト中にもひとつ上がっていたが、またそろそろ上がる頃じゃねえかと思ってたんだ! ドレイク狩りの経験値とガレルからの経験値。これで俺のレベルは23になった。
見るともなくスキル一覧が目に入ってくる。【武装】で呼び出せる武器の種類が増えている。それがわかった瞬間、決めに予定していた『恨み骨髄』から新武器を使う作戦へとシフトする。
そしてそいつを決行するためには、なんとしてもここを持ち堪える必要があるが……レベルアップのおかげでHPもSPも全回復! おまけに元気も満タンだ!
これならなんだってできるぜ!
「モルグ! 悪いがぶっつけでお前に試させてもらうぜ!」
「――ゴァッ!」
風で体の前面をほとんど潰されながらもモルグはしっかりと返事をしてくれた。やっぱ根性あるぜ、こいつは!
「この状況で何を試すってぇ!?」
「見てりゃわかる! 【死活】を発動――対象はモルグだ!」
ついこの前ゲットしたばかりのこのスキルは、SPを追加で支払うものだってことくらいしかわかってねえ。
たとえば【召喚】にしろ【活性】にしろ、発動時に必要なだけのSPを消費するだけでそのあとに追加で徴収されることはない。
随時支払い型のスキルだってあるかもしれんが、俺はそんなもん持ってねえからな。
しかし【死活】は発動済みのスキルにももう一度SPをつぎ込める、らしい。
そこは理解しているが、その結果何が起こるのかってことまではまだわかってないんだ。
まさに一か八かのつもりで、消えかけのモルグへSPを追加したわけだが……効果は劇的だったぜ。
俺の手から湧いた黒いオーラに包まれた瞬間、モルグは勇ましい咆哮を上げたんだ!
「ゴォアアアァ!」
「なに!? こいつ、体が元通りに……いやそれだけじゃない! さっきよりもパワーが増している!?」
抵抗も無意味ってくらいに凄まじい風力である『ライジングストーム』に、モルグは真っ向から対抗できている。これが【死活】の効果なのか……! スキルをパワーアップさせるスキル! またSPの消費量が一段と上がっちまうが、こいつはかなり有用なスキルだぜ!
「行っけぇ! 風を突破しろ、モルグ!」
「ゴアアッ!!」
旋風の壁をこじ開けるように腕を差し込んだモルグが、強引にそこを押し広げて道を開けた。
「なっ、なんだって……!」
「よくやった! 次は俺の番だな!」
モルグの背から飛び出し、ガレルへ目掛けて落ちながら俺は【武装】を発動。
新たに装備できるようになったばかりの武器を手に握った!
「『非業の戦斧』――うっらああああ!」




