1.あなたの職業は死霊術師です
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「ってぇ~……なんだぁ?」
ぶつけたせいで痛む腰をさすりながら、辺りを見渡してみる。
「……なーんで俺はこんな洞穴なんかにいるんだ?」
――いや、マジで訳がわからねえ。
さっきまで俺は教室にいたはずなんだが。机でほとんど寝こけちゃいたが、ナガミンせんせーの声が聞こえてた。ホームルームが始まるところだったんだ。
クラスの連中だっていたはずなのに、ここには俺一人しかいねえ。
「ここはどう見たって教室じゃねえよな……何がどうなってんだいったい」
そういや、急になんかが光ったんだよな。眠ってたせいでよくわからねーけど、クラスの連中もざわざわ騒いでた気がする。
うるせーから起きようと思ったら、いきなり椅子がなくなっちまったんだ。机もな。
そんで転んで、気が付きゃここいいるってわけだ。
……やっぱ全然訳わかんねーわ。
「つーか他の奴らはどこだよ。俺しかいないってのもおかしくねーか」
ここがどこかとか、どうやって教室からここに来たのかは考えたってちっともわからんから一旦放っとくとして……ナガミンせんせーとか委員長とか、頼れそうなのを探しときたいなぁ。
あの妙な光がこうなった原因だってんなら、たぶん俺以外も全員こういう目に遭ってるだろうし。つか遭ってないと許さん。俺だけとかふざけんな。
「っ痛ぇ! あ~キッチぃ……」
一応夢じゃないか確認するためにも頬を叩いてみたけどただ痛いだけだった。
そりゃそうだよな、このリアルさはどう考えても夢じゃねーもん。まずさっきぶつけた腰だってまだいてーしよ。
「ダルいなこれマジで……つってもこうしてたって仕方ねー。誰か探しに行きますかね」
まー誰でもいいからまず見つけて、一人じゃなくなりたいよな。
洞窟の出口から見える景色はザ・森って感じだからコンビニとかはねーだろうけど……やっぱ探すとしたらせんせーかね。大人ならどうにかしてくれるだろ。たぶん。
「あーあ。俺もスマホとか持ってりゃなあ」
なんて愚痴りながら立ち上がる。すると、目の前に何かが見えた。
見えたっつーか、浮かび上がったっつーか。立体映像って言えばいいのか? パソコンの画面だけ切り取ったみたいな半透明の板が出てきた。
「はっ?」
いやびびったわ、なんだこれいきなり。
どこからどうやって映してんだよこれ?
しかもなんか文字書いてあるし……どれどれ、えーっと?
『あなたの職業は死霊術師です』
『さあ、冒険の始まりだ!』
「……ふざけてんのか、これ」
意味わかんねー。まるでゲームみたいな文章だってことしか理解できん。
と思いながら眺めてるとネクロマンサーって書かれてる部分が点滅してることに気付いた。なんだ、押せばいいのかコレ?
「ならぽちっと」
『【死霊術師】:死霊術を操る、生よりも死を尊ぶ異端者。あなたは何より死に近く、死に遠い者となるだろう』
「…………」
今度は死霊術のところが光ってんな。
こっちもぽちっと。
『【死霊術】:彷徨える魂を支配する慈悲と冒涜の忌まわしき術。心までは操れない』
「悪役じゃねコレ?」
んだよ、かっこよさげな響きなのにめちゃ悪っぽいなネクロマンサーって。
俺の職業がネクロマンサーってことなの? はあ、まあいいっすけど。別になんでも。
「そっちよりもこのウィンドウが超不気味だぜ……ヤベーだろこれ。どうなってんの?」
操作できるのとかパねえわ、こんな技術があったのか。
だけど画面全体は触れないんだよな、腕がすり抜けちまう。
これ、マジSFじゃん。
SFよく知らんけども。
「ん……『ステータス』?」
画面の隅っこにそんな文字があって、しかも押せそうだ。だからまあ押すよな、普通。そ
したら画面にはこんな表記が出た。
『シバ・ゼンタ LV1
ネクロマンサー
HP:20(MAX)
SP:5(MAX)
Str:15
Agi:8
Dex:5
Int:1
Vit:12
Arm:7
Res:4』
「いやわからんわからん」
HPとSPはわかる。
体力と、たぶんスキルポイントとかだろ?
それとLVってのがレベルだってのもわかる。
だけど他の英語の意味がさっぱりだ。数字出されてもこれじゃ意味不だわ。
唯一想像のつくHPとSPは数字だけじゃなくて緑色のバーもあって親切設計だってのに、他が不親切すぎねー?
ステータスならあれだ、『力』とか『こうげき』とか、そういうわかりやすいので出してくんねーとわかんねーよ。俺RPGとかって皆で共用のやつを何個かしかやったことねーんだわ。
「ちんぷんかんぷんだが……こっちも見ねえわけにはいかねえよなぁ?」
ステータスの下にある習得スキルって文字を俺は見逃してねえ。ここも押せそうだから、押してみる。
すると。
『スキル
【悪運】
クラススキル
【武装:LV1】』
「あら、こんだけ……」
SPなんてのがあるからなんか、技とか魔法とか書かれてるんじゃねーかと思ったんだが、どうもそんな感じじゃないな。
でも【武装】ってのはちょっとそれっぽいか?
また押してみると、やっぱ説明が出た。
『【武装】:職業に応じた武器・防具を呼び出す。忘れてはならない。それはあなたを守るものであり、人を害するものでもある』
「ほー。ネクロマンサーの武器ってのはどんなだ?」
あ、下に解放武器ってあったわ。
『選択可能:【肉切骨】』
選択可能っつっても選択肢一個じゃ寂しーなこれ。
これはあれか、スキルのレベルが1だから呼べるのもひとつしかねーってことなのか。
とりあえず、この肉切骨とかいうのがどんなもんか知りてーな。
ほいぽちっとな。
『【肉切骨】:人骨で出来た短刀。そう作られたのか、ただそうなったのか。鋭利だが切れ味はあまりよくない』
「えぇ……」
人骨て。
それがネクロマンサーに応じた武器なの?
やっぱめっちゃ悪役のクラスじゃんかこれ……。しかも切れ味までよくないとか、なんか弱そーだしよ。
イメージ最悪で使い勝手も悪いとかありえねえだろ。
「使ってみないとわからんか……でもどうやったら呼び出せんだ? その説明がないとかないわ」
肉切骨の部分を何度押しても文章が出たり消えたりするだけだ。操作して呼ぶわけじゃないのか? じゃあどうすりゃいいんだ。
わからんから、とりまなんか武器的なもんが出てくるように念じてみる。これでなんも起こらんかったらアホみたいになっちまうが――と思ったら出てきてくれたわ。
俺の右手に、白いナイフが。ナイフっつーか、鍔がないからドスみてーだけど。
「おー……マジで出ちゃったよ」
これもう、完全に決まりだな。
やっぱゲームだわ。
スキル使ったからSPバーが視界に出てきて半分以下になったし。
こんなのもうゲームで決まりだわ。
「つかこれだけでSPほぼからっけつかよ。難易度的にはけっこうシビアだな?」
しかもバー表記のせいで具体的な数字がわかんねーじゃねーか。ステータス画面に戻ってみたけど、そっちにも現在の数字は出てねぇ。
うげ、これ最大値しかわかんねー仕様かよ。
割と説明は丁寧なのになんでこー細かい部分で不親切なんだよ。
「えーっと? マックスで5だから、肉切骨を出すので3ポイントくらい消費したって感じか」
レベルアップしてSPの上限が増えないとキッツいなこれ。
まー現状、他に使いたいスキルもねーし……じゃねえ、確かあったわもう一個。
「えーっと、そうだこれ。【悪運】とかいうのだ」
片手に骨のナイフを握ったままもっかい画面を操作して、悪運の部分をぽちっと。
『【悪運】:若くして命を落としながらも名を残した者の多くは、天命にも与せぬ無為なる悪運にその生を支配されていたという』
「はぁああっ?」
なんじゃこりゃ。悪運に人生が支配されるって……じゃあそれがスキルにある俺は、要するに早死にするぞって言いてーのか?
こんなクソ占いの気分よくねー文章を誰が読みたいっつったよ。
つーかまずこれのどこがスキルなんですかね。
なんもできないじゃんか。
「SPを使うようなもんじゃねえのは幸いか……? いやそんなことねーな。ゲームとして考えたら、ポイントかつかつでも有用なスキルだったほうがいいに決まってらぁ」
やれやれ、と他に押せそうなところももうないので画面を消した。
「グルル……」
お、画面消すと音が鳴るのか。
なーんか獣の唸り声っぽくて趣味わりーなぁ……って、んなわきゃないよな。
声が聞こえたのは俺の後ろのほうからだ。洞穴の出口ばっか見ていた俺は、自分の背後への注意が疎かになっていた。
イヤな予感に従って、恐る恐る、ゆっくりと振り返って確かめてみると――。
「グラァアッ!!」
「うぎゃああ!!」
でけえ熊! が! 俺に向かって猛ダッシュしてきやがった!!
死んだわこれ!