絶望からの成り上がり
「お疲れ様でしたー」
バイトが終わり1日の疲れがどっと襲ってくる。
「はいはい〜お疲れ様です。木山くん筋いいね。」
コンビニのバイトは楽しい。先輩可愛いし、
15分休憩の賄もある。
人生初のバイトがコンビニでよかった。コミュ障を治すために始めたバイトだが、このまま上手くいくといいな。心からそう思えた。だから、
「ありがとうございます、明日も頑張ります!」
みなとは休憩スペースに響くほどの大きな声で
感謝を伝えた。先輩はにこやかに「うん、また。」そう2人で笑いあった。
そうして一日の反省と明日への期待を込めて帰路に足を踏み入れた。はずだった。
先輩と別れてしばらく歩き暗くなった住宅街に差し掛かる。突然後ろからの重圧を感じて前に倒れ込む。
「な……んだ……?」
力が入らない。
背中に熱くて鋭いものを感じる。それはやがて
激しい痛みに変わって
「……ッ」
口の中が鉄の味がする。
血だ。今自分は誰かに刺されている。
逆流してくる血を手をつき吐き出して、立ち上がろうとした体勢が
再度崩れる。みなとは危機感と絶望で立つことを諦めた。
もう終わりなのだと──
涙と血で視界が不安定な上、背中に何か刺さっている。もう頬まで血溜まりが広がっていた。
血溜まりが光って街灯に照らされている。
やっと気づいた。俺は死ぬ。
それなのに幻聴なのか
『死ぬんだね。』
空っぽの頭の中に誰かの声が聞こえた。聞き覚えのない声、慈しむような声、それでいて少し凛としたような
「……に……ぁ……く……ぃ……っ……」
自分にはもう聞こえない自分の声で言った。
唇をかみ締め
拳を固く握り
段々力が抜けていくことに怖気が湧き
ただひたすらに死にたくないと
『そうかそうか、悪くない。きーめたぁ』
何も見えない聞こえない。声も出なくて匂いも感じない。なのにはっきりと
『名前は、なんて言うの〜?』
聞き覚えのない声が入ってくる。
返答は出来ない。
『あぁ喋れないのか、可哀想に〜』
その声以外何も感じない。
何分経った?ここはどこ?この声の正体は?
気づけば音は聞こえず体は楽になっている。
何が起きた?なぜ視界は機能してない?
「そもそもどうして俺は……」
「ふむふむどうして俺は『死んだのか』かね?」
「は……?え……?」
白髪、銀髪って言うのか。
雪のように白く長い髪の少女が立っている。
白い布を纏い
吸い込まれそうな青い眼をした少女。
そして自分も相対し、水面に立っている。
浮いているのだろうか。
「今、チーの髪を見て白髪って思ったでしょ。
失礼な人〜」
「え、いや……君は」
「んふふ、可愛いだなんてぇ嬉しいなぁ」
少女は距離を詰め、みなとの左肩に手をかける。
「君はやり直すべきだっ」
少女が満面の笑みで言った瞬間
体は後方に飛んだ。
視界がぐらつき、船酔いのような感覚に襲われる。
また死ぬのか。
口元が緩み思わず笑ってしまった。
頭の中で少女が満足そうに腕を組んでいる。
それが少し心地よくて
今度は自分から瞼を閉じた。
ゆっくりと、消えるように。
『君にチャンスをあげるよ』
これはあの子の声だ。
『もう一度死ぬためのチャンスをね』
優しい声。
『チーの名前はチーだよ。君を死なせるための天使』
あるはずの無い指先に土を感じる。
『んふふ愛してる』
あぁ俺は
「嫌いだぁぁぁっ!」
叫び起き上がると涙が出ていた。
辺りは草原
そして木に横たわっていたらしい
動こうとすると痛みを感じた。
どうやらみなとは長い時間ここで寝ていた。
と考えられる。
「ひ、ひゃあ」
また聞き覚えのない声が聞こえた。
肝心な目の前をみていなかったみなとは
顔を上げると、そこには
女子高生が立っていた。