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過去の記憶


朝目覚めると、両側に柔らかな物体がいる。パジャマを着て寝たはずが、全裸なのはどういう訳だ?首を左右に振ると、沙綾と凛子が全裸で安眠していた。アレの無事を確認すると、凛子の体内にあるらしい。なんで、こうなった?


昨晩は、女子会ってことで、俺は先に寝たはずなのだが…昨日の失敗をしないように、慎重に凛子を外し、俺は寝床から脱出して、シャワーを浴び、三人分の朝飯と、三人分の弁当を作り始めた。調理が終わった後、ごみ箱を覗くと、妹からの差し入れの酒瓶が、空になって捨ててあった。二人で飲み切ったのか。まぁ、いいけど。俺、日本酒党だし。


朝飯の配膳が終わった頃、ようやく二人が起き出してきた。


「おはよう…」


「おはよう!」


低血圧気味の沙綾、朝からハイテンションな凛子。なぜ二人共、全裸で食卓に来たのだ?凛子はともかく、せめて沙綾だけは服を着て来そうなものだが。


「シャワーを浴びて、服を着ろ!朝飯はその後だ」


俺の言葉で、はっとして、自分の身体を見て固まる沙綾。


「え…なんで…全裸?」


なぜ、疑問形なんだ?俺が訊きたい。って、今、気づいたのか?


「サーヤ、シャワー浴びてこようよ。お腹減ったしぃ~」


固まった沙綾を連れて、シャワーを浴びに行く凛子。海外生活があると、全裸でも問題は無いのか?妹の帰国したら、あぁなるのか?少し不安になる。女子高の男性教師の家に裸族の女性が多数いるなんて、シャレにならないだろうに。






---牧之原沙綾---


職場に来ることはできたが、仕事が手につかない。昨夜のことを思い返してみる。リンは先に寝た。リンが寝た後、凛子と二人で女子会を始めたんだ。ツマミを探しにキッチンへ…そこでダンヒルのウィスキーを見つけて…


あの酒がやばかったのかもしれない。鍋を囲んで、昔話に花が咲いた。いや、思い出したくない昔話だったけど…凛子も私も…


「なんで、突然、転校したのさぁ~!リンはショックを受けていたよ~」


絡み酒では無いが、気になっていたこと、凛子の青天の霹靂クラスの転校話の真相を聞きだそうとした。小学4年の時、前日はいつもと変わらずに別れたのに、翌日には転校していた佐藤凛子。その事実を知り、固まっていたリン。あの時、私はリンに掛かる言葉が浮かばなかった。私もショックを受けていたから。


「苛めに遭っていたから…」


悲しそうな顔をする凛子。


「鴨志田正義…」


凛子の口から聞きたくない名前が漏れた。クラスの、いや地区内でのガキ大将で、遣りたいように、自由気ままにしていた。先生達もお巡りさんも、アイツの後ろ盾への忖度から、何も注意をせずに、見て見ぬ行為を繰り返していた。


「学校ではリンが守っていたはずだよね?まさか、家にまで押し掛けて?」


あり得ない仮定の問いに、頷く凛子。アイツ、凛子の家に押しかけて、何かしたのか?鴨志田正義…あの当時、県知事をしていた鴨志田正志の次男である。『俺が正義だ』と、親の権力を使い、悪さを尽くした極悪小学生である。ちなみに、アイツの名前は『せいぎ』では無く、『まさよし』なんだが…


「そのことで、母さんが、アイツの父親に文句を言いに行ってね。あいつの父親に見初められて…愛人にされたの。その上で、愛人を自宅のあるエリアに住まわすことはできないって、その日のうちに、拉致されて、愛人宅に軟禁されていたの」


ミイラ取りがミイラかぁ?あの親子は揃ってひどいなぁ。


「そんな生活が嫌で、あいつの父親に直談判して、海外への留学をさせてもらった。で、向こうでスカウトされて、デビューしたんだよ」


それは凛子にとって良かったのか?


「リンちゃんのお母さんはどうなったの?」


凛子は逃げられたが、母親は…


「私とは一緒に住めなかったけど、幸せのうちに永眠したの。母さんに聞いた話だと、アイツから私たち親子を守る為に、義父はあぁいうことを、してくれたって」


父親は真面だったのか。あそこの長男は、次男と違い、人格が優れているし。因みに鴨志田長男は現在、国会議員になり、私の父が後援会の会長をしている。


「それよりも、ベル君のこと!」


今度は凛子が、私に迫ってきた。一緒に寝たらバレるよな。


「なんで、右手が義手なの?なんで、左の拳はボロボロなの?」


牧之原学園の医学部と理工学部を含む、牧之原グループの総力を結集して造った、リンの義手。牧之原家として、リンには多大な恩を受けていた。いや、我が家だけではない。ほかにも数名が、リンからの受けた恩を忘れていない。


「中学時代に事故に遭ったんだよね?歩美ちゃんに聞いたんだけど…それにしては酷い怪我だよね?まるで、何かを戦ったような」


心配そうに私を見つめる凛子。いや、あれは事故ではない…あれは…


「小学校の卒業式の日に、私たちを守ろうとして、リンはたった一人で、ケダモノ達と戦ってくれたんだよ」


一瞬にして固まる凛子。心が痛い…体の奥底が痛い。


「リンは中学に入学していない。高校は通信制だよ」


リンは中学生になっていない。その3年間は病院にいたのだ。



小学校を卒業した日…謝恩会を開くと、割と真面目な生徒が言い出し、担任の先生も送り出してくれた。何故か、リンだけは担任の先生に用を伝えられて、後から来る事になったけど。今、考えると、あの時に気づくべきだった。


会場はまともなホテルの宴会場で、鴨志田達はいなかった。そんなことで、心に油断が出来たのかもしれない。乾杯の音頭と共に、グラスに入ったジュースを飲む。だけど、数分後、身体に異変が襲い掛かってきた。意識が朦朧とし、身体が上手く動かせなくなっていく。周囲の女子達だけが…


「さて、童貞卒業パーティーを始めようか。正義の味方もどきの鈴太郎は、ここにいない。肉便器共には脱法ドラッグを飲ませてある」


薄れゆく意識にアイツの声が聞こえた。逃げないと…だけど、アイツに捕まった。


「牧之原沙綾と小泉玲奈は俺の便器だ。ヤロウ共よ!他は自由にしろ。パーティーの開幕だ」


アイツに抱かれながら、意識は消えていった。



意識が戻ると、病院のベッドの上にいた。父を含む病院のスタッフ達に見守られていた。


「お父さん?」


「沙綾…意識が戻ったんだな。良かった…」


初めて見る父の涙…スタッフの皆さんも涙を流していた。


「私…どうしたの?」


記憶が曖昧だった。記憶が思い出せなかった。そんな私の問いに誰も答えてくれなかった。


「確か…謝恩会に行って…」


断片的に思い出す過去の記憶。腕に注射を打たれると、意識が朦朧としていく。


「もう少し、眠りなさい」


睡眠薬を打たれたようだった。



どれくらい眠っただろうか?病室にはテレビもカレンダーも新聞もなかった。まるで、外部からの情報を遮断するような感じだった。病室で安静に過ごす日々が続く。毎日、両親がお見舞いにきてくれた。祖父母も割と来てくれた気がする。だけど、リンが来てくれなかった。なんで、来てくれないんだ?失われた記憶の中で、私が何かをして、私を嫌いになったのだろうか?リンと逢えない毎日、とても不安でしょうがない。


私のいるのは、普通の個室で、無菌室とかでは無い。私の容態だって、絶対安静って程では無いし。リンが来ない理由が分からない。


「父さん、リンはどうしているの?なんで来てくれないの?」


疑問という不安を父にぶつけてみた。


「あぁ…彼かぁ…」


顔を伏せて、涙ぐんでいる父。なんで、リンのことで涙を流すの?まさか、死んだとか?


「ねぇ、リンは生きているの?ねぇ、お父さん」


満足に動かない身体にムチ打って、父の腕に自分の手を伸ばし、縋ろうとした。だけど、そこまで腕が動かない。なんでだ?私の身体!どうしたのよ~!!


「未だに意識が戻らないんだ」


意識が戻らない?なんで?どうして?


「リンはどうしたのよ!」


「マズイ!!鎮静剤を頼む」


傍にいたナースに指示を飛ばす父。意識がまどろんでいく。



身体の自由が少し解放された頃、父により病室から連れ出された。自力歩行が出来無い為、車椅子に乗り、父が押してくれた。連れて行かれたのは、ICUであった。ICUの個室にリンが横たわっていた。頭に包帯を巻き、色々なチューブがリンに取り付けられ、色々な機械に取り囲まれていた。


「どういうこと?」


「彼の行った行為により、お前が今ここにいるんだ」


父から聞いた謝恩会での顛末…何かがおかしいと気づいたリンは、父に連絡をし、謝恩会の会場を知らせ、自ら会場に乗り込んだそうだ。父達が到着するまでの時間稼ぎをしようとしたらしい。先生もお巡りさんも信用出来無いリンにとって、私の父は信用に値したのだろう。


父は信用出来る刑事さん達と会場に乗り込むと、血だまりがいくつもあり、全身血まみれになっていたリンを見つけたそうだ。リンは私と玲奈を背中に隠し、佇んでいたそうだ。まるで、私達を何かから護る様に…そんなリンの目の前には、鉄パイプを持った男子達が転がっていた。父がリンに声を掛けると、


「ごめんなさい…間に合わなかったです」


と、詫びるような声を漏らし、その場で崩れるように倒れたそうだ。


会場には、鴨志田正義の姿は無く、会場にいた男子達は、全員伸されていた。後の供述で、リンが殴ったことが原因で、男子達の親たちはリンを傷害および殺人未遂で訴えたそうだ。だけど、刑事さん達の的確な捜査で、逆に伸された男子全員はお縄になった。私達女子への暴行および、薬物使用の痕跡を見つけたそうだ。そもそも、リン以外、男子も女子も全員全裸で、女子の体内から、大量の精子を採取し、DNA検査により、誰が誰を喰ったのかまで、判明したという。


因みに、私と玲奈は鴨志田正義に喰われたそうだ。初めてがリンじゃ無いなんて…許せない。


リンは病院へ最優先で搬送され、治療を開始したそうなんだけど、鉄パイプで何度も殴打されたのか、頭蓋骨骨折の上、脳は腫れて、右腕の骨は再建不可能な位に粉砕されていたそうだ。左の拳で殴り続けたのか、骨は無事だったものの、肉が裂ける程の重傷だったらしい。


「父さん、女子はみんな無事なの?」


少し考え込み、しばらくすると重い口を開いた。


「全員、処女は喪失し、小泉玲奈さんは妊娠してしまった」


玲奈だけは運悪く、膣洗浄のかいもなく、受精してしまったらしい。


「アイツは、どうなったの?」


主犯のその後は知りたい。極刑を与えて欲しい。


「行方不明だ。警察庁が全国指名手配にしてくれた。これ以上、被害を増やさない為にね。少年犯罪にしては、遣ったことは重すぎる罪と思う。沙綾達に脱法ドラッグを複数使い、助けに来た鈴太郎君をリンチにするなんて…」


怒りで震えているのだろうか、父の手を通じて、車椅子が震えている。


「鈴太郎は生きられるの?」


今、一番知りたいことを訊いた。


「頭蓋骨はチタン製、右腕は義手になる。人並みに生きるのは難しいだろうが、生きていくことは出来る」


そうか…


後日知ったのは、見た目は人間の腕と変わらない特殊な義手で、未認可医療品扱いで、リン専用な為、自動車免許は取れないそうだ。改良を重ねているとはいえ、衝撃には弱く、運動もダメで、自転車すら禁止にしてあるという、日常生活に不自由過ぎる身体になっていたリン。


「リンの傍にいて、支えたい」


父の方へ振り返らず、リンを見つめながら宣言する。


「それは、私達もだよ。彼がいなければ、沙綾達はどこかに連れて行かれ、飼われていたかもしれない」


救出された私達の首には、ペット人間用、所謂性奴隷用の首輪が嵌められていたそうだ。



「アイツ、ベル君やリンにまで、そんな酷いことをしたの…」


凛子の目からはポロポロと涙がこぼれていた。


「多分、歩美ちゃんには、真実を伝えていないんだろうね」


事実を知れば、ブラコン気味の歩美のことだ。一人で帰国しかねないし。


「そうか…じゃ、私が傍にいて、一生面倒をみようかな」


凛子が爆弾を投げつけてきた。


「それは、私の役目ですから、休養が終わったら、復帰しなさいよ」


「復帰しても、一緒にいても大丈夫だよ。私の海外公演中は、サーヤにまかせるからさぁ」


それは魅力的な提案だ。私一人では、リンをつなぎ止める自信は無いし。


「で、男性恐怖症だったりする?」


頷く私。あんな目に遭ったのだ。全裸で首輪状態で救出された私。祖父と父とリン以外、気を許せないと思う。


「じゃ、これから、リンとしようよ」


へ?する?リンと?何を?


ヨッパな私は凛子に言われるがまま、全裸になり、リンと…そうだ、今朝全裸で目覚めたのは…リンとしたからだ。リンはあの事件以来、爆睡派であって、多少のことでは起きなくて…いや、彼のアレは元気いっぱいだった。脳とリンクしていないのか?男体の神秘だな。その真実は、誰にも訊けそうもないけど。


やっと、今朝の全裸事件の真相を思い出した。そんな矢先に、凛子から連絡が来た。


『ねぇ…ベル君の子供を名乗る女子中学生が目の前にいるんだけど…』


怖い物を見た時のように、凛子の声は震えていた。あぁ~、そうだ!話して置かなかった。


「今から行くから、二人でリビングで待っていなさい」


凛子に話して置かないとなぁ。って、26歳で中学生の子供が居るって、不自然だよなぁ。






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