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再会



金曜日の夜の楽しみ…二日酔いで勤務出来無い仕事の為、金曜日は帰宅途中で、自宅の近所にある赤提灯へ行く。今日もいつも通りに店に入ろうとすると、俺の好みにドストライクの女性に声を掛けられた。黒くて長い髪で、どことなく可愛い雰囲気、そして、Cカップくらいも膨らみ…


「ベルくんだよね?」


鈴木鈴太郎…俺の名前である。そのため、『リン』とか『リンリン』とか呼ばれるのだが、俺のことを『ベル』と呼ぶのは限られる。記憶によると一人…佐藤凛子、愛称『リン』である。愛称が被る為、俺を『ベル』と呼んでいた記憶がある。


「凛子か?」


ダメ元で訊いてみた。


「ウンウン」


笑顔で頷く凛子。コイツとは保育園から小学校4年くらいまで一緒のクラスで、確か小学校4年の時に、引っ越したはずである。なので、面影とか…女性は中学、高校、大学の3段階で化けるからなぁ。面影が薄らとあるような、無いような。


「よく俺って分かったな」


そう考えると、俺は小学校4年の時から変わらないのだろうか?


「うん?リアルでアホ毛の有るのって、ベル君以外見た事がないけど…気づいていないの?」


面と向かって、アホ毛持ちって言われたのは初めてである。まぁ、陰口では聞いたことはあるが。


「で、何?」


「取り敢えず、奢ってね」


俺の腕に抱きつき、一緒に暖簾をくぐり、店内へと。俺はいつものカウンター席を陣取ると、凛子は隣に座った。店内は年季を感じる汚さである。デート向きでは無い、だけど…俺はこういう雰囲気が好きだ。長年の油煙により、どことなくベト付いた柱やカウンターの天然木材。今も、串焼きの煙がうっすら店内に籠もっているし。


「珍しいな。友人と一緒とは…まして、女性って…」


カウンターの向こうにいる大将に言われた。確かに、俺は一人で飲むのが好きなので、ここには一人でいつも来ている。いや、呑む時は一人が基本である。自分のペースで呑み、食べられる。ここに幸せの基準を置いているのだ。


「まぁ、そんな日もあるさ。俺はいつものな。凛子はどうする?」


「いつものって?」


「レバタレ、シロタレ、カシラ塩に、煮込み豆腐、冷や、漬物だ」


「なるほど…じゃ、私はビール小ジョッキで同じでお願いします」


「あいよ」


手慣れた手つきで大将は、鍋から煮込み豆腐を皿に盛り付け、ぬか漬けを小口切りにして小鉢に盛り付けて、俺達の前に置き、串を焼き始めた。


「この味だよね?」


笑顔で頷きながら煮込み豆腐を食べる凛子。そういえば、小学校の時、下校時に、二人でここに寄って、前日の残った煮込みと、レバタレを一本ずつ奢ってもらっていたっけ。


「あぁ、あの時の鈴太郎のガールフレンドかぁ」


大将も思い出したようだ。あの時は先代の大将であったが、仕込みを現在の大将が手伝っていたなぁ。


「あの時はありがとうがざいました。毎日学校へ行くのが楽しかったです」


昔話をツマミに加え、一杯飲み、お勘定…そして一緒に、店の外へと出た。


「で、何しに来たの?」


小学校4年以来のはずだ。俺の記憶に間違いが無く、凛子が俺のストーカーで無ければ。


「ベル君に会いにだよ。この街には、大将とベル君しか知り合いがいないし」


まぁ、俺も似たような者だ。大将しか知り合いがいないし。


「ベル君の家に泊めてよ」


俺の腕に抱きついている凛子。俺の腕が柔らかい何かに挟まれている。こんな目に遭うのも良いものだ。そして、凛子を家にお持ち帰りをした。



朝…気持ちが良い朝を迎えた。物理的に…えっ?物理的に?どうして?


周囲を確認すると、全裸の女性と全裸の俺は抱き合っていた。勿論突起物は入る場所に入っている。そして、朝の生理現象中である。


「ベル君…朝から元気だよね?」


耳に生暖かい息と声が届いた。その刺激で、ますます元気になっていく。


「男の朝はこんな物だよ」


うっ!久しぶりの感触に浸っていた為、油断してしまった。


「ふふふ、出来たら、責任取ってね。あぁ出来無くてもいいけど」


どっちにしても責任を取らすらしい。まぁ、凛子ならいいか。幸い、俺のドストライクで、初恋相手だし。


「ベル君は、何の仕事をしているの?」


「学校の先生…」


「はぁ?ヒッキーとかヒモを夢見ていたのでは?」


確かに、そんな夢を子供心に思い描いていた時期はあったが、俺はボッチでいるのが好きなだけと言うか。好きな人と一緒なら尚良いだけだし。大人になり現実を考えると、引き籠もり生活は魅力もあるが、一人暮らしでそれだと餓死確定、ヒモは彼女がいて成り立つ職業で、ボッチには無縁であった。


「女子高だよ。教科はIT系だ」


JKは目の保養になる。手を出すとマズイが、校長曰く、目の保養だけならセーフらしい。


「そういう、凛子は?」


「テレビ見てないの?」


「うちにはテレビが無い」


PCのモニタを見る時間が長いので、テレビなんか見ている暇も無いし、眼精疲労で眼底が痛いし。


「じゃ、ネットニュースは?」


「俺はプログラマーだ。ネットにはあまり繋がない」


メールがあれば、連絡できるし。学校のPCで変なページを見て、ヤバいヤツを仕込まれたら問題である。


「世捨て人?」


「捨てたら、学校の先生はしないと思う」


「何があったの?」


心配そうに俺を見つめる凛子。


「中学時代に虐めにあって、空気の類いにされた。だから、こっちからモブになって、存在を薄くした結果だ」


正確には、小学校の卒業の日である。俺がこんな事になったのは。


「そっか…」


凛子が俺を抱き締めて来た。柔らかな膨らみが…今日2発目のトマホークが発射準備を始めた。



一緒にシャワーを浴び、服に着替えて、一緒に朝食を取った後、スマホでネットニュースを二人で見た。そこで、『クリアボイスの歌姫、休養宣言』と言う記事を読まされた。だから、どうした?


「この歌姫が私なのよ!」


と、笑顔で言われた。歌姫なのか…


「まさか、ここで休養するのか?」


姫なら、城で休養すれば良いのに。


「出来ちゃった婚した後に復帰したら、センセーショナルかな?いや、話題性たっぷりかな?」


おい…笑顔で、何を言っているんだ?俺の職場での立場はどうなるんだ?


「あぁ、言い忘れたけど、昨日も今日も受け入れオーケーの日なのよ」


嬉しそうな声で、俺に宣言した。オーケーって、安全でオーケーなのか、受精オーケーなのか、意味合いが大いに異なる。


「安全日?」


「うん、受精が問題無く行われる日よ」


それは、世間一般で危険日と言わないか?


「そうか…ベル君との間に子供かぁ~」


感慨深く呟く凛子。う~ん…まだ、出来たとは限らない。俺がタネ無しかもしれないし。


「私と結婚すれば、ヒモでもいいのよ。ヒッキーでもいいよ。この先、印税で暮らせるから」


それは、アピールポイントが高いぞ。ヒモ生活か…ヒッキーか…子供の頃の夢ではある。


「休養って、どの位するんだ?」


「高校へ行かずに、10年間バリバリ働いたから、人生に疲れたって言うか。そうね~、人生が楽しくなったら、活動を再開するかも」


無期限か?25で人生が疲れたって…あと、その倍は生きるんだろうに。大丈夫か、コイツ。


「クリスマスシーズンは毎年、ディナーショーをする契約だから、休養って言っても、年3ヶ月ほど仕事をするんだよ」


年3ヶ月働いても貰うだけで、ヒモが出来るのか…ヒッキーでもいいのか…魅力的な提案である。


「ヒモと言っても、子育て、家事はベル君に任せるからね。ヒッキーなら問題は無いよね?」


それはヒモ生活ではなく、専業主夫生活では無いか?う~ん…まぁ、家から出なくて良いのは魅力である。


「まぁ、出来たら考えよう。想像妊娠は禁止だぞ」


「もちろんよ。出来るまで添い寝するから問題無いし」


抱き枕が増えたと思うことにしよう。性欲魔人になると、俺の仕事に差し障りが出そうだし。ちょっと待て…出来るまで居るつもりか…



俺の住処は一軒家である。両親の海外赴任に伴い、妹も海外に住んでいて、俺は家守として、この家に住む権利を得たのだ。でなかったら、どこにのアパート住まいだったろう。その場合、凛子とは再会出来無かったかもだ。幸運な出会いだったのか?


「そうだ、そうだ。これを渡さないと…」


キャリングケースからダンヒルオールドマスターを取り出した。あのダンヒルが販売しているスコッチウィスキーであるのだが、イギリス土産か?


「半年前に、ロンドン公演したの。その時、歩美ちゃんが楽屋に来てくれてね、これを託されたのよ」


歩美は俺の妹である。よくよく聞くと、妹と凛子はメル友らしい。凛子がロンドンやパリで公演するときに、楽屋に良く遊びに行くそうだ。


「歩美ちゃんにね、休養するなら、ベル君を頼むって言われたんだよ~」


甘えるように言い、俺に甘えるように抱きついて来た凛子。う~ん、そういう理由か…コイツが俺に再会したのは…偶然では無く…感動を返せぇぇぇぇ~!


「歩美ちゃんから、色々聞いているわよ」


まさか、副業がばれているのか。それとも…


「女子高の教師しながら、ラノベ作家って…本業はネタ探しなの?」


バレていた。確かにしがないラノベ作家である。『JKの日常』なるラノベが割と売れていたりする。


「後、作曲もしているんだって?」


それもバラしたのか。ヒモ生活が無理な場合の為の保険である。作家も作曲家も、引きこもりでも、出来る仕事だ。売れて、マネージャを雇えば、食い物系の買い物を頼めるしねぇ。餓死予防策と考えている。


「ねぇ、私に1曲書いてくれない?」


その時の凛子の目はやたらに真剣であった。



そして、週が明けて、月曜日。仕事へ出掛ける。自分のお弁当を作り、凛子の為の昼飯用の弁当も作って、家を出た。幸い料理は苦では無い。月曜の朝の朝礼がつらい。なんで、朝礼なんかあるんだ。ホームルームでいいじゃないか。担任を受け持っていない俺は、重役出勤したい。


朝礼が終わり、自分の教務室に向かい、授業の準備をする。俺の教務室は、IT実習室の隣にあり、授業で使うサーバーと学校内ネットのサーバーが置いてある。まずは、正常かどうかを確かめていく。土日のログをチェックして、エラーの無いことを確認して、実習室の端末を起動していく。


端末は生徒一人に一台が割り当てられ、ネットの使い方から簡単なプログラミングを教えるのが、教務としての俺の仕事である。俺は、教務室からマイクを通じ、授業を行っている。生徒の前に出ないでも良いのだ。一説に拠ると、生徒との接触禁止処置とも言え無くも無い。まぁ、俺的には問題ない。基本ボッチ系だし。


教務で無い仕事もある。この学校内のセキュリティーの構築および保守とか、学校内ネット上に虐めの兆候が無いかを調べるのも仕事である。仕事量が多い。だから、担任は受け持たないで良いと言われている。これも生徒の接触禁止処置かもな。


「月曜の朝から怠そうね」


俺の雇い主で、この女子高の校長である牧之原沙綾が声を掛けてきた。この女子高は、保育園から大学院までを網羅する牧之原学園の一部であり、沙綾は学長の孫で、俺の保育園、幼稚園、小学校、高校時代のクラスメイトだったりする。


「幼なじみが休養するって、俺の家に転がり込んだんだよ」


「ふ~ん。リンに私以外の幼なじみがいたの?」


「いたようだよ」


あれ?こいつも凛子のことを知っていたような。幼稚園、小学校が同じだったし。


「なぁ、佐藤凛子って、覚えているか?」


「リンリン?小4で転校しちゃった子だっけ?」


「そうそう」


俺の返答を聞き、眉間に皺を作る沙綾。


「どうして、リンリンの話をするの?まさか…リンの家に転がりこんだのって…」


「そんな感じ」


「不純異性行為および交際は認めません。追い出しなさい!女子高の教師という自覚が薄いのね、まったく…」


沙綾の理論で行くと、女子高の教師は、恋愛結婚出来無い気がするのだが。


「で、リンリンは今何をしているの?ヤンキー?フリーター?」


スマホを取り出し、現状の凛子の姿を見せた。勿論、服は着ている。


「これって…リンドバームのリンドウじゃない。まさか、あの歌姫が、リンリンなの…サインを明日持って来なさい」


「今日、一緒に来ればいいだろ?もし、来るなら、鍋にするぞ」


沙綾は俺の調理する鍋が大好物である。


「オニオンキャロットのドレッシングを添えたサラダがいいなぁ」


「わかった」



夕食の買い物を済ませ、沙綾の車で帰宅した。


「おかえり…あれ?サーヤ?」


玄関で凛子が俺達を出迎えた。凛子は沙綾のことを覚えているようだ。


「リンリン?」


目を見開いて驚いている沙綾。俺は、感動の再会場面の横を通り抜け、食材と共にキッチンへと向かった。まず、鍋の準備だな。ダシをとらないとなぁ。






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