淀み
グラスについた水滴が、僕の指に移り、僕はそれを口に含んだ。少し酒の味を感じたが、それは僕の口に元からあった味だった。目の前にあったナッツを食べたが、気分が悪いことを再認識しただけだった。早く家に帰りたいと思ったが、僕の体は重く、立ち上がることも面倒だった。バーテンダーが、僕のことを冷たい目で見ている。お前にはなりたくない、とでも言いたげな目だった。僕だって、僕でいたいわけじゃない、けれど仕方ないじゃないか。僕はグラスに残っていた酒を、口に流し込んだ。視界が揺らぎ、何もしたくないと思った。
目を覚ますと、僕とバーテンダー以外には誰もいなかった。バーテンダーはグラスを磨いていた。僕が目を覚ましたことに気がつくと、何か話したいことがあるのなら、聞きますよ、と言った。僕は何も言わずに立ち上がり、酷い頭痛を感じながら、なんとか店を出た。店の前にある自販機の横に座り込み、タバコに火をつけた。別にタバコを吸いたいわけではなかった。習慣的に、そうした。お金を払い忘れたことに気がついたが、店に戻りはしなかった。明日もまた、ここで酒を飲むのだから、その時でいいだろうと思った。