勧誘
こんにちは山崎ととです。
今回は文章はかなり少なめです。
休みの合間に時間を作ってはいるのですが何分スローペースなのでご了承ください……。
俺、ルシオ・ノルディスは現在意表をつかれた顔をかつての教官であるイライザ・スカーレット女史に向けていた。
それもその筈、叱咤されると思っていたのに彼女から出た言葉は自身の騎士団への勧誘だったからだ……。
「どうした?変な顔をして……言葉の意味が分からない訳ではないだろう?」
スカーレット女史は俺が何故戸惑っているのかが分からないみたいで不思議そうな顔で問いかけをすると話を続ける。
「貴様の剣の実力ならばいずれ我が団の中核を担う事も出来よう……その様子だと故郷に帰る事も出来ぬのだろう?かといって行く当てもない……そのまま貴様の腕を腐らせるぐらいなら私のいる騎士団に入るのも悪くないと思うが……。それとも候補生時代でたらふく蓄えた財産を持って怠惰な人生を送るか?まあそれがいいのなら止めはせん……貴様がそれで満たされると云うのならだが……」
スカーレット女史の言葉は最もだ……。
今の自分には故郷に帰る事は出来ず、しかし行く宛てもない……。
おそらく、いや……彼女の言葉は俺にとってチャンスなのかもしれないのだ。
しかし、未だかつてそんな事を考えた事がなかった為か急な提案に首をすぐさま縦に振る事が出来なかった。
だってそうだろう?
勇者の素質を持つものとして生まれ、ただ選定の時の為にこの十八年間生きてきたのだ。
確かにこうして機会を逃し、この先どうすればいいか分からず困っている……。
しかし騎士だなんて……。
「俺は……」
どうすればいいか分からない……何て言葉を後に続ける事が出来ず躊躇っていると……。
「ふむ、まあ急に言われても答えは出せぬか……。なに、それほど時間がある訳でもないが別段今すぐにと急ぐ程でもない。そうだな……十日あればどうだ?それならば答えは出せそうか?」
こちらの迷いが伝わったのか……スカーレット女史の口から猶予が与えられた。
(十日か……それなら答えは出せるだろうか?)
俺は暫し思案をし、その提案を飲む事にした。
「分かりました、じゃあそれで……」
「うむ、決まりだな」
そうして話が纏まった所で、ドアのノック音が部屋に響くとその後から男性の声が聞こえてきた。
『お茶の用意が出来ました』
屋敷の執事だ。
「うむ、入れ……」
スカーレット女史が声の主に入室を許可すると、一呼吸置いた後『失礼いたします』と丁寧にドアが開かれた。
やってきたのはやはり先程の執事で、部屋に入ってくると俺達が座るテーブルまですっと歩み寄ると軽く会釈をし、お茶の用意を始める。
先程居たカフェの店員も丁寧ではあったが、この初老の動きは完全に無駄がない……。
熟練した者だからこそなせる技術わざか……。
執事の動きに関心していると、瞬く間に用意が済んだようで、気が付けば注がれたお茶から爽やかなフルーツの香りが鼻腔を擽っていた。
「さあ、飲むがいい……彼の淹れた茶は美味いぞ……」
スカーレット女史は誇らしげにそう言うと俺に飲むよう促してきた。
「じゃあ、頂きます……」
俺は淹れたばかりのお茶の入ったカップを手に持ち、そのまま口元まで運ぶと何度か息を吹きかけ啜る。
「美味い……美味いですこれ!」
「当然だ……言ったろう?格別だと……」
「恐縮でございます……」
スカーレット女史は俺の反応に満足気味に笑うと自身もカップを口元に運ぶ……。
執事はあくまでも謙虚に俺と自身の主の反応に丁寧にお辞儀をする。
すっかりお茶を堪能した俺はしばらく雑談を楽しんだが、そろそろ行かなければとお暇する事にした。
その旨を伝えるとならば見送ろうと送ってくれたスカーレット女史と屋敷の門にいる……。
「今日はありがとうございました……じゃあ十日後に……えっと、ここでいいですか?」
「ふむ、どうだろう……まあ適当に探してみてくれ」
「分かりました……じゃあ十日後に……あ、お茶美味かったです!ご馳走様でした。では失礼します」
彼女に深く頭を下げると、背を向けてその場を後にする……。
そんな客人の背を静かに見送る紅き薔薇の副団長は一言「ああ……」と穏やかな顔で微笑んでいた。
そんな事は知らない俺は傾き掛ける陽に染まる城下町を宿へと向かいながら、先程のスカーレット女史からの提案を思い出していた。
これはおそらく運のない男に差し伸べられた最初で最後のチャンスだ……。
だが、不安もある……。
故に直ぐには返事が出来なかった。
だからこそこの十日間を真剣に考えなければならない……。
機会をくれたスカーレット女史の為、そして俺自身の未来の為に……。
読んで頂きありがとうございました。
次回から話が動き出します。
一応、1週間に1回投稿を目安にやってますのでよろしくお願いします。