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辺境魔王と落第勇者  作者: 山崎とと
2/3

恩師

続きです。


一応ストックは多少あるので当分は早めに投稿出来そうですが、何処かで遅くなるかもしれません……( ̄▽ ̄)

城下街を王城方面へと紅い悪魔……もといスカーレット教官の後ろを追いながら歩いている。


当然その間に会話なんてものはなく、その様子はさながら憲兵に連行されている罪人の様だ……。

まあ、そもそもこの状況でこちらから話し掛ける事など出来る訳もない。

そうしてしばらく歩き続けていると『着いたぞ』と不意にイライザ元教官が立ち止まり、此方に背を向けたまま声を掛けてきた。

途中から思考を放棄していた俺は急な事に思わずその背中にぶつかりそうになるが間一髪の所で回避。

声の主に顔を向けた後、辺りを見回すとそこが城ではなく貴族街の一角に建つ屋敷の前だと云う事に気付く……。


「え?ここは……王城方面に向かっていたんじゃ……?」


「王城?何故そちらに行かなければならない?ああ、確かお前は部屋に荷物を置いたままだったな……まあそれは後でもいいだろう、ともかく入れ……。」


訳が分からぬまま教官に促されながら、屋敷のアーチ型の門をくぐり抜けて、そのまま広い庭を進んで行くと大きな玄関口が俺達を迎えた。

イライザ元教官はその扉を開けるとこちらに入る様再び促し、それに従い扉の中へと入った。

屋敷の中に入るな否や、これまた豪華なエントランスが眼に飛び込んで来た。

その内装の豪奢な様に圧倒されながらあちこちへ目線を配っていると、一人の中年の男性がこちらに近付いて来る事に気付いた。


白髪交じりの髪をオールバックにし、ピシッとしたスーツはシワが無い。

その人物は、こちらの数歩手前でピタっと足を止めると言葉と共に礼儀正しくお辞儀をして見せた。


「お帰りなさいませ、お嬢様……。そして、ようこそいらっしゃいました、ルシオ様。」


「お嬢様……って、え?ええ!?じゃあここは教官の家って事ですか!?いや、何となくはそうかと思ってたけど……いやそれにしてもお嬢様って……似」


「それ以上口を開けばこの場で切り捨てるがどうする?」


声の聞こえた方をみれば、いつの間にか俺の傍らに立っていたらしい()()()が鞘に手を伸ばし鋭利な視線をこちらを見ていた。


「すんませんしたぁぁぁあ!」


空かさずジャンピング土下座をやってみせる俺だった。


ハァ……と呆れた様子の溜息が頭上から聞こえてきたがそこでふと疑問が湧いてきた。


先程の執事は何故俺が来る事を知っていたのだろうか?

俺は徐に立ち上がるとその疑問を教官にぶつけてみた。


「そういえば執事さんは何で俺が来る事を知ってるんですか?」


「ん?ああ、それは……」


突然の質問に教官はとっさに応えながら執事をちらっと見る素振りを見せると意図を察したのかその言葉を繋ぐようにして代わりに執事が答えた。


「それは、前もってお嬢様から本日教え子の方をお連れになるとお聞きしていたからでございます。」


「え?嫌でも……俺が見つかるかどうかなんて……」


「あぁ……全くだ。あの日から姿が見えなかったからな、故郷にでも帰ったかと思ったが、それにしては少量ながら寮に荷物が置いてある。直ぐに探しに行こうと思ったが降臨祭の準備やらで私達も忙しかったからな、中々城下には行く事が出来なかったが、ようやく当日の今日、一時的な暇を貰って帰宅次いでに城下に来てみれば……全く貴様は何を考えているのだか……まあいい、詳しい話は自室でしよう」


教官は呆れた様な怒ってるような微妙な顔で話していたがここが玄関だと云う事に気付いたのか話を切りやめる。


「では、私はお茶のご用意を……」


「ああ、頼む……行くぞ、着いて来い」


執事の言葉に相槌を打つと前を歩きだす教官。

俺もそれに従いエントランス正面からみて左の階段へと進んで行く。

2階、3階と階段を上がり、L字型の廊下を曲がった先にある一番奥の部屋が彼女の自室だった。


部屋はこの時代の女性の割に無駄なものが一切なく、しかし何処か気品のある部屋で、テーブルや椅子、化粧台などは意匠が凝っているものの嫌らしさはなく全てに置いてまとまっていた。


「どうした?あまりじろじろ見てくれるな……人を部屋に入れるなど慣れていないのでな……」


その聞き慣れない言葉に教官を見てみると少し顔を赤らめた教官が落ち着かない様子でこちらを見ていた。


「……!?」

(嘘だろ⁉あの教官が……あの悪魔が……恥ずかしがっているだと⁉何が起こっているんだ⁉)


あまりのギャップが信じれず自分の頬を自分の手で何度も叩いてみる。

痛い……。

だがそれだけでは信じれない。

俺は錯乱気味に人の家だと云うのを忘れ床に頭を打ち付けてみる。


「おい⁉一体何をしている⁉」


突然の奇行に驚いた教官が留めに入る事でどうにか落ち着きを取り戻した俺は、一先ず教官の指示に従い席に座る。


「大丈夫か……?全く貴様はアホなのか?」


「えと、まあはい、すみませんちょっと取り乱しました……(というか教官が悪いと云うかボソボソ……)」


「ふむ?まだ何かあるようだが?言いたい事があるのならハッキリ言えと教えた筈だぞ?」


俺の後半の独り言のような小声が聞こえたのかこちらを睨みつけ威圧的な態度をみせる教官殿。


「いえいえいえ‼なんでもないですなんでも‼」


「はぁ、まあいい……それより本題に移ろう。わざわざ何故こうして私が貴様を自身の屋敷に招いたか分かるか?」


教官は両肘をテーブルに乗せ手を顔の前で組みこちらに向かって聞いてきた。


「それは……昨日俺が大事な選定試験をすっぽかしたからその罰を与えに来たんですよね?何故教官の家なのかはわかりませんが……」


そう、そこだけはよく分からなかった……普段なら規則違反や教練で最下位になった者は懲罰室で罰を受ける筈なのだが屋敷に連れて来られるとは謎だ……。


「罰?何故そんな事を与えねばならん?」


しかし、教官から返ってきた返答は意外なものだった。


「え?いやだって……」


「選定試験を欠席したから私から罰を受けるとそう思ったのか貴様は……。そうか、だから行方を暗ましていたのか……はあ、全く馬鹿なやつだな……」


「いやだって……あれだけ教練の時にしごかれたらそう思いますって!それに早めに寮から出たのは他の奴らに会いたくなかったってのもあって……」


「成程な……確かに教官として貴様達を鍛える為に強く当たってきたのは嘘ではないが、それも昨日を持って解任だよ、先程言っただろう?元候補生と……既に貴様は私の教え子ではない、そうである以上私に貴様をどうこうする権利はないよ……それにな、選定試験の参加はあくまでも勇者候補である貴様達の自由意志だ……欠席したからといって勇者になる可能性を失うだけで咎められるものでもない……寧ろ他の候補生からしたら有難い事だろう」


「それは、そうですけど……なんていうかこの三年間お世話になったし折角ご指導頂いたのに参加すらしないなんて裏切った気がして……」


「後ろめたさがあったと……」


「はい……」


俺はバツが悪くなり顔を伏せる。


「確かに教え子達全員の晴れ舞台を見たかったと云う気持ちはある……だが、貴様は行きたくても行けなかった事情があるのだろう?いや無視すればいいものを無視できない貴様の正義があったのだろう?」


「なっ!何でっ⁉」


教官の口から出た言葉に伏せていた顔を思わず上げる。


「誰にも言うなと言った筈だったか?聞いたさ……その使用人の娘からな……言われた通り黙っていようと思っていたが、選定試験に落ちたばかりか間に合わなかったという話を耳に挟んだらしくてな……昨晩泣きながら私の所に来た、もう一度選定試験を行う様進言して欲しいとな……」


「それは……」


「ああ、無論聞けぬ相談だ……選定で選ばれた者は謂わば天啓によって選ばれると同義、一度決まった事は覆せん……それは国王陛下ですらな……」


「……」


そう、もう決まった事だ……どれだけ悔いても覆らない……俺は何千何万の救いよりもちっぽけな善意を取ったのだ。


「まあその少女の事は安心しろ……多少骨は折れたがしっかり納得させたから大丈夫だ……」


教官は肩をすくませながら微笑む……。

彼女の言った通り最早教え子で無くなった為かやはり表情が柔かい。


「その、最後までご迷惑お掛けしてすみません……」


「全くだ……だがお前らしくもある……確かに勇者には選ばれなかったがお前の行いは我等が騎士道からみれば崇高だ……例えそれが端から見れば取るに足らぬ善行だったとしても……」


取るに足らぬ善行……確かにそうだ。

勇者の資格を放棄してまでする事ではないものだった。

現にそれが他者から見れば愚行だと理解しているからこそ、同じ候補生だった者達からの嘲笑を恐れ、寮から誰よりも早く出て行ったのだ……。

だけど……。


「教……いや、スカーレッット副団長殿にそう言って貰えると何だか肩の力が降ります」


「……。まあ、馬鹿には変わりはないがな……だが愚かだとは思わん……どんな些細な事であっても一人を救えぬ者に全を救えるとは思わぬからな……だが、そうだな……他の候補生は実力が足りなかったが、お前には運が足りなかったという訳だな……ふっ」


「いや、そこ笑う所ですかね?実力ならまだしも運が無いなんてこの先に響きません?実力は経験や鍛える事で成長出来ますけど、運はどうしようもないじゃないですか……」


もしそうなら勇者の素質を持って生まれた事に運を使ってしまったと云う事なのだろうか?だとしたらこの先の俺の人生は不運の連続ではないか……。

いやこれまでの十八年間をよく振り返ってみれば運のない事ばっかりだ!

ああ、そう言えば両親にも言われてたな、お前は勇者の力を生まれ持った事に運を使い果たしてしまったのかもと……。


「まあ、そう落ち込んだ顔をするな、故に私が今日お前とこうして話しているのだ」


「は?それはどういう……」


言っている意味がよく分からない……俺が運がないからこうして話してる?

スカーレット女史は困惑する俺の顏を見て教官だった頃に見せていた意地の悪い顔を浮かべる。

その表情に思わず身構えるが、彼女の口から出た次の言葉は意外なものだった……。


「どうだルシオよ、貴様は我が騎士団に入らぬか?」

梅雨に入って体がだるいですが皆さんも体調崩さないようにして下さいね……。


では読んで下さりありがとうございます。

感想等お待ちしております。

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