勇者になり損ねた者
こんにちは、山里ととです。
前回思うように書けず、また感想を書いて頂けるような作品でもなかった為、1年近く離れていました。
が、やはりもう一度ちゃんと評価して頂きたいと思い、新たに執筆しようと思い投稿しました。
前回の反省点を踏まえ、ゆっくりと1話1話を短めに、ですがしっかり投稿を継続出来るスタイルでさせて頂きたいと思います。
感想等お待ちしておりますのでどうかお付き合い下さい。
勇者……。
それは人々の憧れ、そして希望である。
彼等は時には迷い、悩みながらも決して前へ進む事を諦めず……。
人々の先頭に立ち、世界を照らす光となる事を定められた者……。
彼等が手にするその剣は選ばれし者の証であり、魔を打ち滅ぼす証明でもある。
今世紀の勇者よ……。
今こそ、その力を持ってこの世界アスタリアに光をもたらし給え……。
…………。
「何が勇者だよ……ふんっ!」
新聞に掲載された記事に嫌悪感を抱き悪態をつく……。
いや、嫌悪感と云うのは嘘で、本当は妬ましいだけの嫉妬からくる感情だった。
男の嫉妬は何とかって言うが、俺に限っては神様も同情するだろう。
持って生まれた筈だったのに……。
一度の正義感のせいで一生のチャンスを棒に振ってしまったのだ。
見なければいいものを、新聞にデカデカと書かれたその見出しと写真に再び眼を移すと、今度は大きく溜息を吐いた……。
見出しはこうだった……。
『勇者決まる!』
その文字の近くには癖のある金髪の少年が勇者の証明とも云うべき聖剣を体の中央で地面に突き立てる様に構え、少し緊張気味な表情で微笑んでいる。
『ユリウス・A・ブリタイン』
それがこの少年……いや、勇者の名だ。
確かここから遥か東にある村出身だとか言ってたっけ?
そんなどうでもいい情報を思い出しながら気付けばまた溜息を漏らしていた……。
俺が溜息を付く理由は何も彼に対する嫉妬だけではない、この少年なら勇者と呼ばれても納得してしまう……。
つまり、内心では負けを認めている自分に嫌気が差しているからでもある。
ユリウスはその見た目通り、あらゆる人の模範となる様な人物で、穏やかではあるものの、その正義感は強く、不正を許さない。
しかし……。
驚くべきはそのカリスマ性で、彼の元にはライバルである筈の同じ候補生でさえ集まっていた。
候補生だった時、俺はそんな彼等を遠目に見ていた事を思い出す……。
羨ましいのではない……。
只、ライバルである筈のユリウスに親しげに話す候補生達を馬鹿らしく思っていた半面、ユリウスのそのカリスマ性に脅威を感じていたのだ。
そして結果はこの通り……。
ユリウスは見事勇者に選ばれ、俺や他の候補生は全員落選。
選定試験が終わった事で俺達候補生は全過程を修了、故郷に帰る者、本日王城で行われる『勇者降臨祭(勿論主役はユリウス)』
に参加する者と分かれたが、俺はそのどちらでもなかった……。
村を出る際に豪語した手前、両親や村の皆に合わせる顔がなかった……。
いや、もし選定試験を受けてそれでもダメだったのならまだ帰れたのかもしれない……。
でも俺はそれすら参加出来ていなかったのだ……帰れるわけがない。
しかし、かといって行く当てもないのでこうして一人城下町のカフェテリアでとっくに冷えきったブラックティーを啜りながら今朝の新聞を見て悶々としているのだった……。
「あのぉ、お客様……。」
思い出したくない事を思い出し今度は机に突っ伏して溜息を吐いていると、頭上から若い女性の遠慮がちな声が降って来た。
俺はのっそりと頭だけ起き上がりその人物の顔を見上げると、そこには申し訳なさそうに微笑む女性店員の姿があった。
「はい……?」
何だ……?俺何か頼んだっけ?
不思議に思っていると定員は更に申し訳なさそうな声で……。
「すみませんお客様、もうすぐ閉店の時間になりますのでそろそろお会計をお願いしたいのですが……。」
「え?閉店?」
言われた言葉にびっくりして辺りを見回すと、どうやら他の客も店員に同じように話し掛けられたらしく、皆席を立ち会計へと向かっていた……。
だが、外を見る限りまだ日は落ちてはおらず、それどころかこれから昼食の時間になろうと云う時間帯だ。
店にとってはこれからがかきいれ時のはずなのだが……。
そんなこちらの意を察したのか、店員は説明を始める。
「本日は勇者降臨祭の為、営業はお昼までとなっております。一応あちらにも書かれてはいるのですが、皆さんお気づきになられにくかったらしくご迷惑をお掛けしてすみません。」
店員の指す方向を見ると確かに店内中央の柱に貼り紙が貼ってあり、ここからでもその文字を読むことが出来た。
【本日、降臨祭準備の為、営業は昼までとさせて頂きます。】
成程……そう云う事なら仕方がない。
降臨祭と云う言葉に思う事はあるが国が主催する行事だ、城下の店も城からの要請で手伝いをしなければならないのだろう。
俺は素直に会計を済まし店の外に出た。
とはいえ、ここからどうするか……。
宿泊先に戻ろうか……それともやはり素直に故郷に帰る準備を始めるか……。
「いやいやいや……それはやっぱ無理……だよなぁ……。」
自分の失態を思い出すと、やはり故郷に帰る勇気は持てない。
ならどうするかと店の前で頭を悩ませていると……。
「ようやく見つけたぞ、ルシオ……。ルシオ・ノルディス元候補生!」
今会いたくない人物の中で五本の指に入る人物に自分の名を呼ばれた気がして思わず周りを見回す……。
しかし誰も見当たらずホッとする。
(気のせいか?あまりの後ろめたさでとうとう幻聴までも聞こえだすなんて……なんという腐れメンタル。これは試験に参加出来ていても選ばれないだろうな……。)
ははっと内心自称気味に不甲斐無さを笑っていると……。
「私を無視するとはいい度胸だなルシオ・ノルディス……それに何を一人で笑っている?気味が悪いぞ……。」
「え?ウソ?顔に出てた⁉って……ぎゃぁぁぁ!出たぁぁぁ‼」
突如現れた人物に驚き思わず公衆の目の前で叫び声を上げてしまう……。
当然何事かと周囲の通行人に見られるが、しかしそれどころではない……。
何故なら先程聞こえた声が幻聴ではない事が分ったからだ。
その証拠に目の前には腕を組んだ背の高い釣り目の女性が立っている。
深紅の長い髪を後ろで束ね、胸元、腰、腕、足と露出度が高めなこれまた髪色に負けない程の光沢のある深紅の鎧を身に着けていた。
彼女こそ会いたくない人物の一人、勇者候補生専任教官にして王国騎士団の一つ紅薔薇騎士団副団長『イライザ・スカーレット』その人だった。
背が高く、スタイルも良く、おまけに美人と端から見れば完璧な女性に見えるだろう。
確かに……俺も初めは思ったさ……。
俺達の教官になる人がこんな美人なお姉さんだなんて候補生で良かった!と……。
しかしその幸せな気分も束の間、そこから始まった地獄は……。
(うっ……思い出しただけでも吐きそう……。)
とにかく……だ!
この人を一言で言うなら……そう。
紅き悪魔だろう。
あれほどの教練を乗り越えたのに、肝心の選定試験に遅れるどころか欠席したとなれば何をされるか分かったものではない……。
故に試験当日、間に合わなかった罰を恐れ、お金だけを持ってそのまま候補生寮を出て宿屋へと逃げ込んだのだった。
どのみち選定試験が終わった以上一週間以内に退去しなければならないのだから少し早めに出ても大丈夫だろう……。
荷物もないに等しいし、何より候補生の時に国から給付されていた莫大な資金がある為、当面は生活に困らない。
とはいえ行く当てもないと云うのが難題だったのだが、こんな事になるならさっさと王国から離れた方が良かった……。
しかし見つかってしまった以上はもう遅い……。
俺は意を決して目の前の紅き悪魔に話し掛ける。
「ス、スカーレッット教官、本日もお綺麗で、その……奇遇ですねこんな所で会うなんて……。」
俺のしどろもどろな言葉に眉間に皺を寄せる彼女は……たった一言『ついて来い』と告げ王城に向かって歩き出す。
(あ、俺終わった……)
きっと俺はこの悪鬼に拷問されこの世から抹消されるのだ……。
待ち受ける未来に絶望を浮かべながら紅き悪魔の後に付いて歩き出すのだった。
如何でしたでしょうか?
沢山のご意見感想などお待ちしておりますのでよろしくお願いします。