プロローグ
さんさんと降り注ぐ陽光が温かに大地を照らす。
そよぐ風は柔らかに頬を撫でる。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで、ぐっと伸びをした。
「太陽って、こんなに眩しいんだったっけ?」
私はガラージュ公国が滅亡したこの日、五年振りに己の足で土を踏む感触を味わっていた。
それにしたって、おかしいな……。
まさか、一晩にしてガラージュ宮殿が陥落しようとは、流石に考えていなかった。戦火は遠いと思ってたけど、私が想像した以上に我が国の守りは腑抜けていたらしい。隣国のドルーガン王国軍はなかなかに優秀だ。
「そら太陽が眩しくなけりゃ大問題だな。ほら、ぐずぐずしてんじゃねーぞ」
開放感に浸って深呼吸をしていれば、野太い声が水を差す。こっちは五年振りの大地の感触をまだまだ味わい足りないと言うのに……。
腕を引くドルーガン兵を見上げた。兵士は一見すれば粗暴にも見える熊の様な大男で、軍服の上着を着ておらず、その階級は不明だ。けれど男の手が存外に丁寧なのは、最初から気付いていた。
振り向いた男と目線が絡んだ。
男の瞳は吸い込まれてしまいそうに、気高く深いコバルトブルー。
私は二度殺意をぶつけられ、一度は死に、二度目は命を繋ぎ、こうして今ここにいる。今ではもう、余程の事では動じないと思っていた。
なのに男の目は、不思議と私の心を揺さぶる。
「……それに、太陽よりも眩しい金色」
そうして瞳もさる事ながら、男の髪はよく目立った。その燃え立つような金髪は、光を反射してキラキラと輝いている。
「あん? ああっ、髪な。よく言われんだ」
私の呟きが届いていたようで、男は私の腕を引くのとは逆の手で、己の輝く金髪をクシャクシャっとかき混ぜてみせた。
照れたような男の笑顔もまた、目に眩しい……。
私は眩さに、目を細めた。