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理系眼鏡と青い熱  作者: ぽん。
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類は友を呼ぶ…ってやかましい!!

なんで、この期に及んで菅先生を探してしまったのだろう。


LINEのトーク画面にピョコピョコ動いているスタンプを眺めながら、深く深く溜息をつく。



私が菅先生を好きになったのは8年前だった。

当時14歳(早生まれなので出会った瞬間は13歳)だった私は、着任式で菅先生を見た瞬間、人生で初めて一目惚れをした。



今まで出会った誰よりも背が高くて、何処か冷めた目が幼ながら魅力的だと感じた。


癖の強い黒髪で、ふわふわの頭は犬のようだったし、掴み所のない性格は猫のようだった。


今思えば無駄な足掻きだったな、とは思うけど、当時は真剣に好きで、私の中学校時代は菅先生が来てからそれ一色だった。



まだ十数年しか生きていない子どもが、一丁前に『菅先生を守りたい』だなんて本気で思っていた。


それくらいに儚げで冷たい目をした人だった。




中学時代の話は追い追いするとして、今現在。

次の冬で22歳になるという歳。


私は何故か菅先生を探してしまった。




そしてどんな偶然か、検索に引っかかったのは紛れもなく菅先生だった。



多少強引かな、とは思いつつも、今しかないと本能が言って、トントン拍子で話が進んで、後数時間したら卒業して7年ぶりに菅先生に会う。



会いたい気持ちと、あの頃の気持ちが壊れてしまう不安と、鬩ぎ合って吐いてしまいそうだった。



あの頃、菅先生が彼女と別れたらしい!…なんて噂が広まって、それが嘘か本当かを確認するのが怖くて触れなかったけど…



今はいるのかなぁ?ーー…なんて考えてしまう自分がいる。



あの頃とは違う。お互いに歳をとった。

菅先生は32歳になってるだろうし、そもそも卒業してから7年も経っている。



いないわけないんだろうな、と思うけど…

あの人ならいなくても不思議じゃないなぁ、…なんて自分に都合の良いように思ってしまったりもする。



物凄くおじさんになっていたらどうしよう。

激太りしてたり、ハゲてたらどうしよう。

あの頃の憧れだった菅先生が壊れてしまうかもしれない。



だけど、何年も引きずる想いを断ち切る良い機会なのかもしれない。




好きとは違う。

美化されて、綺麗な思い出として残っている菅先生とお別れをするため。


…そう自分自身に言い聞かしたものの、慣れないスカートなんて履いちゃって、メイクも髪の毛もいつも以上に気合い入れちゃって…。



何を期待しているのだか…、自分で自分に呆れてしまう。




本日何度目かのため息をついた時、スマートフォンが通知音を鳴らした。


条件反射的にパッと見てしまう。



メッセージの相手は絶賛別れ話し中の彼氏からで。



ーー 今日の夜会いたい。少し話そう ーー



ーー ごめん、今日は予定ある。 ーー



そう返信すればモヤモヤとしたものが胸に蓄積されていく気がした。





失ってから気づく、とはよく言ったもので。

この彼氏もそのパターンだった。


中学校を卒業して以来、気になる人ができたりした時期もあったけど、決まって菅先生と比べてしまい好きという感情になるまでに至らなかった。


菅先生を忘れたくて、菅先生とはタイプの違う人と付き合いだしたが、ほんの数ヶ月でやっぱり菅先生が忘れられない…と言い別れた。


その後は全部同じような感じで、成人式で再会した小学生の頃の同級生が今の彼氏だった。


中学を卒業してから初めて、菅先生以外できちんと人を好きになり、私から告白して付き合うまでに至った。



ーー…が、私の愛は重いようで、この彼氏はそれに耐えきれなかった。



そして、それだけならともかく、人を傷つけるような事を平気で口に出す人だった。



好きな内はアバタもエクボってな具合で我慢できたことも、好きなのかなんなのか分からなくなり、惰性で付き合っているような状態で言われた『そういうの見苦しいんだよ』の一言で私の中で彼は終わった。



結局彼も私の中の【菅先生】には届かなくて、別れを切り出したというわけだった。



そして今現在、私を失うという危機的状況の中、彼は私が好きだという事を散々アピールしてきているわけだ。



「私が好きって言っている時に、俺も好きだよって言ってくれなかったくせに…。」


今さら…、なんて冷めた感情が喉を通り、胃を通過し、下腹部の辺りで滞留している感覚を覚える。



私は物凄く飽きやすい。

好きなものには常に一途で、それにしか愛を注げないが、飽きたら最後、どうでもよくなってしまう。



彼は、私と過ごした1年半の間に、それを学べなかったのだろうか。



「…そもそも、私に興味なんか示さなかったか。」



ぽそっと呟いた独り言は、誰も居ない部屋の空気に溶け込んでいく。


暗く冷たい言葉が溶けた空気は、湿ったように雰囲気を重たくさせる気がした。



菅先生を探してしまった原因は、ここにもあるのだと思う。



100ではないが、決して0ではない。



あの頃の純粋な私はもう居なくて、菅先生を忘れられないまま過ごす内に冷たく暗い人間になってしまったようだった。



そんな私が、一番輝いていたあの頃の私と同じ人を好きになることなんて出来るのだろうか。




あの頃の気持ちとは違う、嫌悪感を抱いたりはしないだろうか。





つい数分前の不安とは別の不安が押し寄せてくる。



菅先生、ではなく

自分自身を試している気がした。

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