類は友を呼ぶ…ってやかましい!!
毎日毎日毎日毎日、毎日、毎日…。
よくもまぁ、飽きもせずに、同じ場所で、同じことをやり、同じことを話して、同じ反応をするものだ。
『菅先生、あの、コレなんですけど。ここの部分のレイアウトってどうしてるんでしたっけ?』
ーー…つい先週も同じことを聞かれた。
『菅先生、50分間、丸々数学やってくれませんかね〜…?』
ーー…管理職も頭が悪い。
『菅先生!明日の部活の件なんですけど!!』
ーー…俺に聞かずに自分で考えろって言わなかったっけか?
聞こえてるけど、聞こえないフリ。
さり気なく、肩凝りを気にするような動作で首を回せばイヤホンをしている事を連中にアピールする。
それを見て諦めるやつもいれば、図々しく俺の肩を叩き自らの存在を誇示するやつもいる。
案の定、同じ部活の副顧問である高杉教諭は空気も読めずに俺の肩を叩いてきた。
こうなれば無視するわけにもいかず、あたかも今気付きましたと言わんばかりに「おぉ、居たんですか」なんて言ってみる。
「えぇ、菅先生イヤホンされてるから、聞こえなかったんですね!」
浅黒い肌に白い歯が良く映えている。
ニコニコと笑うその人は、俺よりも2歳歳下だった。
「ガヤガヤしたのが苦手なもので。で?なんですか?」
視線を逸らし机上の仕事に目を向ける。
高杉はそれをチラッと見れば、慌てて用件を話し出した。
「明日の部活なんですけど、やります?」
さも重要な案件を取り上げているかのような神妙な面持ちで聞いてくる目の前の男に思わず失笑してしまう。
一体何に悩んでいるというのだ。
「え?どっちでも良くないですか?」
俺がそう言えば、高杉はオドオドとして「でもっ」と続ける。
「来週、練習試合ですし…そろそろ大会練習とかも本腰入れてし始めないといけない時期ですし…。」
そう言いしどろもどろになる様は、叱られた犬を連想させる。
「だから、どっちでも良くないっすか?やりたきゃやればいいし、やりたくなきゃやらなきゃいいし。
つーか、どっち道、俺は出ないですよ?高杉先生の方で決めて下さいと言いませんでしたっけ?」
そう言いPCに体を向き直れば、イヤホンを両耳に装着する。
俺の中での会話終了サインだった。
高杉はそのまま諦めて自席へ戻ったようで、俺の周りには誰も居なくなった。
どうやら昼休みになったらしい。
昼になると、担任を受け持っている教諭は生徒と一緒に給食を食べるし、その他の職員もランチルームと呼ばれる部屋で給食を食べている。
ごく少数派で弁当を持参している職員もいるが、どこの学校に行っても大方給食を食べている職員がほとんどだと思う。
そんな俺はさらに希少な【食べない派】だった。
朝からずっと机に向かっていたから、誰もいなくなった職員室をぼんやりと眺めて少し休憩を取る。
黒い手帳型のケースに入ったスマートフォンを手にすれば、LINEの通知が数件入っていた。
実家の父からのLINEと、LINE公式アカウントからの通知、そして最後の一通は上川 聖奈という女性からだった。
上川はつい昨日、実名登録SNSサイトのメッセージ機能から話しかけてきて、話を聞くところによると7〜8年前(俺が中学教師になり1年目の新米の頃)の教え子だそうだ。
全く記憶にないが、元々人の名前や顔などを覚えられない質なものでーー…。
恐らく彼女の言うことは本当なのだろう。
昨日の23時頃にメッセージ機能でやり取りをして、利便性を考えLINEを教え合い、その直後に彼女からLINE電話がかかってきて、そして今に至る。
しかも今日これから、仕事が終わり次第上川と夕食を食べる約束をしていた。
最近の若い子は行動力と押しの強さが凄いとしみじみ思う。
ーー 菅先生と会うの、楽しみにしてます! ーー
その文章に、スタンプを送って会話終了。
基本的に人と必要以上に関わったり、だらだらとやり取りを続けるのが嫌いだから、それを察してもらうためにスタンプ機能はよく使う。
あなたと会話をする気がありませんよ、という意思表示をオブラートに包んで表現できる上に、文章を打つという作業を短縮できるスタンプ機能は素晴らしいと思っている。
残りの仕事を片付けよう、そう思いPCのディスプレイを見つめた時、ブーッとスマートフォンのバイブレーションが鳴った。
普段はイヤホンを付けているため気付かないが、もしかしたら常に仕事中もこんな風に鳴っていたのかもしれない。
気を付けねば、と思いつつスマートフォンを確認すれば【fight】という文字の書かれた可愛らしいウサギのスタンプが送られてきている。
俺はそれに既読だけつければ、返信はせずにそのまま仕事を再開した。