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MAKI  作者: 明石多朗
6/21

6話  上野真希

    **** 上野 真希 ****


 昨日の出来事があって事務所にいるのは居心地が悪い。

 真希は人の少ないところを探して、裏口のドアの前にならぶ椅子の一つに腰を下ろす。

 アパートよりはるかに高い天井を見上げていた。


「あ、マキちゃん!」


 声の主は鹿屋(かのや)メイだった。


「おー、メイ。ちーっす」


 鹿屋メイは人気グループ【Maybe(メイビー)/Absolute(アブソリュート)】の一人であり、真希が昔組んでいたグループメンバーの一人だった。彼女たちは、人気が出てからはファンの出待ちがあるため、騒動を回避するために裏口から入るようになっていた。


「マキちゃん倒れたって聞いたけどケガはっ? 大丈夫っ?」


 鹿屋メイが早口で訊ねる。

 今朝、彼女たちのマネージャーから聞いたらしい。


「んーまあ。大丈夫」真希は肩をすくめる。「でもさ……いや、何でもない」

「どうしたの? 顔色も悪いし」

「あ、あははは。ライブのチケット代が返金になっちゃってね。またバイト増やさなきゃいけないなーって。あっはっはー」


 たくさんのことを伏せた。


「あ、あのね、ハルちゃんも昨日のこと聞いて――」

「メイ」


 その声と同時に、ドアの方から風が入り込んだ。


「ミスしてもへらへらしてるヤツと一緒に居たらヘタがうつるよ」


 阿武川(あぶかわ)ハルカだった。

 彼女はマスクにサングラス姿でギターケースを担ぎ、真希に顔を向けることなく横切っていく。

 ……何も知らないくせに。


「マスクにサングラスかぁ。もういっぱしの芸能人だねー」

「……」


 ハルカはそれに反応することなく階段に向かっていく。


「会話する気ゼロだね。意識高いこと」

「ご、ごめんね。ああ見えて心配してるんだよ」

「ふん、どうだか」


 さすがにあの言い方と対応は穏やかに流しにくい。


「私も行かないと。あとこれ」


 と、メイは両手で包むように真希に渡してハルカの後を追っていった。

 渡されたのはお守りだった。

 ――無病息災――


「……なんで、これ?」


 紐も袋もやや汚れている。きっと自分にとって効果があったお守りをくれたのだろうか。

 ……と言っても、病気になってクビになった自分にはもう遅い。


「もう、会うこともないだろうし……」


 三人で組んだ時期があった。だが、真希は外された。たちまち差が生まれた。二人の方が有象無象(うぞうむぞう)の世界から抜け出し、今では特に中高生女子から崇拝に近い人気を誇っている。

 静かな事務所に、彼女たちの階段を上る足音が響く。離れていく足音は今の状況を表してると思った。

 真希は上を向き、高い天井を仰いで手を伸ばす。伸ばした手はただ宙を掻くだけで、天井は届くことのない遠くにあって、貰ったお守りも自分のみじめさを示しているようで


 ――真希は黙ってそれを捨てた。


本作は毎日12時、18時、21時に定期アップしていきます。

こちらでも校正しながら投稿しておりますが、よろしければ誤字等あればご報告いただけると嬉しいです。


また評価もいただけると次作等への励みになりますので、

どうぞよろしくお願いいたします。


Twitter https://twitter.com/aktr_996996

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