16話 上野真希
**** 上野 真希 ****
レッスン後、真希にメイからの呼び出しが来た。
メイはレコーディングスタジオ近くのこじんまりした居酒屋を指定したのでそこで合流した。メイは変装もなしに、オシャレ用途のキャスケット帽子をかぶっているだけで、店内に入りすぐ見つけることができた。向こうもすぐにこちらに気づく。
「あ、マキちゃーん」
「ちょっとメイ」テーブルをはさんで向かいの席につく。「アンタ、変装とかしなくていいの?」
小声で訊いた。
「ここ、滅多に人が来ない穴場なお店だから大丈夫」
それ経営的には大丈夫じゃないよね。
たしかに、二人以外の客はいなかった。先にメイが頼んでいたワインを持ってきたのは、知っている顔だった。事務所のライブでギター演奏を頼むことの多い、髪型とまつ毛がビョンビョンなビジュアル系のお兄さんだった。
「あ」
「うす」
「ねっ?」
論より証拠。
奥の厨房も見たことある人たちばかりだった。
「グループ経営だって」
「バンドグループで経営……ね」
「活動費をこっちに充ててるみたいだよ」
「普通と逆よね、それ。バンドがしたいのか居酒屋経営がしたいのかどっちなんだか」
「楽しい場所を作りたいから、やってることに変わりはないんだってさ」
「ふーん」
そこまで言われたら何も言えない。
作曲やトレーナーで歌に関わるのもいいな、と思ってる自分にちょっと通じる。もっとも彼らみたいにバンドと居酒屋をつなげる理由の方がスケールがでかいけど。
「さあ乾杯しよー」
メイがワインとグラスを差し出す。
「ちょっと待って。アタシ、呼び出された理由を聞いてないんだけどさ」
予選だってもうすぐで時間がない。
時間でいえばメイの方が拘束時間が多く、骨休めもしたいだろうに。
「まあまあ、飲んだ方が話は早いよー。はいどうぞ」
差し出されたグラスを受け取ると、メイはすぐさま赤ワインを注いだ。
乾杯をして一気にグラスを空にしたメイは熱っぽい溜息を吐く。
「ねーマキちゃん」
「ん?」
「清原さんのこと好き?」
「んぶほっ!」
真希がワインを吹き出した。
「もー、きちゃないなあ」
メイは机に落ちた飛沫をおしぼりで拭く。
「変なこと訊くからでしょ! げほっ。なんであんな──」
「じゃあ私が告ってもいい?」
「え?」
「聞いたよ。年末の予選、稚奈ちゃんと出るんでしょ?」
「まあ、アタシも年齢上限ギリギリだったし、そういえば予選出場もしてなかったし」
「だったら余計に教えて」
「なんでよ。別に……そんなの」
「ここ最近の清原さん、一気に男らしくなったよね」
「……別に」
「本当は分かってるんでしょ? その理由はマキちゃんなんだって。私はね、それに気づいたら胸の奥が痛くなったの。私たち三年前に清原さんにお世話になってて、特に私は体力無くって」
「よく送り迎えしてもらってたよね」
「その時は自分たちのことで一杯一杯で、気づかなかったんだけど、ここ最近の出来事と、清原さんの変化の理由が一致して気付いたの」
「メイ、アンタ本当に──」
「いいんだね?」
「……」
「マキちゃんはきっと年明けから接点がなくなるよ? 今の私なら、社長にわがまま言って、清原さんを私たちのマネージャーにできる」
──だからこれはハンデ──
と、メイが言った。
「まだ先だけど、はっきりと別れの時間が迫ってくるとどんどんモヤモヤは募るよ。どんな恋人たちも、みんな決まって別れ際に告白するのはそのせいなんだよ」
「……」
「マキちゃんのことも好きだから、来年まで待ってあげる。でもマキちゃんにそんな気ないなら、私はいまからでも動く。だから──」
まっすぐ目を向けてメイが訊いてくる。
「──だから今、教えて」
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