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#19:1018年5月 都

 都の源頼信殿の屋敷には、まだ頼義殿は着いていなかった。

 屋敷は三条南、高倉小路東と聞いていたが、そもそもどこにあるか判らず、方々探すことになった。後から考えると北は二条、南は五条、西は朱雀大通りまで迷ったことになる。


 京都は千年後とは全く違う姿をしていた。

 都に向かうものはまず琵琶湖の南端、瀬田の唐橋の規模に圧倒されることになる。千年後の巨大建築を散々見てきたはずのアキラですら圧倒された。

 要は落差だ。未開から文明へ。

 これまで見てきた板橋、つまり板を掛け渡すタイプではなく、板は橋と直角に並べてある。つまり普通の木造橋だ。橋の長さはたぶん200メートル以上あるし手摺もある。

 逢坂の関から粟田口を超えると都の外れで、そろそろ雰囲気が出てくる。道端の雑木にも何やら風情を感じる。賀茂川に大河の貫禄があるし、とにかく街路が広い。アキラが迷った辺りはひたすらに貴族の屋敷が続く地区だった。


 大きな屋敷が並ぶ界隈に目的地はあった。築地塀を巡らせた大きな敷地に、瓦屋根の門が大きく構えられていた。

 屋敷では当然不審者扱いをされた。身元が不審そのものであり、決して客扱いではない。足利屋敷からの手紙は渡したが、しばらく屋敷の厩の前あたりで待たされた。

 ただの雑色だったら問題は無かっただろう。最初はそういう扱いで、東国からよく来たと歓待されるところだったのだ。しかし、半年前に屋敷で拾われた浮浪者で、それが陰陽に通じ算が立ち、下野の受領屋敷で目代仕事をする上、あやしげな道具を持って一族に富貴をもたらすだろうとあっては、そんなデタラメを信じるなど無理と言うものだ。

 馬から荷物を下ろさせてもらって馬を預けると、アキラは荷物の上に座り込んで連絡を待った。どうも屋敷の主、頼信殿はいま留守らしい。


「すさまじく長き刀よな」


 アキラが頭を上げると、直垂姿の若者がいた。

 刀を下げているから、武者であろうか。少し考えて、アキラは荷物の上に積んでいた刀をその若者に渡した。


「なんぞこの鞘は。柄もなんぞ、東ではかような粗末な作りの刀を使っておるのか」


 いえ、それは自分で作ったと言うと、にしても下手だ下手だとこき下ろされた。仕方が無いではないか、材料も無かったし初めての作だし五日しか無かったのだから。


「五日?いやまてこの刀、刃が研げておらぬ」


 来る道すがら研ぐつもりでした、なにしろ作り立てでしたからとアキラは弁解する。

 あきれた話ぞ、と若者は言い、刀を返してくれた。


「ところで、三郎は達者だったか」


 三郎とは頼季様のことだ。さりげなく呼び捨てだが、そもそもこの時代それっぽい敬称あったっけ。いやそれより、


「頼季様も尼女御も至極すこやかであらせます」


 アキラは返事をする。勿論これはアキラの身元を探る質問だろう。


「頼季様も一緒に参られたいとの言でしたが、荘司仕事の最も忙しい頃合であるゆえ良くないと尼女御様が」


 若者は笑って、なるほど三郎は可哀想であったなと言い、そして左近将監(さこんしょうげん)二郎頼清だと名乗った。


 左近将監というのはわからないが、二郎ということは頼季様の兄の一人、要するにこの屋敷の恐らく今のところ二番目くらいに偉い人物だろう。

 アキラも名乗ると、もうそんなところに座っておらずに上がれと促された。


 脚絆を外し荷物を雑色に預け、足を洗うと屋敷に上がる。


「頼義殿は先に出られたのですが、まだ着いてはおられぬのですな」


「吾子の言の通りなら東海道を進んでおるのであろう。出発が先月の5日ならば、とうにこちらに着いておらねばおかしい頃合だが」


         ・


 頼義殿の都への到着は翌日だった。アキラがちょっと急ぎ過ぎたのだろう。

 足利屋敷の見慣れた面子が馬たちを連れて屋敷に雪崩れ込むと、屋敷は一気に手狭になった。彼らはアキラを見ると目を剥いて驚いた。

 えらくゆっくりだったな、とアキラが聞くと、何でも途中鎌倉に7日ばかり逗留したのだという。

 逆にアキラが何故ここにおると問われたが、それを説明するのはちょっと難しい。


 頼義殿と頼清殿が揃ってやってきた。手には手紙が握られている。


「文机を用意したゆえ、台かんなとやら、使ってみよ」


 アキラは準備がしたい、砥石を使いたいと言うと、水の入った箱と砥石がさっと出て来た。アキラの持って来た砥石と違う、青い肌の砥石だ。

 台かんなをバラすと、刃を研ぐ。

 何やらすごく良く研げた気がする。組み立て直すと、いつもより薄く削る設定に調整する。


「では、ご覧あれ」


 アキラはそう言うと、机の上に軽く鉋を当てた。

 しゅる、と幅の狭い削り節が出てくる。机の色がまだらに変わってゆく。削れた屑はやがて薄く繋がったものになってゆく。

 机の上のまだら模様がなくなると、更に仕上げに薄く削る。


 出来ました、とアキラは二人のほうに文机を押しやる。が、二人は見ていない。鉋の削り屑を見ていた。


「この木屑だけで財物やも知れぬ。いや、この机を触ってみよ」


 二人はかわるがわる机を撫でて、その度に変な声を上げて感心した。


 夕方、アキラは屋敷の主人の前に通された。源の頼信だ。

 50歳程だろうか。厳しい顔つきは武者特有のものだ。

 頼信殿は手紙を読み、文机を撫ぜて、そして、この仕上げにいかほどの暇が要るようだったかと彼の息子達に聞いた。


「一刻とかかっておりませぬ」


 頼義殿が答える。


「こやつが言うに、もっと大きな道具が作れるゆえ、さらに暇は要らぬようになると。幾つも作って大工に使い方を教えるとか」


 頼信殿は唸ると、アキラに尋ねた。


「吾子の技であろう。やすやすと教えてよいのか」


「下野へ急いて戻らなければならぬゆえ」


 アキラは答えになっていない答えをした。


「頼季様の一の家来としては、あまり長く暇をいただいておく訳には参りません」


 アキラの周りで、三人が揃って唸った。


「よし、こうせよ。

 アキラは台かんなをつくり、大工共に使い方を教えよ。

 但し、台かんなは我が家のものとする。褒美にも与えるな。台かんなの作り方は隠しおく。アキラも作り方は教えるな」


 頼信殿の言葉に、二人の息子とアキラは頭を下げた。


        ・


 早速、三条釜座の鍛冶屋に鉋の刃が注文され、鉋の台となる材木が用立てられた。

 注文はさすが都では通貨が使われる。但し実際には全てがツケだ。貨幣の移動はまったく生じない。ツケは年末にまとめてうまいこと精算勘定されることになっていた。

 アキラは屋敷の庭で鋸を使ってまず作業台を作った。嬉しいことに都では釘が比較的気楽に使える。鋸で切り出した板で作業台に筋交いを入れてみた。

 作業台にかんなをかけ、真っ直ぐな面をつくると、なんというか工作機械の風格すら感じられる気がする。


 作業台を使って鉋の台を切り出し、整形する。刃を収める溝を掘る。今回作るのはちょっと本格的に、刃に当てる当て金を一緒に組み込むことにしていた。


 なかなか鍛冶屋から刃が納品されなかったので、アキラは暇になった。


「遊んで参れ」


 頼義殿もそう言うし、アキラは出かける事にした。


          ・


 そう言われて出かけたのが砥石探しだというのが何とも。

 アキラは自分の馬を駆り、三条通りを真っ直ぐ西へ向かう。

 雰囲気としては人口十万から二十万人規模の地方都市、といったところだろうか。21世紀の地方都市は郊外も発達しているから直接は比べられないが、中心部の雰囲気と言うか、寂れ方は近い。

 賑わうところは存在するし、人の多いところも存在はするが、この人口は商業人口ではない。


 およそ3キロも進んだところだろうか、朱雀大路を越えて、更に小さな橋を超えると、とたんに風景は原野と化した。

 いや、建物も見かけるのだが、いかんせんその間の土地が原野となっており、全般に何と言うか、造成したが企業が移転してこなかった工業団地を数十年放置したような景色である。

 道はその跡らしきものが残るのみである。かつては広かったであろう大路は薄で覆われ、細い道だけが曲がりながら続いてゆく。

 そんな道でも、都の西の端らしきところまでちゃんと続いているのだから偉いものである。まぁ、その先の道も同様の調子なのだが。

 辿りついたのは未来の観光地、嵐山だ。勿論この時代でも観光地である。

 有名な、何と言ったっけ、橋のあるところにもちゃんと橋が掛かっている。欄干も無い板橋だが、作りはしっかりしているように見える。

 アキラは桂川の川原に降りて、そして川上を目指しはじめた。

 

「そこは邪魔だ。川より上がれ」


 声のほうを見ると釣り人がいる。なるほど、川の中に人がいては邪魔だ。アキラは川原へと上がった。


「ほう、長き刀よな」


 狩衣を着て50歳ほどか、更に上か。柔和な顔色だが、さっきの言葉遣いからみて貴族だろうか。

 ここは都、貴族などひと山いくらでいるのだから、こんなところで出くわしたとしてもおかしくはない。

 見せよと言う釣り人に、アキラは刀を差し出した。


「何ぞ、なまくらではないか」


 だからこれから、ここの砥石で研ぐのだというと、釣り人は手をひらひらさせ、しばらく川上へ行くとよい、と言った。勿論、川には入るな、川には落とすなと言った上でだが。


 アキラは更に1キロほど上流に遡り、青い砥石の露頭を見つけることが出来た。ちょうど良い大きさの岩を鹿皮の袋にたっぷりと詰めて戻ってきたときには、釣り人はもういなかった。


            ・


 集められた大工は三人、いずれもアキラよりも若く、恐らく師弟階級の見習い程度のもののように思えた。その分やる気は強いが、恐らくこれは腕の良い大工を集められなかっただけに過ぎないのだろう。

 まずアキラが手本を見せ、少しだけ自分達で削らせてみた上で台かんなを分解させ、仕組みを理解させ、調整のしかたをざっと教える。再びアキラが鉋を組み立てて、もう一度削らせる。

 半日もしないうちに全員綺麗に削れるようになった。

 アキラは再び台鉋を分解し、全員にそれぞれ組み立てさせた。刃に裏表があることを注意し、刃の突き出しで削りの深さが変わる事を理解させる。

 翌日は、実際の床材を削らせる。アキラと頼義殿、頼清殿は出来上がりを検査して、これで良しとすることにした。


 アキラに新しい衣装が仕立てられた。その身長にあわせた紺の直垂だ。刀はとりあえず代わりのものが貸してもらえた。烏帽子も新調した。

 膝をついて頭を下げる礼の練習までさせられた。アキラと三人の大工は両膝をつかなければいけない。

 工事中の藤原の御堂関白、道長邸には裏口らしき門から入った。裏口と言っても大きく、武者の門番がいる。

 広い邸内をしばらく行くと、早速両膝をついて頭を下げることになった。藤原道長の家司、造営責任者様らしい。頼信殿としばらく話し込んだ結果、アキラたちは奥へと進むことが出来た。

 ところが何故か、しばらく歩くと屋敷の敷地から出て、隣の敷地へと案内された。

 隣の屋敷も工事中だ。そこでまず、試されるという事らしい。


 で、既に板張りが施工されている建物に案内されたのだが、


「アキラ殿、これは……」


「反ってますね」


 なんというか、材木の乾燥が甘いのと加工が雑なのが相まって、ひどい有様だ。

 床板は幅およそ1尺、長さ一間、立派なものだが、隣の道長邸でちらりとみた床材は幅も長さも倍くらいあった気がする。

 後で知ったのだが、この木材は皆、道長邸工事の為に集められた木材からパクってきた端材らしい。

 床板の端には長方形の穴が二つ並んで開いており、両端であわせて4つ、これを床下の構造材、押木と呼ぶらしいそれに開いた穴にあわせて楔で固定するのだが、この施工もひどい。穴の大きさがバラバラで楔がガッタガタだし、楔の頭は床から飛び出している。

 

 とりあえず床の状況を検分だ。画板の上に紙を広げて、さっくり図面に状況を書き込んでいく。竹を削って作ったゲージを使って、床板の高さのばらつきも記録する。


「全部ばらしたいところだが、やっているとキリがないので、これより印をつけるものを剥がし、印のところを削ってくれ。

 穴の大きさも合わせよ。まず印のとおりに削り広げてみよ」


 アキラは床板に直接印をつけていく。丸ひとつでゲージ一枚、丸ふたつで二枚、みっつで三枚。元の位置がわかるよう番号と噛み合せを示す記号も入れる。

 楔穴の新しく削る部分には竹のコンパスでけがいて墨で印をつける。幸いにも穴の大半はきちんとした寸法が出ている。問題はちょっとづつズレている事か。

 新しい楔でズレを吸収するしか無いだろう。


 余り部材を調達してきて新しい楔のお手本を一つ作るあいだに、大工たちは床板を留めていた楔を床下から叩いて引っこ抜き、そうして削る床板を庭に運び出していた。


 昼にはアキラは三人に昼飯を振舞った。単なる塩握り、一人当たり二つだが、カロリーを使う仕事では効果絶大だろう。このためにアキラは朝女房達に混じって台所仕事をしたのだ。


 その日のうちに床板を元のように組んで、新しい楔を打ち込んで固定するところまで作業は進んだ。


 夕方、造営責任者様が作業現場を訪れた。皆膝をついて頭を下げる。


「何じゃ、床がつるつるになると聞いておったのだが」


「支度をしておりました。床の様子をご検分ください」


 アキラは答えた。造営責任者様が床に上がり、その上を歩きながらフムとか何とかしばらく聞いた後、


「では、ツルツルは明日か」


「明日には必ず」


 アキラにはそう答えるしかない。


        ・


 翌日は皆床の上でどんどん鉋をかけてゆく。ガタガタの板の表面が均され、楔の飛び出しが削られ、そしてやがて床が光り出す。

 その日の夕方の造営責任者様の検分は、まずは絶句、そして絶賛だった。

 造営責任者様が床の上で足を滑らせ転んだのを笑わなかった事は褒めてやりたい。大工三人を褒めるのは勿論だが、アキラもよく笑わなかった。重ねて褒めてやりたい。


        ・


 翌々日は道長邸での作業となった。

 使われた部材も施工も上等になっていて、鉋がけの障害になるような不良箇所はほとんど見られず、作業は格段に楽になった。

 アキラは屋敷の細部まで検分して、その規模に舌を巻いた。


 建物ひとつひとつはそれほど大きなものではない。南北に細長い敷地に二つの寝殿づくりがあったが、メインの寝殿の大きさは薬師寺の金堂とさほど変わりない。

 違うのは床板だ。思えば薬師寺の金堂の床は土間だった。

 板一枚作るのにどれほどの労力が必要か知っているから、その板を桁違いの規模で敷き詰めた富というものがアキラには実感できた。この規模と枚数なら外洋船が作れるのではなかろうか。

 敷居が高いと床板の端を削るのに問題になるかとアキラは心配していたが、敷居と床板はツライチになっていて胸をなでおろした。


 寝殿より少し規模の小さいのが東殿と北殿という付属建築だ。これは建物の幅はそのまま奥行きを削っていて、その分屋根が低くなっていたが、床面積はさほど変わりない。

 庭の池にはまだ水は入っていない。池は南北の寝殿造りで共有する造りだった。その境界には目隠しの島々が浮かぶ設計になっていた。その池に突き出した釣殿もアキラたちの仕事の範囲だった。

 これら建物を繋ぐ廊下はこの時代立派な部屋扱いなのだが、アキラたちの仕事の対象からは外してもらえた。というのもこれが果てしないからだ。これら全部を鉋がけしていたら夏いっぱいかかったことだろう。


 屋敷の建物はほとんど完成が近く、屋根瓦もほとんど葺かれて内装工事が始まっていた。寝殿の作業を終え、内装工事待ちになってちょっと暇になったアキラは画板を広げてスケッチをはじめた。


 構図は、泉殿と呼ばれる小さな建物から渡り廊下が連なる様子がパースを強調して並び、遠くの大きな寝殿をいわばバックに浮かび上がらせていた。

 池に水が張っていたら、水鏡で更にいい感じになっていただろうと思うと、ちょっと勿体無い気分だ。

 竹ペンの先を削って、細部を書き込んでいく。屋根を歩く職人までざっくり描き込む。オタの技芸としてメカイラストはたしなみの範疇であろう。影に斜線を入れていく。背景にロボ描いてやろうか。


 ふぅ、と一息ついたところで、背後に気配を感じた。


「それで出来たのか?」


 振り向くと、やはり貴族だ。ただ、この剣呑な感じは武者のようだ。この感じは上野国司、藤原定輔殿に近い。


「出来ましてあります」


 言葉を選ぶべきだろう。


「奇妙な絵よな。ふむ、吾に渡されよ」


 何言い出しやがる。しかし、ここで逆らうのは全く得策ではない。アキラは画板から紙を取り、貴族に差し出した。


「名は何という」


「藤永の明にあります」


 貴族は少し考えると、銘を入れよ、と言った。


「考えてみれば、どのみち聞かれるのだからな」

#19 土御門殿について


 藤原道長の邸宅、土御門殿は現在の京都御所の東中央辺り、仙洞御所の辺りの位置にありました。南北に細長い2町分の広さのある敷地にあった建物は長和5年(西暦1016年)に焼け、しかし各国の受領たちの熱心な寄進によって再建されることになります。源頼信の兄、源頼光はこの時伊予の受領で、多量の調度品を贈って人々を驚かせています。受領の中の受領です。

 物語直後の6月に道長はまだ工事中の土御門殿に移っています。土御門殿は1018年10月には完成し、この時の祝宴で有名な歌「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」が詠われます。ただ、この頃から道長は糖尿病の重い症状に苦しむようになります。

 土御門殿はその後半世紀ほどは数度の消失と再建を繰り返しながら存続しましたが、その後は長く荒廃することになります。荒地に池も残っていたようで、仙洞御所の中の池は道長の土御門殿の池の再利用ではないかと思われます。ちなみに南北朝期からの里内裏、御所の原型である土御門東洞院殿はこの土御門殿より3町西、1町北の位置にありました。

 土御門殿の工事を差配したのは藤原道長の家司、藤原惟憲です。彼は土御門殿の直ぐ西側隣に邸宅を構えていました。そもそも土御門殿の焼失の原因は藤原惟憲邸からの出火でした。彼の邸宅も同時に再建されますが、どこから資材や職人を調達したかは、誰の目からも明らかだったことでしょう。

 主人への贈り物の一部を従者が横領するのはこの時代良く有ることでした。今昔物語集で言えば第二十八巻第三十、鯛の新巻を横領して他人に進物としようとしたところ、同僚に中身をすり替えられて恥をかく話などが顕著な話でしょう。

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