#8 従魔のバースデー
今回は頑張ろう!
と意気込んだ結果まさかの1日2話投稿になってしまいました。
次話へのプレッシャーが(¯―¯٥)……。
しばらく寝転がったまま天井を眺めていると、ズルズルと音が聞こえた。
何事かと視線を横に向けてみると、蝙蝠の死骸が2つとも、地面に飲み込まれかけていた。
「へ?……えぇぇぇぇ!?」
思わず驚きの咆哮を上げながら後ろに飛び下がる。
そのまま寝転んでいたら自分も飲み込まれてしまうような想像をしたからだ。
寝転んだ姿勢から急に飛び上がったために腰が悪化していないか心配したが、腰だけでなく左腕の痛みもすっかり取れていた。
警戒して壁からも少し離れた位置で、蝙蝠達の様子を観察して見る。
蝙蝠達の死骸の周りには、水面の波紋のように白い光が波打っている。
まるで底なし沼に飲み込まれていくように、少しずつゆっくりと岩にの中に沈み込んでいく。
その身体はすでに8割ほどは岩に埋まっているだろうか。
明らかに異常な光景なのだが、どこか自分の中に既視感というか、一つ思い当たるフシがあった。
初めての蝙蝠との戦闘の後、眠りから目覚めた時蝙蝠の死骸は跡形なく消えていた。
もしかすると、あの時もこんな風に地面に死骸が飲み込まれてしまったのではないか。
そして、死骸の周りに薄っすらと浮かび上がっているあの光の波紋。
あれもどこかで見た気がするのだが……。
そう考えている間に、蝙蝠達は完全に飲み込まれていった。
(つい最近どこかで見た気が……あ、そうか。)
彼が思い出したのと同時に、その疑問の答えである半透明のウィンドウが現れた。
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〜 種族レベルがレベルUPしました 〜
種族:魔人 Lv.8 → Lv.14
職業:ダンジョンマスター Lv.1
ランク:B → B+
HP:C+ → B- MP:A
攻撃:C+ 防御:C
魔攻:A 魔防:A-
俊敏:B+ 知能:EX
器用:C- 幸運:B
スキル:
【ダンジョンメニュー】
【絶対領域】
【マスター権限】
【魔力開放】
【???】
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蝙蝠を2体も倒したにもかかわらず、レベルの上がりが前回よりも悪い。
レベルアップによる影響だろうか?
ステータスも、DPを使って強化した防御以外は前回とほとんど変わらない。
(HPだけはランクが上がったようだし、まぁよしとするか。)
続いてダンジョンメニューを確認してみる。
蝙蝠を倒したのだし、少しはDPが増えていることだろう。
レベルアップの件もあり、あまり期待はできないが……。
そう後ろ向きな予想をしつつ、ウィンドウに軽く触れる。
光の波紋が生まれ、ウィンドウが切りかわった。
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〜 ダンジョンメニュー 〜
所持DP:2,200P
ダンジョンの拡張・編集
サブメニュー
魔物の召喚・強化
アイテム購入
ダンジョンマスターの強化
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「おぉ!」
思わず歓喜の声を上げる。
まさか2,000DPも増えているとは。
ショボい上がりしか予想していなかったために、この高収入はより有り難く感じる。
蝙蝠一匹頭1,000DPの計算だろうか。
なら、余りの200DPは初期ボーナスといったところか。
DP履歴を確認したところ、その考えで正しいようだ。
さっきの蝙蝠達の死骸が地面に飲み込まれていったのは、ダンジョンマスターとしての自分の能力によるものだったらしい。
ああして倒した相手の死骸を吸収することで経験値やDPを得ているようだ。
飲み込まれ始めるまでは結構なタイムラグがあったから、素材やなんかとして使いたいときはその間に袋などに入れて回収すればいいだろう。
少なくとも今のところはそんな予定はないが。
さて、異常な現象の解説も済んだところで、今回はどんな風にDPを使おうか。
未だ安全とは言い切れない状況で貯蓄という選択肢を取れるほど僕は強い魔人じゃない。
馬鹿の一つ覚えでまたステータス強化を行うのも良いが、防御に関しては前回の強化で十分な効果を実感できた。
もう一度くらい強化しておきたい気もするが、別に今回でなくてもいいし、いたずらにDPをすべてつぎ込む必要もないだろう。
今回の戦いで、1対1の状況でなら不意打ちを打たれなければ余裕を持って戦える事は分かった。
外敵の脅威がマシになったので、次は安心して眠れるようにしたいところだ。
歩き疲れや戦闘で負った傷、消耗した体力はいつの間にか回復しているが、精神面はそうはいかない。
死線を彷徨い、いつ襲われるかも分からない恐怖と戦い続け、立て続けに生き物の死を目の当たりにした。
心が疲れ切ってしまっていたのだ。
一刻も早く安心して眠りたい。
僕の心はすでに、睡眠への欲求で染まっていた。
安心して眠る為にはどうすればいいのだろうか。
安全地帯を購入するにはまだDPが足りない。
なら、寝ている間中誰かに守ってもらえば良いのではないか。
そう思いたち、ダンジョンメニューから、「魔物の召喚」の項目を見てみる。
魔物の名前と消費DPを記載したリストが出現した。
下は50DPのゴブリンやコボルトなどのメジャーなザコモンスターから、1億DP超えのエンシェントドラゴンロードなどおびただしい数の魔物がリストに載っている。
というか、リストの中にバハムートやヨルムンガンドなどの名前がちらりと見えたが、この世界にもいるのだろうか?
彼らが従魔として言うことを聞いてくれるような存在なのかは怪しいところだ。
それ以前に、天文学的な数字とはいえそれだけのDPを払えば彼らを呼び出せるというダンジョンメニューは一体何なのだろうと疑問に思うが、考えても答えが出るはずもなかった。
話を戻して、どんな魔物を召喚するかだが、正直これといった候補がいなかった。
現状を打破するにはどれ程のモンスターを呼べばいいのか、まるで検討がつかないのだ。
また、何をもって現状の打破と呼ぶのかも自分の中でこれといった答えがあるわけでも無かった。
要するに、魔物を選ぶための基準が無いのだ。
どうするべきかと悩みに悩んだ結果、考えても分からないのだから天に運を任せようということで、「ランダム召喚(1,000DP)」を行う事に決めた。
これは文字通り、リストにある魔物一覧の中からランダムで一体を召喚するというギャンブルに近い召喚機能だった。
ただし、バハムートなどの神獣クラスの一部の魔物は対象外で、それらの魔物を喚ぶには「ランダム召喚プレミアム(100万DP)」の方を行う必要がある。
とはいえ、ランダム召喚でも12万DPのレッドドラゴンなど強力な魔物を呼び出せる可能性は十分にある。
現状魔物を選ぶ基準がないのだから、なるべくなら強い魔物を喚びたい。
貴重なDPを運に任せて使ってしまっていいのか。
そもそも、魔物を召喚することが彼の中で既に決定事項となってしまっているわけだが、ここで改まって他の案を考え直しているだけの余裕は、今の彼にはない。
どのみち遅かれ早かれ魔物が必要になることに変わりはないので、彼の行動が間違いだというわけでもないのだが……。
そして、覚悟を決めた彼はゆっくりとウィンドウに手を伸ばした。
――運命の瞬間。
緊張が指に伝わり、プルプルと震える。
これでドラゴンでも出すことが出来れば、安全に生きることができるかもしれない。
(お願い……出て!)
気合と祈りを込めてウィンドウに触れる。
――――――――――――――――――――――
〜ランダム召喚を行いますか?〜
はい/いいえ
消費DP:1,000DP
所持DP:2,200DP → 1,200DP
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はいを押した瞬間、足元の近くの地面が淡く発光した。
「うぉ!?」
驚いて見てみると、蝙蝠の死骸が吸収されていったときとは逆に、真っ白なモジャモジャの毛のようなものが、光の波紋を広げながら地面から浮かび上がってきていた。
(お願い、お願い、お願い、お願い……)
強力な魔物が出てきますようにと、一心不乱に祈り続ける。
やがて光が収まり、魔物の全貌が明らかとなった。
暗闇でも紅く光る8つの目、白く分厚い毛に覆われた胴、艷やかで鋭利な先端を持った8本の脚。
――体長1メートル程の真っ白な蜘蛛がそこにいた。
次回、主人公の名前が決定!?
蝙蝠「だから遅ない?」