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#7 薄幸のリベンジマッチ

サブタイトルはバットと絡めたかったなぁ……とか思ってみたり。

あれから散策のために3時間ほど歩き続けている。

追加のDPに期待できない今、食糧をDPに頼るのは拙い。

自力で調達できるならばそれに越したことはないだろうと思い、散策に挑んだのだ。

第二の蝙蝠のような魔物に遭遇する可能性も考えないではなかったが、あそこでじっとうずくまっていた所で事態が好転するとも思えなかった。

なにより、ずっと一箇所から動かずにいるという事が精神的に辛いものがあった。


洞窟の出口だと思っていたものは天井を覆う岩に空いた裂け目で、そこから光が漏れ出ていた。

わずかに見える空はほんのりと赤紫の光を放っていて、改めてここが異世界だと認識させられた。

裂け目は人一人くらいなら余裕で通り抜けられる大きさであったが、天井が今までの道よりも殊更に高く、今の自分では自力で登ることは不可能だと思われた。

ならば他の出口はないのかとさまよい歩き続けてきたわけだが、思いの外にこの洞窟は大規模なものだったらしい。


ダンジョンメニュー内にテレポート的な便利機能はないのかと探してみたが、どうやら「マスタールー厶」という専用の施設を購入しなければ使えないらしい。

他のダンジョンマスター達は一体どうやって管理しているのだろうか?

他のマスターに会う機会があれば聞いてみたいと一瞬思うが、マスター同士が出会った場合ダンジョンバトルが強制的にスタートしてしまうでは無いかと自身の好奇心に全力で反論する。


そんな益体もない事を考えていると、ふと異臭が鼻を掠めた。

獣の放つ独特の体臭に血生臭さが入り混じっている。

嗅いだことのある臭いだ。


――(蝙蝠(アイツ)が近くにいる!)


臭いはどんどん近づいてきているが、姿はまだ見えない。

(逃げなきゃ……!)

自分の元来た道を急いで引き返す。


が、それが間違いだった。

勢い良く走り出してすぐにソイツは目の前に現れた。

「……っ! なんで!?」

驚愕のあまり大声で蝙蝠に問いかけた。


洞窟内はずっと一本道であったから、蝙蝠は自分の進行方向から迫って来ているのだと思いこんでいた。

しかし実際には蝙蝠は仲間の死の匂いに引き寄せられ、彼が洞窟内を歩いている間ずっと、気づかれない様にかなり後ろからつけてきたのだ。


嬉しくない、いやむしろ最悪と言っていいこの再会(別個体なので正確には再会では無いのだが)が、彼を絶望させたのは言うまでもないだろう。

動悸が早くなり、汗が噴き出す。

脚が震え、呆然とその場に立ち尽くす。

だが当然蝙蝠の方は止まるわけがなく、飛翔してきた勢いそのままに、奇しくも最初に出会った蝙蝠と同じ様に肩口に躍りかかってきた。


鋼鉄のような足の爪を起用に引っ掛け、異常に発達した鋭い牙を首筋に突き立て、齧り付こうと――


「痛ッ……た……くない??」


――齧り付こうと突き立てられた牙は、首の皮を突き破ることは無く、ただほんの少し薄皮を削り取るのみだった。

「アギャ?」

予想とはまるで違う結果を見せつけられた蝙蝠は混乱を極めていた。

混乱しているのは彼も同じで、数秒間固まってしまっていたが、突然ハッとしたように身体にしがみつく蝙蝠を睨みつけた。

身体にとまった虫を嫌がる女子学生の様に、その場で懸命に手と足を動かし、乱雑な動きで蝙蝠を引き剥がした。

勢いよく投げ棄てられた蝙蝠は、地面に衝突するスレスレのところで大きな翼を広げて浮上し、目の前で静止した。


牙が通用しないと判断した蝙蝠は、攻撃手段を切り替えようと一度飛び下がり、そこから体当たりを決めようと、急加速して胸をめがけ飛び込んだ。

しかしその時、早く次の一手をと焦りながら彼が放った、右脚での前蹴りが奇跡的に向かってくる蝙蝠の顔面に炸裂した。

結果、最悪の形でまともに蹴りを食らってしまった蝙蝠は数メートルほど地面を転がるような形で蹴り飛ばされた。


無理な体制で蹴りを放ったことで後ろ向きによろけ倒れてしまっていた彼だが、思いの外遠くへ飛んで行ってしまったソレを見て、慌てて追いかけた。

『イギャァアアアアア!!』

走り寄って見下げると、蝙蝠は絶叫を上げながらのたうち回っていた。

例のごとく赤子の泣き声のようで不気味な事この上ないが、もはや聞き慣れてしまい冷静に様子を観察した。


蝙蝠はうつ伏せの状態から何度も起き上がろうとしては崩れ落ちていた。

地面を転がっている間に翼が折れてしまったのだろう。

他にも何箇所か負傷しているようで、腹の下は紫色に染まり、小さな血溜まりが出来ていた。


(今がチャンスだ!)

このまま放っておいても死ぬかもしれないが絶対とは言い切れないし、なによりいつまでもこの声を聞いているのは気分が悪い。

蝙蝠の体勢が整わない内にとどめを刺しておきたい。

僕はサッカーボールをゴールに向かってシュートするように、洞窟の左右を囲む岩壁に向かって思い切り蹴りつけた。


『アギャ!……』

岩壁に激しく叩きつけられた蝙蝠は、短い悲鳴を上げながら押し潰されて死んでいった。

ズルズルと壁に体液をこすりつけながら死骸が数センチほどずり落ちていき、グチャッという水っぽい音と共に地面に落下した。

すぐに紫色の血溜まりが出来上がり、辺りに獣の臭いが漂った。


安心感と共に疲れが重くのしかかり、その場に座り込んだ。

肩の緊張は解れ、その場でジッと蝙蝠を眺めた。

最初こそ死後硬直でビクビクとのたうち回っていた蝙蝠の死骸だったが、今は物言わぬ肉塊と化していた。


今の戦いを振り返って混乱する事が一つあり、考えを整理していた。

それはもちろん、蝙蝠の牙がまるで聞かなかったことについてだ。

これは十中八九ステータス強化のおかげだろう。

僅かにしかランクが上昇せず、ショボい効果だと正直後悔していた。

(まさかこれほど違ってくるだなんて……。)

初めて遭遇した時はあの牙で死の直前にまで追い詰められた。

それがさっきは互角かそれ以上に戦えていた。

これで少しは死の危険から遠ざかる事ができただろう……。


そう感慨に浸っていると、突然背中に重い衝撃を感じ、身体が前方に向かって勢いよく吹っ飛ばされた。

顔から岩壁にぶち当たり、よろけながら急いで後ろを振り返る。

よろけた拍子に蝙蝠の死骸を少し踏みつけてしまったが、それどころでは無かった。

なぜなら、振り返った先にいたのはもう一匹の蝙蝠であったからだ。


後をつけて来ていた蝙蝠は一匹では無かった。

先行した仲間の牙が通用しなかったのを見て、体当たりを主軸で攻撃しようと考えた。

ニ戦連続で先手を取られる形となり、しかも今回はかなり分が悪い。

幸い骨は折れていないようだが、激しい打ち身のためか全身がズキズキと痛む。

鼻から血が垂れ落ち、直接体当たりを受けた腰は筋肉をズタボロにされたようで、一歩踏み出すたびにズキリと痛む。


蝙蝠の方はこちらを挑発しているかのように、8の字を描きながらその場で飛び回っている。

こちらも体ごと向き直り、何とか構えようとするが痛みから上手く姿勢を保てない。


もたついている所へ蝙蝠が二度目の体当たりを仕掛けてきた。

脇腹を狙っての攻撃を、咄嗟に左腕で防いだが勢い余って押し倒されてしまう。

今の攻撃でも左腕は折れていないようで、ステータス強化の効果に感心はしたが、それでもジンジンとした痛みと痺れで腕を動かせない。


ふと、近くに転がっていた蝙蝠の死骸に目がいった。

こんな時に気にするべきではないだろう。

それでも何故か気になって右手でそっと触れてみた。

蝙蝠の身体はとうに冷たくなっていて、触れてもまるで反応がなかった。

言い表せないほどの虚しさを感じた。

このままやられっぱなしになっていては、自分もこうなってしまうだろう。

今の自分とこの蝙蝠の立場は紙一重だ。

こんな所でこんな死に方をするわけにはいかない。

(やるしかないよね……!)


覚悟を決め直し、床に倒れ伏したままの姿勢で3度目の突撃を敢行してきた蝙蝠に向きなおり、右手にすくい取った蝙蝠の体液をぶち撒けた。

仲間の体液をまともに目に浴びた蝙蝠は、突然の事に驚きの声を上げながら、勢いそのままに地面に突っ込んだ。

『イギャァアアアアア!!』

全身を強く打った蝙蝠が、痛みで絶叫を上げる。


(今だ!)

このチャンスを逃すわけにはいかない。

這う這うの体で蝙蝠のもとに駆け寄り、上に覆い被さる。

痺れたままの左腕を、仰向けで暴れまわる蝙蝠の首元に押し付け、体重を載せて抑え込む。

バサバサと体を打ち付けてくる翼の片方を右手で掴み、そのまま思い切り横に引き抜いた。

『イァギャァアア!?』


黒く艷やかな光を放つ翼は、身体から引き剥がされてなおバサバサと暴れ続けた。

翼の付け根の肉も一緒に取れてしまい、翼が暴れたせいで内蔵やらも漏れ出てしまうこととなった。

臓物が地面に流れ落ち、地溜まりが出来上がる。

目から光が消え、蝙蝠は静かに息を引き取った。


戦いが終わり、今度こそ本当に洞窟に静けさが戻った。

蝙蝠の拘束を解いて、横に寝転がっだ。

二匹分の蝙蝠の死骸に挟まれながら、ぼーっと天井を眺めた。

「勝った。」

そう小さくつぶやいて、しばらくそのまま天井を眺め続けた。

次回、ついに新キャラが……!

蝙蝠「ようやくかよ。」

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