#2 緊迫のファーストコンタクト
全話からの投稿が空きすぎてしまったために、やむなく一話あたりの文字量を減らすことにしました。
次話は直ぐに投稿できると思います。
蝙蝠という生き物のことは覚えている。
哺乳類の一種で、長く尖った耳に骨ばった四肢と、鳥のそれとはかなり異なるが大きな翼を持ち飛行することができる。
超音波という、人間の耳には聞こえないほどの高音を発しその反響で自分の周囲を把握することができる。
一部の種類は人間など他の動物の血液を吸うこともあり、夜闇に紛れて活動することから、古代より悪魔の化身や吸血鬼の眷属などとして伝承や物語の中では扱われてきた。
たった今目があった、天井からぶら下がってヨダレを垂らしながら僕を見下ろしている(あるいは、見上げている)ソイツは、どう見たって蝙蝠だった。
ただ、僕の知ってるソレと違うのは、ソイツの体が翼を畳んだ状態でも大型犬ぐらいの大きさをしていて、異常なほどに発達した牙が2本、2列に並んでいたことだった。
見るからに不気味で獰猛そうな顔をした蝙蝠は、身じろぎ一つせずジッと僕の方を睨みつけている。
(アレは獲物を狙う肉食動物の目だ…)
心臓を掴まれているかのように苦しく、呼吸が上手くできない。
身体の末端から徐々に感覚が溶け出していく。
恐怖が僕の体を凍りつかせていく中、食事を目の前にし腹を空かせた獣が、我慢できずに再度ヨダレを垂らした。
雫が落ちてくる。
溢れ出した恐怖は、僕だけでなくついには空間までを凍りつかせ、僕には雫が空中で止まって見えた。
実際には2秒にも満たない落下時間が、眼前に近づくに連れて際限なく引き延ばされていく。
けどまぁ、当然の如く雫は実際に止まっているわけじゃないし、僕の元に落ちてくるのを渋ってるわけでもない。
身体が機械的に瞬きをした直後、冷たい、覚えたての感覚が額を打った。
生々しい、リアルな刺激が意識を現実に引き戻す。
冷たい、思いの外にサラサラとした液体。
僅かに獣の匂いを放つそれは僕の額で押しつぶれた後、ゆっくりと曲面を伝い降りてきた。
ついさっきまであの蝙蝠の口内で牙垢や大量の雑菌と混ぜ合わせられていたそれが、僕の額を湿らせていた嫌な汗と絡まり合って・・・
「きたなっ…!」
場違いなほどに率直な感想を僕は叫んでいた。
蝙蝠の種族名はケイヴバットです。
ブではなくヴなのがポイント。
実はそれなりにレアな変異種なんですが・・・
その話はまた別の機会に。