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滅び行く世界にりんごの木を

作者: ゆーうに

 風が砂を高く舞い上げ、砂煙が辺り一面を覆い隠す。視界が茶色く濁りだした所々で、蜃気楼かそれともまやかしなのか分からないが、大きな四角い建物が私の目の前に現れた。


 ビルというと、それはすでに何百年前の古代遺産である。名前は知っていても実物を見る人はほとんどいない。だから私がそれを見たときはビルだと直ぐには分からなかった。

 

「これがビル、、一体どれだけ高いのだろう」


 砂嵐を避ける形でビルの中に入り込んだ。中は中央が吹き抜けになっており上が見上げられる構造になっていた。上は何階層にもなっており、旧文明の凄さが肌で感じられた。別に上へといく必要は無いのだが、好奇心には勝てない。上への階段を探し始めた。


 そんな階段を探している最中のことだ。私以外誰もいないと思っていたこのビルの何処からか物音が聞こえた。これほど老朽化した建物だ。風や砂嵐の影響で何処か破損したとしてもおかしくはない。


 しかし、その音は規則的にリズムよく聞こえてくる。その音は人間、もしくは何かしらの動物に確かだろう。どちらにせよ珍しい。この地球に人間も含め動物の数は非常に少なくなってしまっているからだ。


 徐々に足音が大きくなっていく。上への階段、いやこれはエスカレーターというものだろう。昔はこの階段が動いていたらしい。よく分からないけど、動いていたらしい。


 その上。エスカレーターの上である2階部分。足音はそこで止まった。顔を上へとあげるとそこには小さな少年が立っていた。ぼろぼろの砂まみれの服に、砂漠では必需品である靴さえ履いていない。


「君は、、管理人?」


 私はそっと口を開いて尋ねた。彼は小さくこくりと頷いた。まるで無垢な子供が何故こんな場所にいるのか疑問に思うことも多いだろう。彼はここの管理人であり、私はその管理している物を目指してここに来たのだ。


「お姉さんは、食べに来たの?」


「そうよ。案内お願いできる?」


「砂嵐が終わるまで待って」


「分かった」


 確かに、こんな荒れた天気の中外に出ることさえままならない。何故か、それは外にあるからだ。今では全く見ることが出来なくなった植物を見るために。


 私は旅人だ。砂の世界になってしまった地球を徒歩で、もしくはオーパーツ扱いであるバイクで旅をしている。しかし、砂の世界ではタイヤが役に立つことは非常に少ない。


 世界一高い塔、海峡を渡る大きな橋の残骸や海に沈んだ都市など様々な旧文明の遺産を見てきた。そんな中で、まだ見たことないもの、、ではなく食べたことないものがあると聞いた。


 それは林檎という果物である。そもそも果物という概念がよく分からない。本によると赤く、もしくは緑色で、食べると甘酸っぱいらしい。だが、、甘いや酸っぱいとはどんな味なのか?


 時間が経ち、夜が明け、また同じような時間になった。別に私たちは、たいした話をするまでもなくただ並んで座っていた。私がご飯を食べる時にいるか尋ねたが、首を横に振るだけだった。噂によると、何も食べないのだとか。


「止んだ」


 突然、少年がそう呟くと立ち上がって外へと歩き出した。慌てて荷物をまとめてそれの後に続く。階段を降り、そのまま裸足で躊躇なく外へと出た。普通なら暑くて数秒も立っていられないはずだ。


「暑くないの?」


「大丈夫。それより、ちゃんとついてきて」


 高いビルが立ち並び、時々ビルの間を駆け抜ける風によって砂が高くまで舞い上がる。しかし、少年はそれを予知しているかのごとく綺麗にそれを避けながら進んでいった。


 数分は歩いただろうか。都市の中央付近だろう、突然辺りが開けるのを感じ取った。目の前には硬い石の塊ではなく、茶色と緑色の何かが私の目の前に姿を見せた。


「これが植物?」


 今まで見てきた何とも違う。確かにそれは建物と同じように硬く大きな物だった。何処でも見たことないような、明るい緑と茶色。まるで建物が人の形をして息をして呼吸をしているような感覚がした。


「そうだよ。凄いでしょ?」


「うん、、」


 風が吹く度のガサガサと音をたてる。そっと茶色の部分に手を当てると、ほんのり冷たくみずみずしさが感覚的に伝わる。そんな不思議な感じの手前、赤い何かを見つけた。


「それが林檎だよ」


「貰ってもいいの?食べても?」


「いいよ。でも、戻れなくなるかもよ」


「戻れなく?何に?」


「元の食事に」


 元の食事、それは私達が普段食べてるレーションという物だ。何処から流れてくるかは分からない。どの土地でも手に入りその価値は空気に等しい。これの作り方は知らないし、何かも分からない。ただ、食事として食べているだけだ。


 私は林檎をまじまじと見つめ、手にもぎ取った。そっと鼻に近づけると、なにやら嗅いだことがない匂いがする。口の中に不思議と唾がたまっていった。食べたい。食べてみたい。その欲求で頭がいっぱいになる。


「食べるわ」


 誘惑に負けた私は林檎の躊躇なく噛みついた。レーションと同じように硬かったが、味は全く違った。初めて食べたこの味は、酸っぱいや甘い、しゃりしゃりと口の中で自然と砕け散る食感。


「!!」


 これが、その味。確かにこれを食べてしまえば、今までは生きるための行為でしかなかった食事が出来なくなってしまうかもしれない。これを食べて初めて分かる。レーションは不味い。


これ以上はいけないと私の頭が警告した。もう一口食べてしまったら、本当に戻れなくなりそうだ。だから、その林檎を口から放して彼に聞く。


「これ、どれくらい持つの?2年?3年?」


「そのままだと数週間だよ。細く切って乾燥させればもっと長く持つけど」


「乾燥?服みたいに干せばいいの?」


「大体そんな感じ」


 ナイフで林檎を慣れた手つきで解体し、それを入れ物へと入れた。バイクは最初に入ったビルに起きっぱなしだからだ。そしたらその上に干すことにするつもりだ。


「ありがとね管理人さん。もう行くわ」


「そう」


 林檎の木をカメラで写真に取り、その場を後にした。ざわざわと鳴り響く葉っぱの音と、リンゴの酸味がいつまでも口の中に残っているような気がした。



 彼女が去ってから数分後、何処からかピシッとしたスーツを着た男と白衣を着た男の姿が林檎の木の前にあった。管理人と呼ばれた少年も一緒である。


「地上での植物の成長具合はどうかね?」


「微妙ですね。品種改良がまだ必要です」

滅び行く世界は不思議で溢れている

というタイトルで長編にします

2017/10/29/6時~(https://ncode.syosetu.com/n8118eh/)

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