プロローグ
はじめまして。瀬戸真希です。
趣味は寝ることと寝ること、そして寝ることです。
初めての投稿です。
拙い部分もまだまだあると思いますが読んでいただけると幸いです。
ルードビッヒ・ヴァン・ベートーヴェンという名前を聞いたことはあるだろうか?数々の名曲を作り出した、最も偉大な音楽家の一人だ。
その中でも、彼が晩年に作曲した交響曲第九番ーー通称「第九」ーーは、知らない者がいないほど有名だ。恋愛や家庭の事情、そして難聴。幾度も壁にぶつかり、それを乗り越えてきた彼だからこそあの曲を作ることができたのだろう。
第九を聴けるなんて俺は幸せ者だ。ベートーヴェン最高、ベートーヴェンよありがとうーー
「友人は学生生活だけでなく生涯に渡って非常に重要な存在でありーー」
などと現実逃避をしている最中にも、先生の説教は続く。談笑しながらも、時折チラチラ向けてくるクラスメイト達からの視線がめちゃくちゃ痛い。
この事件の発端は数分前にさかのぼる。
入学三日目の四時限目。つまりこの国語の授業だ。初回ということもあり、授業で習ったことは一年間で学ぶことや成績の評価の仕方などの簡単なガイダンスのみ。早めの昼休みを堪能できるとと思った矢先、何を思ったか先生が「残り時間で隣の人と話してみましょう」と言ったのだ。
俺の席は一番窓側の列の前から二番目の席。左隣はいないので、必然的に右隣のやつと話すことになる。だが右隣のやつはあろうことか後ろの席のやつと話していた。「隣」の意味をわかっていないのかしらん?それともなければ「テメェとは話さねぇよバァカ」という意思表示なのかしらん?
ちなみに前の席のやつは先生の言葉通りちゃんと隣の席のやつと話していた。えらい。
結果として話し相手がいない状態になってしまったので、暇つぶしに鞄の中から読みかけの本を取り出して読むことにした。すると先生が俺の前に来て突然説教を始めたのだ。どうやら彼には「俺が隣のやつと話すのが嫌なので漫画を読み始めた」ように見えたようだ。
誤解を解こうと隣の席のやつのほうを見たが、彼はこちらのことなどどこ吹く風。後ろのやつとそれはもう楽しそうに談笑していた。
ーーというわけで、この中年教師の盛大な勘違いのもと、俺は現在進行形で説教をされているわけだ。しかもその内容が「いかに友人が素晴らしい存在か」という小学校の道徳とかで習いそうなこと。ストレスがたまりにたまり、今すぐにも「うるせぇ、このハゲ!」と怒鳴り散らして教室から飛び出してしまいたい欲求にかられるがぐっと堪える。
ここは話を聞いている風に装いながら、心を無にするのが正解だ。あとは時間が経つのを待つだけ。
「ーー今は必要ないと思っていてもあの時ちゃんと友達づきあいをしていればよかったと後悔する時がーー」
と、そのとき、突然腕にかゆみを感じた。見ればほのかな赤みを帯びて腫れ上がっている。つまり蚊に刺されたわけだ。四月なのにもういるのかよ……。
「ーーそのためにもコミュニケーション能力は社会人になる前から養うべきであってー」
ブーン。まだいるようだが、俺の目はまだ蚊を捉えていない。
次の瞬間、今度は首の後ろにかゆみ。どうやらまた刺されたようだ。次見つけたら叩き潰してくれる。
「ーーであるからーーであってーー」
ブーン。ついに蚊を視界に捉えた!やつは俺の血をたっぷりと吸ったからかフラフラと飛行していたが、やがて透明な壁面にその六本足を下ろした。
「そこだぁ!!」
二度も血を吸われた恨みを晴らすべく、左拳で思い切り蚊を殴りつける。
だが、俺は怒りのあまり忘れていた。やつがとまっていたのは、透明な壁面。つまりーー
バリィン!おおよそ蚊を仕留めたとは思えないような音が、教室に鳴り響いた。
教室に日光と開放感を与えていた窓ガラスは、俺の拳を中心にクモの巣状のヒビが入っていた。
さて、ここで問題です。目の前の生徒が突然窓ガラスを割ったら教師はどんな反応をするでしょう?ただし教師は中年ハゲであるとする。
「一ノ瀬、今すぐ職員室へ来なさい!」
「禿げ上がった頭を真っ赤にして俺の腕を引っ張り、職員室へ連行する」でした。
こうして俺、一ノ瀬宏太の高校生活は最悪な形で始まったのだった……。