西ソビエト連邦政府樹立と極黒の影
スターリンの死後、ソ連は従日派と従独派に分かれた。
連日連夜、会議は行われはしたが机上の空論ばかりで現実的な案は出ず
極端な意見のみしか言わない両派閥の対立は深まった。
そう、混沌としていたソ連に自由が訪れる事はなく、新たな分裂を招くだけであったのだ。
その原因は、歯向かう者、苦言を呈する者は悉く極刑に処されていたソ連スターリン政権下では
有能な人材は数少なく、事実、操り人形のみが上層部に残されてしまったのだ。
その一人、ロディオン・マリノフスキー元帥は従独派としてクラスノビシェルクスにて
西ソビエト連邦政府を樹立、その背後にはヒトラーの影があった・・・。
「西ソビエト連邦を樹立?ふざけるな!」
普段は温厚な東条が激高する。
報告に来た岩村忠雄中将は背筋を凍らせた。
「ど、どうやらヒトラーが本案件にかかわっていると思われます。」
「当然だろう。ソ連を緩衝地帯にするつもりで西ソビエトに手を貸しているとしか思えん。
だが、ヒトラーの真の目的は───」
『”時間稼ぎ”ですね。』
執務室に現れたのは山本五十六であった。
実は山本も報告を聞いて陸軍省に駆け付けたのである。
「山本司令殿!」
敬礼する岩村、山本は軽く頷く。
「おっしゃる通りです。ドイツはイギリスの陥落を主として作戦を立てている。
しかし、東からアメリカ、西から亜細亜連合。二方面作戦を展開しつつイギリスを陥落させるのは
いくら血迷ったとしても絶対に無いでしょう。ですが・・・」
一呼吸入れる。
「”西ソビエトを緩衝地帯として使えば地形的にも半年は耐えることができる”」
「何故、そこまでしてイギリスを陥落させたいんでしょうか?」
岩村の質問に山本が答える。
「イギリスは位置的にアメリカのドイツ攻撃の足掛かりなのだ。
だが、ドイツにしてみればアメリカ本土攻撃の橋頭保を築く事ができる。
世界秩序にヒビを入れ、世界を混乱させるのがヒトラーの目的だ。」
岩村は無心状態で立ち尽くしてしまった。
「しかし、ドーバー海峡は狭いでしょう?」
東条が地図を指す。
「もっともですな。ですが、ここを守らなければイギリスは陥落するでしょう。」
両人とも暫し思考を巡らす。
東条が口を開いた。
「アメリカと講和したが為に使わなかった”神槍”、ここで使いますか。」
「沿岸部の土を掘り返すつもりですかな?」
ハハハ、と笑いが執務室を廻る。
「イギリスの許可は私が取りましょう。」
山本はそそくさと執務室を出た。




