核抑止の世界への舵取り
~亜細亜連合戦略会議室~
会議室は円卓を囲み行われる。
東郷の他に、中国海軍副総指揮官の”陳成都”、
満州海軍第二艦隊(現・満州国海軍インド洋派遣艦隊)戦術長の”來園曹”
の主要戦略メンバーと、将王勇や東王季といった司令長官級の面々が揃っていた。
この会議は歩調を合わせるために行う会議であるが、今回ばかりは少し様子が違った。
アメリカがアデン湾への武力介入を行おうとしているのである。
それは有難いことなのだが、日本の”五式重戦車”満州の”1.5世代主力戦闘機”蒼連”
中国の汎用護衛艦”天津型”の設計図と技術書を公開しろ、と言ってきているのである。
そして、普通ならばすんなりと断ることができるのだが...。
「東郷、どういうことだ。アメリカが核兵器を実用可能段階までしていたというのは。」
來園曹は深刻そうな口調で話す。
列席者は複雑な表情である。
それもそのはず、核兵器を保有するのは現在アメリカのみ。
日本、満州、中国は原子力を利用した艦船を建造しているが核弾頭などは一切持っていない。
東郷もこの話は渡された書類で初めてお目にかかった情報だ。
「我々の技術が漏れたわけではない。」
東王季の表情が強張る。
「しかし、”核兵器が完成することは知っていたのではないか?”」
東郷に目が向けられる。
頷く東郷。
「これは情報省の予測で分かっていたことだ。
しかし、対抗策が見つからない。
核兵器は落とされれば死の灰、つまり放射線に汚染された物質が降り注ぎ二次被害を起こす。
それを除去する研究は行っているが未だ雲をつかむ実験と言われている。
そして、なによりその実験で放射線を仮に除去できたとしたらどうだろう。
二次被害の無い大量破壊兵器は”抑止の力を失う”事になる。」
「核抑止の世界、ですか...随分と物騒な世界ですな。」
将王勇はそう言いつつ、それを望んでいるような口調で言う。
常に喉元に核を突き付けられる恐怖は計り知れたものではない。
国同士が疑心暗鬼になり、国際社会に核の優劣が作り出されこの亜細亜連合の団結さえも
脅かされるかもしれない。
「それで、アメリカが製造した核兵器の大きさは。」
陳成都は話題を動かす。
そうでもしなければ対抗策は全く上がらない。
何せ、自分たちも兵器とは違うが原子力としてその脅威と人類の割に合わない核の
強大さを知っているからだ。
「現在アメリカの開発中の爆撃機”B-29”に一発のみ搭載可能だ。
全重量7.5t、小型化はできていないようだな。」
「來園曹、持っているような口調だな。」
「持っているわけが無いだろう‼」
将王勇の軽口に叱咤する。
しかし、妙に過敏に反応している、と周囲は認識していた。
東郷が座席から立ち上がると
「会議は一か月後にもう一度しよう。」と提案する。
皆、無言で頷いた。
皆、疑心暗鬼の目を持ち始め、亜細亜連合に亀裂が生まれ始めていたことを東郷は悩んだ。




