覇道を阻む者
エドワードが防空壕から顔を出す。
そこには焦げたビルとコンクリートの残骸と瓦礫の山が残されていた。
しかし、エドワードの顔に曇りはない。
今やるべきことを果たすだけ。一日の準備を経て宣言する。
『現日時、1月1日”第三十三代アメリカ大統領にエドワード・ステティニアスを任命する』
フランクリン・ルーズベルトは大統領を辞任。
トルーマンは大統領になることを拒んだ。
これについては諸説あるが最も通説は国民の怒りがこちらに向かないようにするため、つまり
身の保身の為と言われている。
よって選ばれたのがエドワードである。
彼の大まかな公約は
・ドイツ第三帝国の侵略行為の対応
・米軍の規模と能力の増大
・雇用の増大
・外交によってのアメリカ本土の完全返還を日本に求める
・日本との戦争終結
・新・連合国の経済支援
これを米国民は嬉々として受け入れた。
エドワードは崩れたホワイトハウスの前に仮設の演説台を設け国民に演説を行う。
「我々アメリカの首都ワシントンDCはこの通りだ。しかし、ここで屈してはいけない。
屈すれば、このアメリカは資本主義、民主主義を真っ赤に塗られてしまう。
わがアメリカの艦隊司令官ミニッツ元帥はハワイに捕虜として生きている。
その他優秀なパイロットもだ。本国の戦略もハワイから送られてくる。
捕虜なのにどうして虐待や暴行を受けていないかって?
これは日本の山本五十六の計らいだという。
日本はこれでも敵だと言えるのだろうか。占領地域での略奪はなく、占領地域との国民の行き来も
いまでは盛んにおこなわれているというではないか。
片方のドイツを見てみようか。捕虜はアウシュビッツに放り込まれ、今でも辛い労働に苦しんでいる。
日本では捕虜なのに航空機を用意して腕を訛らせないようにと
練習をさせてもらっているというではないか。
ユダヤ人でもそうだ、マスメディアがなぜここまで日本との講和を望むのか。
それはユダヤ人の受け入れをどの国よりも先に手を挙げたのだ。
それによりたちどころにドイツとの関係は悪化した。
ここから私は思った、日本はドイツと同盟を組むことはないと。」
大きく息を吸う。
「私は、宣言する。
”ドイツを打倒し、真の盟友と共に歴史を刻むということを”」
観衆からは大きな拍手喝采が浴びせられる。
これは全世界に衝撃をもって知らされることになる。
~ベルリン地下総統要塞~
首都ベルリンの地下に作られた要塞。
”ウートガルズ”と暗号で呼ばれるこの要塞は実は1939年8月23日にて起工された。
その日は独ソ不可侵条約の日である。
その理由としてドイツはソ連から大量の石油と鉱石を受注、受け取ったことから
この膨大な要塞の建造に充てたものとされる。
また最近は、表ではラインハント級戦艦四隻の建造としていたものを実際は
この地下要塞の定期改修工事の為の物としていたのである。
その中央部に位置する総統室の椅子にヒトラーは深々と座っていた。
「遅いぞ、ゲーリング君。それで、アメリカは日本と公に講和すると言ったのか?」
「は、はい、総統閣下。これは由々しき事態かと...」
汗をハンカチでぬぐうゲーリング。本当に急いできたのだろう。
身嗜みをヒトラーが指摘することはなかった。
「それで、現状アメリカ、ソ連、日本、中国、満州と正面から衝突したら何か月持つかの
試算はできたのか?それによっては”例の権利”を剝奪することになり兼ねないぞ?」
ゲーリングの顔色の悪さにヒトラーはある程度、事の悪さを理解する。
「もって、一年半ぐらい。これは総戦力のぶつかり合いの試算で・・・」
黙って頷くヒトラー。
「しかし、戦術や作戦、技術に変化があればこの数値は半年にも、勝利にも変わります。」
「ゲーリング君、君は勝利にも変わる、といったが現時点で一番わが帝国の
覇道を邪魔している人物は誰だ。」
「それは、”山本五十六”です。
Eyamからの報告によると機動部隊を設立し、太平洋戦略ラインの構築を提言し
アジア連合を創設したのは山本五十六であり、今までのアメリカとの戦いを見る限りでは
戦略的頭脳もかなり優秀であり要注意する人物である、と。」
東洋のサルめ、と言わんばかりに鼻で笑うかと思っていたゲーリングはヒトラーの発する
言葉に体を凍らせる。
「そうか、ならば殺せ。」
この一言と共に始まる計画。
暗号計画名”賢者第十五章”始動...




