燃えるワシントン
苦しくも大和を葬ることができなかったアラスカは艦首から海に沈んでいった。
だが、未だ敵は居る。
それは水中だ。
『注水音を確認、右舷後部73度の位置!』
潜水艦の位置に大和は副砲弾を浴びせる。
装填しているのは水中弾で雪のように潜水艦に
降り注ぐ。
三十秒後に大きな水柱と鉄片が浮かび上がり
再び沈む。
潜水艦ですら大和にとっては驚異ではない。
すると正面から砲弾を弾いた特有の音が
耳に入る。
それは、ニューメキシコであった。
右に7度傾斜したニューメキシコはまだ大和に
立ち向かうつもりなのである。
大和は巨砲をぐるりと回転させ主砲口が
小刻みに動く。
『電探に反応、多数の航空機をワシントン方面にて捕捉。』
大和にとっての最大の脅威はやはり
航空機である。
しかし、その航空機は米国のものではない。
「ドイツの艦上爆撃機か!?」
大和前方右舷12度、距離は280キロ。
敵の移動コースから目標はワシントンDC。
時速794キロということは確実にドイツである。
「ニューメキシコに打電。
“敵はワシントンの空”と。
そして全速前進、ワシントンを目指せ!!」
───ホワイトハウス───
『大統領、お逃げください!!』
「分かっている、だが何処の国の戦闘機だ!!」
目をそらす大統領補佐官。
「まさか、ジャップか?」
『いえ、───ナチです。』
「第六艦隊は、第五艦隊は、どうなった!!」
『両艦隊は不明機動部隊を捜索中で健在、
こちらに向かってきている模様。』
「一番近い第三艦隊はどうなった。」
『ニューメキシコを残して全艦消息を絶ちました。大和の撃沈は失敗。こちらに向かってきているとの情報のみが……』
ルーズベルトは理解した。
アメリカが既に介入できない事になっていることも。世界の仕組みが根底から変わったことを。
そして、アメリカが焼け野原になることを。
怒り、憎しみが虚しさに変わり、
防空壕でも一切口を開かなくなった。
『こちら、イェーガー。
ワシントン上空に到達した、攻撃しても
いいか?』
『ご自由に、無差別だ。できるだけ数多く破壊しろ。総統もお喜びになるぞ。』
『了解、火の海を期待しな!!』
57機の戦闘機はワシントンに次々と爆弾を落とす。第二次攻撃隊は入れ替わるように爆弾を落とす。第三次攻撃隊も同じように、だ。
『遠目からでも見える、ワシントンが燃えている。』
フォードは黒煙の上がるワシントンの方向を
見る。
ここまで悲しいことがあるだろうか。
守れなかったことが何よりも悔しかった。
『艦長、大和から打電です。』
「何といってきた。」
『敵ハ、ワシントン上空。
コレヨリ独航空機ヲ迎撃ス。』
フォードは安堵と同時に情けなさを感じた。
そして、返信に『首都は任せる』と送った。
しかし、その直後ニューメキシコは
独ノーフォーク海軍基地攻撃隊と交戦し
完膚無きまでに叩きのめされ、徹底的な破壊を受けた。バージニアビーチに乗り上げた
原型を忘れさせるような鉄の塊はニューメキシコ
である。
『イ401から打電、独機動部隊を発見。
位置はニューファンドランド島北北東54キロ
艦隊に対して4隻の401型と海大10型12隻で
包囲雷撃を加えるということです。』
『何故そのような場所に艦隊殲滅潜水隊が?』
不思議そうに話す副艦長。
「あの司令官は変わり者だからな。
それに今の言葉、治安部に聞かれたら拘束されるぞ。」
『了解しました。』
大和は鏡の上を滑るように進む。
その巨体が目指すはワシントン。この一戦で
日本とアメリカの関係が大きく左右される。
有賀は拳を握りしめた。




