ナグスヘッドでの死闘#3 《白兵戦》
艦上にて炸裂する誘導弾。
業火が艦橋の窓ガラスを割り、爛れた手摺が
宙を舞う。
倒れた船員は黒く焼け焦げ、
所々で火だるまになった船員の断末魔が上がる。
水飛沫が甲板にかかり、血を洗い流す。
焼けた赤茶色の血液が所々にこびりついている。
爆発と共に海に投げ出され、必死に浮遊物に掴まる米兵。
その中央を突っ切るように進む大和。
海へ浮き輪を投げ込んで取り敢えずの安全を確保する。
速力を4ノットに下げ波を最低限にしつつ
前進する。
「この海域を突破すればすぐにワシントンDCだ。副砲は射撃準備───」
超超弩級戦艦が海面に沈み込む。
有賀は壁に叩きつけられる。
グシャッと鈍い音と金属同士の擦れ合う
耳障りな音が鼓膜を突く。
『大型巡洋艦アラスカが第三砲塔区画に
肉薄攻撃を敢行!!』
大和の三番砲塔にめり込むように艦首を
当てるアラスカ。
容赦ない痛撃が煙突上部を破壊する。
そして、一撃を終えるとアラスカから
武装した船員が現れ大和に綱を架け乗り移る。
有賀は治安部総出での迎撃を命じた。
甲板から艦内に侵入できる場所に部隊を派遣し
効率的な防御手段を執る。
『有賀艦長、敵の総数はおよそ440、
治安部120名で応戦中!!』
戦闘指揮所に銃撃音と共に無線が入る。
副砲の暴風壁を巧みに使い迎撃をする
治安部部隊。
銃弾が艦橋のガラスに穴を空け、
甲板には深紅の液体が飛び散る。
部隊長の丹羽良治はマガジンを手早く換えると
四十三番高射砲の暴風壁を使い、敵と撃ちあう。
『第7小隊押され気味だ!!
第3小隊と合流して戦線を維持しろ!!』
肩に付いている小型無線機で小隊に指示を送る。
敵も此方の存在に気付いたのか銃弾が
飛んでくるようになる。
そうなれば位置を変えるだけだ。
敵のリロードを見計らい、別の高角砲の暴風壁に
身を寄せる。
『第二小隊、25㎜3連装機銃を手動にして使え』
すると、甲板に多数の煙と鉄片が上がる。
当たれば肉塊、生存は皆無である。
しかし、敵の勢いはとまらない。
そして、激戦約3時間。
決着が付こうとしていた。
《此方、戦闘指揮所》
『何だ、用件を早く言え。』
息を荒げる丹羽。
《30秒以内に艦内に全ての部隊を収容せよ。》
『撃つのか、了解。』
『全部隊、よく聞け!!30秒後に射撃が
始まる。よって、近場の扉から退避しろ。
いいなッ!!!』
素早い身のこなしで船内に入っていく
治安部部隊。
日頃の訓練の賜物である。
『全部隊退避完了、いつでもどうぞ!』
有賀は無線越しに頷き、視線を上げる。
「三番、4番、撃て!!!!!」
6つの巨砲の大烈火。
主砲発射警報ブザーは鳴らない。
この発砲は甲板の敵兵を片づけるための攻撃である。籠の中に鳥を入れ、衝撃波による致死半径を
調べる実験で艦に設置された籠は跡形もなく、
消し飛んでいたという。
その凄まじい発射の衝撃で人間がどうなるか。
アラスカは沈黙し、戦闘の行われていた
三番砲塔甲板にはレンガのような塊が多数こびり付いていた。




