ナグスヘッドでの死闘#2 《船の強さ》
先頭の戦艦の爆散を目撃し、2隻の巡視船が
艦隊を離れる。
しかし、交戦状態に入っニューメキシコに
引き止めるだけの余裕はない。
『第二弾、来ます!!』
砲弾はニューメキシコの上空を掠め、
三隻の巡視船と新鋭巡洋艦アトランタ型のフリント、が水柱に巻き込まれ撃沈される。
三列の単縦陣は一気に崩れた。
『大和、速力38ノットで接近中!!』
大和の原子炉機関は通常原子炉3基と
大出力をより早く出すために液体原子炉を1基
積んでいる。
そしてその性能は一分足らずで38ノットに到達する。
『大和第三弾、来ます!!』
ニューメキシコに吸い込まれるように砲弾が
食い込む。
とっさに頭を抱えるフォード。
背中を氷の刀で切られるような痛みが襲う。
艦の重心が大きくぶれ、巨艦がボートのように揺さぶられる。
砲弾が艦の傾斜とともに転がる。
14㎝副砲群に命中した榴弾の炎が火薬庫に到達し
二度目の爆発が起きる。
その業火を確認した大竹は壁にチョークで正の字を書く。
《こちら正面指揮所、戦艦を撃沈。
目標を大型巡洋艦アラスカに変更。》
《こちら統合誘導指揮所、誘導弾の発射準備と飽和攻撃プロセスの処理を終了。発射許可を求む。》
《こちら戦闘指揮所、三十秒後に射撃を許可。》
《こちら対潜警戒室、浮上音を3つ探知。
右舷122、右舷152、左舷98、この地点への対潜攻撃を求む。》
飛び交う報に戦闘指揮所の有賀は落ち着いて対応する。
戦艦大和は対潜、対艦、対空、全ての攻撃に対応可能。
この大和の建造の目的は“1隻1艦隊”であり完成形でもあるこの船は旧式軍艦に後れを取ることはない。
正面の垂直発射口から灰色の煙が噴き出す。
また、艦の両舷から大型対艦噴進弾回天の発射筒が
エレベーターにより展開され、赤と青の混ざった炎を噴き出す。
『秒読みはいります。3、2、1』
《対艦憤進弾、発射》
筒を突き破る回天はその巨体を時速1200キロで浮かせる。
その衝撃波は艦橋の防弾ガラスをバタバタと震わせる。
また、回天よりは小型であるが熱源誘導式対艦憤進弾
256発は古きを食い破る。
敵艦隊までの距離は39000メートル。
到達まで約一分五十六秒。
大和は煙に包まれ、同時に両舷から水柱が上がる。
潜水艦からの雷撃だろう。
だが、まったく効果はない。
艦底部の装甲厚は220㎜、実質装甲2300㎜には
口径65㎝以上の魚雷でしか艦底部すら凹ませることは出来ない。
音紋からパラオ型潜水艦であり53㎝の、魚雷では到底損害を与える事は不可能である。
『非力なものですね、早々と降伏すれば早い話
死なずに済むのに。』
一人の応急処理班の者の言葉に大竹は反応した。
そしてその言葉を強く否定した。
『彼らはお前のような軽い気持ちで戦っては居ない!!
この戦艦に彼らは勝つことは出来ないだろう。
しかし、死を覚悟して戦っている。
それは国を、国民を、守ろうとしているからだ。
我々日本帝国軍の標語は国民保護を
中核にしている。彼らにもそれがあり、果たしているのだ。
本当の軍隊のあり方、国を守る使命を果たす為に戦っている。
それを易々と否定するような奴は例え同じ日本人でも
許しはしない!!』
軽口として叩いたのだろう。
しかし、その軽口は武士道を信念にもつ大竹には
強く耳に残った。
その一連の説教は艦全体に漏れていた。
このことにより軽々しい言葉は出なくなり、
一層気を引き締めた。
有賀もそれを耳にし、艦内放送にてこう言った。
『大和は強い。
しかし、その強さはレーダーか?主砲か?それとも噴進弾か?
違うだろう。レーダーの小さい陰を見つけて報告するのは
君たちだ。主砲弾を命中させるのは君たちだ。
噴進弾の座標を入れるのは君たちだ。
そう、各員の強さなのだ。艦の強さに慢心した船はどうなるか分かるだろう。私は、各員の一層の奮励努力を期待する。』
言い終えた頃、各部からオー!!という気を引き締めた声が
艦全体に響き渡った。
『対艦憤進弾命中まで10秒!』
空を覆う多数の飛行物体は雨霰と第三艦隊に
降り注ぐ。




