会敵目前!!ブラック・プリンス“kai”
1943年 クリスマス
長門は格納していた対空砲を展開し
米軍機は魚雷を撃つことなく、また爆弾を投下できずにいた。
山本は長門の性能に驚きを感じた。
対空電探の応急修理は完了し、火災箇所では
化学消火剤を使用した迅速な鎮火活動により両舷の火災は8割方鎮火に成功していた。
そして、肝心の浸水だが艦首区画に損害が出たもののあの猛爆撃でいえば損害皆無と
言えるだろう。
しかし、一番砲塔のターレットリングは
以前損傷したままであり、防空指揮所及び
戦闘艦橋は使用不能のままであった。
その長門に運河出口を固めていた駆逐艦から
緊急電報が届いた。
「司令長官、対空駆逐艦秋月からの
緊急電です!!」
暗号翻訳された紙が山本に手渡される。
紙を読むと帽子の鍔を下げた。
「司令、何と書いてあったのですか?」
山本は無言で紙を手渡した。
今村はその電報を読み終えると複雑な顔をした。
「まさか本当に大和をつくるとはな。」
彼ら大艦巨砲主義者は念願の究極戦艦を完成させたのだ。
その大和による技術向上の利益は大きい。
一つに原子力機関の採用、二つに神盾電探の装備。
富士重工が関わった理由としては造船業に手を伸ばし、
戦時特需の利益を最大限に得たかったのだろう。
「しかし、海軍予算案の中にあのような大戦艦を
作る予算は組み込まれていませんでしたが……」
「中国の財閥と関わっていた軍部の連中を投獄したのを
覚えているだろう。あの時だ。
彼らの資産の管理を任されていたのは黛治夫、奴がこの計画に関わっているのは間違いないだろう。
そして、今後の利益を見込んで富士重工も建造費を格安にしたのだろう。」
この大和の真の目的は見世物でもロマンでもドイツ攻略でもなく
“大艦巨砲主義時代の復活”の引き金となるべく建造されたのだ。
「後進一杯、横須賀に帰投する。」
アメリカ橋から12㎞の所で大和と会合、発光信号で
武運を祈ると送ると長門は横須賀への帰路についた。
そして大和はといえば1943年12月30日、ニューヨーク沖に
その姿を置いていた。
時は少し溯り1943年12月23日改黒姫はラッカディブ海に
航跡を刻んでいた。
目標はインド派遣軍カンバト英国海軍基地であった。
そこで英国軍と作戦会議を行い予定では12月29日に
ドイツアデン湾主力艦隊と会敵する予定である。
艦隊には
装甲巡洋艦 改黒姫
重巡洋艦 剣
軽巡洋艦 阿賀野 矢矧
駆逐艦 迅雷型3隻
この艦隊はシンガポール派遣艦隊の生き残りで構成された
艦隊であり、弔い合戦の意味合いでも士気はかなり高かった。
その様子として迅雷型駆逐艦はUボートを計7隻屠っている。
同月24日昼にインド派遣軍カンバト海軍基地に到着した。
船員の士気は相変わらず高かったが英国はそうではなかった。
「私が、インド派遣軍カンバト海軍の司令官
クルード・オーキンレッグ元帥である。」
大英帝国時代の貴族のような物言いだか、彼は貧困家庭から
成り上がった実力者であり、兵士と同じような生い立ちであるため、兵士達からも親近感を持たれていた。
「東郷平次朗と申します。階級は大将です。」
軽い握手を交わすと早速本題に入った。
「率直に言わせてもらう。
“カンバトにある艦隊は動かすことはできない。”」
東郷は理解していた。
それは昨夜にもたらされた情報の為であった。
英国陸軍と昼食会を行っていた東条英機は
会談の際、陸軍のアーサー・パーシバル少将が
海軍の異常なまでの士気の低さに不安を覚えていたという。
その情報は東郷にとってありがたい物であった。
クルードは続けた。
「我が艦隊の旗艦ライオン級の戦艦コンカラーがUーボートの
雷撃により中破し、12隻の駆逐艦の内8隻を藻屑にされた。
重巡洋艦3隻は哨戒中にムンバイから約700㎞の所で
ドイツの新鋭戦艦ラインハントと運悪く会敵し、2隻大破1隻
撃沈というヒドイ有様だ。」
クルードは苦しそうな声であった。
大英帝国を愛し、仲間と共に戦ったが奮戦虚しく
仲間も、船も失ったのだ。
上層部は今後の艦隊強化は一切無いとし、インド派遣軍は
残存艦艇のみでインドを守れ、と言って来たのだ。
それは玉砕と同じであった。
「だが、出来る限りの事はするつもりだ。
勿論、カンバトのドックの使用も許可するし、
最低限の安全を確保する。」
力のこもった目力に東郷は安心と頼もしさを感じた。
そして作戦の最終検証を行った。
「作戦としては改黒姫を囮として側面から高速の駆逐艦や巡洋艦
を接近させ十字雷撃を行い、艦隊を殲滅するという作戦です。」
クルードは腕組みをし、暫く黙り込む。
何かを思い出したのか一つの船の模型を持ってくると
ラインハント攻略について語った。
「奴に魚雷は有効な手段とは言えない。
艦底部の装甲は分厚く艦底起爆魚雷では有効なダメージを与えることは難しい。新兵器を持っているなら話は別だが……」
東郷は言葉に詰まった。
そう、新兵器はあったのだ。
長射程の75式音響探知誘導魚雷が。
しかし、これまた秘匿性は二等級であり他国軍人に話すことは
禁じられていた。だがココで話さねば作戦の最終検証にはならない。下唇を噛み締め、クルードを信用して話すことにした。
「そんな物があったとは、いやはや、驚きだ。
そんな物があると言うことを他の者に話しても信用してくれないだろうな。」
クルードは笑顔を見せた。
そして、東郷とクルードは作戦の細部を煮詰めた。
同月25日明朝、カンバト海軍基地を出撃した改黒姫は大戦艦ラインハント、アデン湾主力艦隊を撃滅しにその勇姿を見せ付けるように出撃した。




