”ジーク・ハイル”
ゆっくりと銃口を顳顬に当てる。
1945年4月、既に戦争の決着はついておりヒトラー自身も地下壕で最期を迎えることは承知していた。
悔しさと連合国に対する憎しみ、どうやっても逃げることができない”死”。
僅かなる希望を求めドイツ軍へ伝言を送るも、その返信はヒトラーの希望を打ち砕くものであった。
「ドイツは...ドイツは、敗北した。第三帝国、我が愛すべきゲルマン人、
もう...終わりだ。」
ヒトラーは男には似合わない涙を流す。
妻であるエバは太陽をもう一度拝む為、官邸庭園へと向かっていた。
そして、ヒトラーは使用人を集め、こう告げた。
「余は、このアドルフ・ヒトラーは後の世に恐怖の体現や悪魔として残るであろう。
それならば、余の体が敵の手に落ち、博物館の見世物となるよりも連合国の誰にも悟られぬよう
本物の悪魔、いや、魔王にでもなってやろう。」
使用人が部屋から出るとヒトラーも最後の太陽を拝みたくなった為、壁に寄りかかりつつ
地上を繋ぐドアまで歩いた。
恐怖と絶望と死への道筋がしっかりと自分の前に見えたとき、ヒトラーは改めて恐怖した。
その頃、ドイツはベルリンにて包囲され持ち堪えれる時間は20時間といわれていた。
ヒトラーは空を拝む為階段を登っていたが砲撃音と破砕音を聞き、空を拝むことは不可能と考え
来た道を引き返す。
そして個室に入り、赤茶色の一人用のソファーに座り遺書を書き残し銃を顳顬に当てる。
手が震え、中々決心ができない。
弾丸が手から零れ落ちる。
カランカラン、と音を立てて地面を転がる弾丸を。
震える手で拾うと口内へと銃口を向ける。
しかし、鼻腔に鉄と火薬の混じった香りが漂い、決心を鈍らせ続ける。
「余が犠牲にしてきた人は多すぎる、
やはり...まともには死ぬことはできないようだ。」
頭を抱え、自らの過ちを思い出す。
それは余りにも多すぎる犠牲と殺戮であった。
再度銃を口元に持ってくる。
歯軋りし、目は充血していた。
「駄目だ...」
銃を持つ手を再び下す。
ヒトラーはもう涙を手で拭う事はせず、両手にて震える手を抑えつつ銃口を口内に持ってくる。
(ここで、全ての罪を清算する―――)
地下壕一帯に銃声が響いた。
――――――布団から跳ね起きるヒトラー。
カーテンから生暖かい日光が差し込む。
ベルリンの街は整備が行き届いており、活気にあふれていた。
「また、前世か。」
階段を降り、汗の滲んだ寝間着を着替え
鷲の巣にて戦況を聞く。
「ゲーリング君、また前世を見てしまったよ。
この世界こそが余の罪の清算すべき世界なのであろう、
よって私は何としても第三帝国を作り上げる!」
”ジーク・ハイル!!”
ゲーリングは右手を挙げた。
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