太平洋の晴天
太平洋の明かりのない真っ暗な空に溶け込むように月光は米空母12kmまで迫っていた。
月光は電探に映りにくい塗装をしており、容易に米空母に近づくことができた。
また、最大高度9000mは米国のどの戦闘機をもってしても追撃は不可能であった。
「月光隊、高度7000!高高度爆撃、開始!!」
安全装置が解除され高速で降下し、熱源を発見次第軌道変更舵を使用し
目標を確実に破壊するというものであった。
全機が熱源探知誘導裂弾を投下すると即座に帰路に就いた。
そして、時限信管が作動し子爆弾が撒かれた。
「ヨークタウン、イントレピッド、ホーネット敵の攻撃を受け炎上!」
「戦艦マサチューセッツ炎上中!」
「重巡洋艦ミネアポリス被弾!」
飛び交う悲報にレイモンドは顔面を蒼白にした。
「戦艦は大丈夫だ、重巡も、だが空母には...」
ふと乗艦エセックスの甲板に目をやると爆弾を積み整列したドーントレスが見えた。
レイモンドは急いで無線を取ると炎上する空母に総員離間を命じるように伝えようとした。
「炎上する空母の乗員は海に飛び込むんだ!早く!
一刻の猶予もない!航空機が誘爆するぞ!」
だが、必死の呼びかけも既に通じず三空母は大爆発を起こし沈没した。
生存者は80名のみであった。
この奇襲により米国は優秀なパイロットを失った。
「レイモンド中将、艦載機を発艦させるんだ。」
ミニッツの問いかけにレイモンドは答えない。
あまりの悲惨な状況に実践経験の浅いレイモンドには新鮮に残った。
「総員、三空母の仇をとる!
困難な夜間発艦であるが、私は君たちの腕を信じている!」
エセックス、フランクリンから発艦したグラマンF6Fヘルキャット、ドーントレスは
川村機動艦隊を目指した。
「空母の恨みを晴らすぞ!」
隊長機が士気を高める。
しかし、高めたはずの士気が一気に下がる。
日の出と共に見えてきたのはフライングデビルと呼ばれた零龍であった。
それも数機ではない、50機ほどの零龍が一斉に第一次攻撃隊に襲い掛かった。
最初の高高度からの一撃離脱により第一次攻撃隊は全68機中24機を失った。
「やはり、悪魔の話は本当だったのか!!」
ヘルキャットは頑丈な機体を頼った戦法を取ったが、三十ミリ四門の前では
ヘルキャットの装甲は紙である。
その後も、奮戦するものの第一次攻撃隊は全機撃墜。
編成された第二次攻撃隊は川村機動艦隊の側面100kmまで迫っていた。
しかし、太陽の方向から被るように50機余りの零龍が飛び掛かる。
第二次主力攻撃隊の機数は128機であったが第一撃を食らい、編隊を乱した。
だがヘルキャットの必死の援護によりドーントレス24機が川村機動艦隊の対空砲圏内にまで迫った。
「川村指令、遂に来ましたね。
零龍は随分と暴れてるみたいですが数の暴力とは怖いものです。」
「ああ、物量主義はこれだから強いのだ。」
再度物量の凄さを思い知るも冷静に事を受け止め、川村は防空陣形に切り替え
対空戦艦金剛、霧島を中心とした対空砲火を行った。
「全艦艇に打電、”電探と対空砲を連動させ攻撃せよ”」
ドーントレスは高度を徐々に上げ始め、急降下の体制を取り始めた。
日本の対空砲火が電探照準に切り替わって僅か十秒ほどで対空戦艦霧島と金剛は三機を落とした。
「空母白龍、黒龍、戦艦山城、熱源探知対空誘導弾発射!」
濃密な弾幕の中から突如姿を現した熱源探知対空誘導弾36発は20機を落とした。
だが...
「空母白龍直上!ドーントレス一機、敵は特攻を慣行するようです!」
甲板には爆発物はなく、航空機はすべて出払っていた。
ドーントレスはかなり傷つき、煙を吹いていた。
この状態での急降下爆撃機は特攻と同じであった。
「司令長官、中央指揮所にお逃げください!」
「いや、このままで大丈夫だ!
ここで死ぬ程度の命ならここで死のうではないか!」
川村の額は汗が滴っていた。
命中を確信した川村は目を閉じた。
だが、命中より少し早く爆発音がしたので目をゆっりと開けると
空母上空100m程で対空駆逐艦の12.7cm高角砲弾がドーントレスを破壊したのであった。
「川村司令長官、つくづく敵でなくてよかったと思います。」
中村はハンカチで冷や汗を拭う。
「私もだ。だが、我々がやらなくては我々がやられるのだ。
戦争とは虚しい。だが、これは回避できないのだ。日本国民の為に戦い、彼ら米国も
米国民の為に戦っている。今はその事実だけで十分だ。」
川村は勝利に足元が浮つくことはなかった。
その浮ついた足元をすくわれる事態は絶対に避けなければならない。
それは山本が口癖のように言っていたのである。
その言葉をしっかりと心に留めていた川村はどんな事態にも対応することができるのであった。
出払っていた100機以上の日本軍攻撃隊はその俊足をもってして米機動艦隊50㌔まで迫っていた。
「レイモンド中将、我々の敗北だ。
CICからの報告によればすべての機と連絡が途絶した。
無駄な犠牲を払うことは太平洋司令長官としては避けたい、降伏を提言する。」
レイモンドは下唇を噛み締める。
艦橋乗員は俯いた。
「第七艦隊の航空戦力が喪失した今、我々ではどうしようもない。」
降伏の決心ができないレイモンドを決心させたのはCICから敵機100以上接近の報であった。
「分かりました、降伏しましょう。国際救難信号で降伏を発してくれ。」
1月7日午前9時32分太平洋最後の艦隊は降伏。
米艦隊と捕虜は川村艦隊に付き添われ真珠湾に寄港した。
翌月2月7日米国と講和を日本は持ち掛けた際、アメリカ側は和平交渉のテーブルに着いた。
その理由はドイツはモスクワを陥落、侵攻速度の速さと積極的に日本に対し同盟を持ち掛けている
との事であり、二強が手を結ぶとソ連は日本とドイツの物となり、イギリスも風前の灯火であった。
連合国はアメリカに日本との講和と連合国への参加を促すように訴えたがルーズベルトは
無視を貫き通した。
しかし、今回の第七艦隊の敗北により米本土上陸を日本がほのめかしたため
交渉の席に着いたのであった。
そして、”背水作戦”は見事に成功したのであった。
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