沈まぬ英国の希望と帝国の黒き姫
黒姫は強力な電波妨害を行い、レパルスとプリンスオブウェールズの艦隊間の連携を奪おうとしていた。
「こんな時に無線が通じなくなるとは。」
フィリップスは発行信号に即座に切り替えこの妨害に対応した。
耳がおかしくなる程砲撃を行い続けた黒姫であったが、プリンスオブウェールズは沈まない。
撃てども撃てども沈まないのだ。
”玉楼”は弱点を狙うことは出来ない、この海戦によって熟練した砲手が最後は必要になると
いうことが分かった。
「二番砲塔に命中弾!」
プリンスオブウェールズの二番砲塔は弾薬庫に誘爆し、吹き飛んでいたが
艦としてはまだまだ続戦可能であった。
海戦が始まり優勢を保っていた黒姫だが徐々に弱点が見え始めていた。
命中率が徐々に下がっていたのだ。
「フィリップス指令、どうやら敵艦は砲身をかなり消耗しているようです。」
40秒の速度で撃ち続ければ砲身はかなり消耗してしまうのであった。
東郷はプリンスオブウェールズをすぐに撃沈できるという判断での高負荷での砲撃を行ったが
思った以上の堪航性に難色を示した。
副官がそう伝えると、プリンスオブウェールズはレパルスを庇うように前に出て
単縦陣で黒姫に近づいた。
既にプリンスオブウェールズは一番、二番、四番、左舷副砲は壊滅し、浸水も生じていた。
左に18度傾斜していたにも関わらず、未だ沈むことはなかった。
「これが最後の役目になるな。」
帽子を被り直し、船員をねぎらった。
フィリップスの作戦は損害のないレパルスを黒姫の至近一万メートルまで近づけ、
砲撃戦を行わせるという大胆な作戦であった。
離艦の準備を整えたプリンスオブウェールズはついにその作戦を決行した。
日本の重巡洋艦は射程に入ると一斉にプリンスオブウェールズを攻撃した。
黒姫は過度の砲身使用により、冷却中であったので砲撃ができなかったが重巡洋艦でも
十分にダメージを与えることができた。
プリンスオブウェールズは重巡洋艦により徹底的な破壊を受け、
その船体の大半を炎に収めながらもレパルスを守り通した。
そして、力尽きるように速力を徐々に落とし始め、
”1942年5月24日、午前11時34分”
プリンスオブウェールズは大浸水が発生し横転、何度かの爆発を経て沈没した。
後に日本軍により調査引き上げが行われたが弾痕の跡が酷く、何故耐えたのかが議論される
ほどであった。
艦長であるフィリップスは、艦と運命を共にした。
前方で轟沈するプリンスオブウェールズに敬礼をしたレパルス艦長のテナントは
「プリンスオブウェールズの仇をとる!全速全身、敵戦艦に砲撃開始!」
大声で船員の士気を高めた。
そのレパルスの命中精度は手動にも関わらず凄まじいものであった。
黒姫は8発命中11発至近という打撃を受けた。
しかし、対41cm砲防御を施された黒姫には決定打を与えることは出来ず
砲身冷却を終えた黒姫は一斉射でレパルスに5発の命中弾を送り込みプリンスオブウェールズの後を
追うようにレパルスは轟沈した。
”同年同日 午後1時52分”船体が二つに折れての爆沈であった。
黒姫は浸水1450tと、副砲群が被害を受け、各所において火災が発生し
決して軽微ではない損害を受けた。
この報を聞いたチャーチルは全国民に向け、敗北を発表し、また日本の強力な戦闘艦に
懸念を示したと発表。
イギリス全体の士気は一気に低下した。
そして、浮沈艦を打ち破った黒姫は連合国から”ブラック・プリンス”と呼ばれ
海兵の恐怖の的となった。
そのまま東郷強襲揚陸機動艦隊はシンガポールに上陸、
英国軍捕虜の目に黒姫はさぞ恐怖の体現に見えただろう。
そして、日本の”背水作戦”は終盤を迎えようとしていた。
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