歴史の転換と相違
1939年春 海軍横須賀基地
「私が連合艦隊司令長官、山本五十六である。」
山本が連合艦隊司令長官になったのは艦隊指揮能力に長けていたわけではない。
三国同盟に反対してきた海軍長官は右翼、三国同盟賛成派勢力に暗殺される
可能性があるため海軍中央から遠ざけられたのだ。
世論は米英討つべし、各マスメディアは鬼畜米英を掲げ米国との戦争は
避けられない状況となっていた。
陸軍は既に支那と泥沼化している戦争に目途を立てることもできていない。
にも関わらず戦線を太平洋へ広げようとしている。
また、ナチスドイツ率いるヒトラーとの三国同盟は義の戦争ではなくなる。
我々の目指すアジア植民地解放を目的とした義の戦争とすべく三国同盟はしてはいけない。
この趣旨を将校に伝え、戦艦長門に乗艦した。
全長243m総排水量68000t、第二次改装によって大幅に強化された電子戦艦であり
今までの艦船と一線を置く性能を有している。
その長門に長官旗が翻る。
執務室の赤茶色のソファーに腰かけ準備されていた資料に目を通す。
資料に目を通し始めてすぐに執務室のドアが叩かれる。
「山本五十六司令長官、東郷です。」
「入れ。」
日本軍特有の髪型である丸刈りで少々日焼けもしている青年は
東郷平次郎海軍少将である。
艦隊指揮の能力と臨機応変に考えることができる柔軟な頭を持った
東郷は32歳という若さで少将となった逸材だ。
「資料は読まれましたか、恐らく日独伊三国同盟が成立するのは時間の問題でしょう。
これを成立させますと対米戦争となります。
陸軍は支那からの撤兵を頑として聞き入れず話にもなりません。
やはり力ずくでも陸軍に言うことを聞かせるしか無いようです。」
山本は陸軍との各櫃に憤りを感じていた。
船舶、航空機では損害は与えられるものの制圧はできない。
その重要な局面でいがみ合うのは戦略的にも兵士の士気にも関わると考える。
「ところで、488mの給油船の件ですが朗報です。
あの船の技術を三菱重工業が改良し、10万トン級の大型空母の建造に入った
そうです。大和型2隻分の資材すべてをつぎ込む傑作空母は1942年を目途に完成を
急がせているとのことです。」
ここで説明すると時系列は1935年に戻る。
東京湾に現れた一隻の船舶。
霧の立ち込める朝方、島が動いているとの通報が憲兵に届いた。
その当時海軍航空本部長であった山本はその大型船を目撃した。
「こ、これは...」
唾を飲み込む。
全長488m、戦艦を嘲笑うかのような巨大な船は横須賀海軍工廠にピタリと
横付けすると動きを止めた。
波に煽られることもなく、微動だにしない。
それ以降は海軍の最高軍事機密として保管されるようになった。
その船には段ボール10箱分の文書だけがあり一部海軍部内の人間に見せられた。
しかし山本に回された1箱に書かれていたことは思考を一時的にマヒさせるものだった。
「1939年、ドイツポーランド侵攻
1941年12月8日、日本真珠湾攻撃...」
ここまでは山本の予想、いや想定内だ。
しかし...
「1945年8月、二発の原子爆弾が広島、長崎に投下。
やはりこれから始める戦争は間違っているというのか。」
山本は机を叩く。
周囲にいた士官たちは驚いた様子だったがすぐに持ち場に戻る。
この戦争の敗因は電探技術と対潜水艦、要因が多すぎる。
歴史道理に事が進めば民間人を含めた何百万もの人命が奪われる。
結果として日本は戦争に負けた、圧倒的生産能力と物量に押されてしまったのだ。
「山本閣下!恐らく電探の設計図らしきものが!」
「それを早く持ってこい!」
確かにそれには電探のようなものが書いてあった。
しかし形状がおかしい、今の帝国技術部のどこをあたってもないものだろう。
これが完成、いやあるいはこの書物は窮地日本に神が与えてくれた物なのかもしれない。
残りの書物に目を通すと歴史書のみ山本が所有しそれ以外は民間の技術会社に託した。
「それで、設計上の空母としての能力はどの程度なんだ。
我々日本が必要としているのは汎用性だ、その条件は達成されているのか?」
日本には圧倒的に物資が少ない。
歴史書によれば日本はABCD包囲網により石油が枯渇し戦争に突入するという。
だが解決策は存在する。
「勿論です。
ですが技術的難問も多く、今現在では確実なことは言えないということです。」
その頃、北海道根室湾では大機動部隊が演習を重ねていた。
「しっかし、今日明日でアングルトデッキの空母に慣れろだってよ。」
「しかもプロペラ機から噴進機だって。
内臓が押しつぶされそうな勢いで射出される俺たちの気持ちにもなれよってな」
愚痴をこぼす一航戦の隊員に頭上から拳が落ちる。
二人の隊員は頭を抱える。
「今からそんな弱音を吐いてどうする!帝国軍人なら不可能なことはないはずだ。
この航空機に慣れることができれば米軍や英軍の航空機はハエを落とすのと
同じようになるぞ!」
川村純義大将は山本司令長官直属”川村機動艦隊”として
ハワイオアフ島攻撃の指令を待つ間練度を高めていた。
艦隊の全容は
戦艦 陸奥 金剛 霧島 山城
空母 赤城 加賀 飛龍 蒼龍 翔鶴 瑞鶴
重巡洋艦 古鷹 加古 青葉 衣笠 妙高 那智 羽黒 足柄
軽巡洋艦 神通 那珂
駆逐艦 改桜花型25隻 改秋月型25隻
計50隻
の大艦隊である。
また、すべての艦艇には初期ではあるが電探連動砲、改桜花型の三次元立体電探、
この三次元立体電探は潜水艦や航空機の正確な位置を把握するという画期的な電探である。
その中でも異様なのが大改装を受けた航空母艦であった。
「川村司令、航空機発艦及び着艦訓練順調に進んでいます。
やはり噴進機の音には慣れませんな。」
赤城艦長の中村良三中将、高い指揮能力に加え人望も厚い。
「いずれ慣れる。いや、慣れてもらわなくては困る。
しかし私も慣れるのには相当の時間が必要そうだがな」
二人の間に笑いが出る。
「しかしこの赤城とその他空母の強みは艦載機だけではないぞ。
対空機銃の電探連動及び熱源探知誘導噴進弾を装備していて、対空処理能力は格段に上昇した。
更にははコンバインドサイクル機構を用いていることだ、これにより燃費も
各段に良くなっている。」
後に性能は戦場にて発揮されることであろう。
そして1939年9月、書類の歴史を辿るようにヨーロッパの独裁者が動き始めた。
読んでくださりありがとうございました!