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エピローグ

 エピローグ 欠け落ちた日常


 あれから一ヶ月が経った。

 僕は学校に行かないわけにはいかないので椿原中学校に通っていた。そこで小学生の時に逆戻りしたような日常を送っていた。

 友達もおらず、毎日、一人でポツンとしている。

 今では天空都市での毎日は夢だったようにも思える。色々あったのは事実だけど、天空都市での生活は輝いていた。

 その思い出は今も色褪せていない。

 でも、これが僕の選んだ選択の結果だから仕方がない。誰かを恨むことなどできはしなかった。

 僕は教室の隅で本を読みながら、早く帰れる時間が来るのを待った。

「セリオ君、学校には慣れた?」

 放課後になり話しかけてきたのは倉橋美紀さんだった。倉橋さんだけはみんなみたいに無視することなく僕に話しかけてくれる。

 それがまた恥ずかしいんだけど。

「まあまあだよ」

 僕は読んでいた本をパタンと閉じた。

「良かった。でも、セリオ君が椿原中学に通うことになるなんて思わなかったな」

 倉橋さんは屈託なく笑った。

「色々と事情があってね」

 僕は窶れた笑みを浮かべる。

「そっか。私、文芸部の部員だから、興味があったら部室を覗きに来てね」

 倉橋さんの言葉を聞き、僕もサンクフォード学園では文芸部だったんだよなと思い出した。

 結局、一度しか部室に行かなかったけど。

「うん」

「最近の書店で売ってるお勧めの本とかも教えてあげるし」

 図書室の新刊コーナーにもお店で売っている本はたくさん置いてある。

「ありがとう」

 僕は力なく笑った。

「それじゃ、また明日ね」

 そう言うと、倉橋さんは僕の前から去って行った。一方、僕と倉橋さんの遣り取りを見ていた男子たちはひそひそと囁いている。

 何とも嫌な空気だ。

 僕はその空気から逃げるように図書室に借りた本を返してから、母さんの待っている家に帰った。

 

「お帰り、セリオ」

 玄関で靴を脱いでいると母さんが、笑顔で僕を出迎えてくれた。

「うん」

 僕はなるべく暗い顔をしないようにする。

 暗い感情に流されると、日本にいることを選んだ母さんを傷つけてしまいそうだったから。

「今日の学校はどうだった?」

 母さんは笑ったまま尋ねてくる。

「別にこれと言ったことはなかったよ」

「そうなの。まあ、無理だけはしないようにね。それと、マフィンが焼けたから食べてちょうだい」

 良い匂いが漂ってくると思ったら、マフィンがあるのか。それを知った僕は少しだけ元気が出て来た。

「うん」

 僕はリビングへと足を向ける。

 すると、リビングのテーブルには手乗りサイズのドラゴンがいて皿に入っていたマフィンを食い散らかしていた。

「よっ」

 そう声をかけてきたのはジャハナッグだった。

「君はジャハナッグじゃないか」

 僕は目を点にする。

「ああ。このマフィンはなかなか旨いな」

 食い意地の張ったジャハナッグはムシャムシャと全てのマフィンを平らげてしまった。僕も楽しみにしてたのに。

「どうしてここに?」

 僕は何か良くない知らせがありそうだなと思った。

「お前が天空都市に来れるようになったことを伝えに来たんだよ」

「そうなの?」

 僕は信じられないといった顔をした。

「カルベンやエリシアには感謝するんだぞ。あの二人が必死になって町中の人たちから署名を集めたんだから」

「へー」

 さすがカルベンたちだ。日本でただ本を読んでいた僕とは行動力が違う。

「だけど、悪い知らせもあるんだ」

「何?」

「つい最近になってヘルガウストが牢屋から逃げ出した。お前が仕留め損ねた魔王アルハザークの仕業だな」

 ジャハナッグの言葉に僕は怒りが沸き上がってくる。

 あんなに苦労して捕まえたヘルガウストに逃げられるなんて、天空都市にいる人たちは何をしているんだ。

「そんな」

「しかも、魔法主義同盟とゼラム教の対立も激しくなってる。そのせいでとうとう学園の生徒の中から死人が出ちまった」

「魔界のゲートが開いた時でさえ、死人なんか出なかったのに」

 天空都市の人間の愚かさが益々、酷くなってきたように思える。

「そこが人間の救いがたさだよ。とにかく、今の天空都市はお前の力を必要としてるんだ。だから戻ってきてくれ」

 ジャハナッグの言葉に僕は脱力しつつも、またカルベンとエリシアと会えるのかと思うとワクワクもしていた。

 こうして、僕の新たな日常が始まることになった。


〈FIN〉





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