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第二章

 第二章 魔法主義同盟とゼラム教


 入学式から数日後、僕はマクレガー先生の授業を聞いていた。今日の六時間目は魔法の授業だった。

 魔法を使える生徒はグラウンドで魔法の実技の授業を受けている。そうでない生徒は教室で静かに道徳の授業を受けていた。

 僕は窓の外を見ながら、魔法が効かないという力は魔法が使えることにはならないのかなと思う。

 とはいえ、一番、簡単な蝋燭に火を付ける魔法が使えないのだから、魔法の授業を受けられる道理はなかった。

 僕はみんなが揃って席に着いたホームルームが終わると、家に帰ろうとする。

 するとマクレガー先生に呼び止められた。

「ちょっと頼みたいことがあるんだが良いか、セリオ?」

 マクレガー先生は僕の前にまでやって来る。

「何ですか?」

 僕は眉を顰める。

「お前はクラスの道具係だろ。だから、ルーヴェンの魔法品店で魔除けの護符を買ってきて貰いたいんだ。もちろん、お金は先生が出す」

 マクレガー先生の言った通り、僕はクラスの道具係になっていた。クラスの生徒は必ず何かしらの係にならなければならないのだ。

 こういうところは小学校と同じなんだよなと僕は思う。

「ルーヴェンの魔法品店はどこにあるんですか?」

「それがゼラム通りなんだ」

 マクレガー先生の表情が曇った。

「あそこは危険なんじゃ」

「そう言われているだけで実際に危害を加えてくる人間なんていやしない。ただ、ゼラム通りの先にあるスラム街にはさすがに入ったらいけないが」

「分かりました。なら買ってきます」

 断れるお使いでもない。

「頼んだぞ。先生も邪悪な者が入れないように学校内に張られていた護符が悪戯で剥がされて困っていたんだ」

 そう言うとマクレガー先生は僕にお金を渡して去って行った。

「先生は何だって、セリオ?」

 鞄を手にしたカルベンが近寄ってくる。

「ゼラム通りにあるルーヴェンの魔法品店で魔除けの護符を買ってきて貰いたいって言うんだよ。だから、ちょっと怖くて」

「マクレガー先生は、それをお前一人に頼んだっていうのか?ゼラム通りに子供を一人で行かせるなんて配慮に欠けているんじゃ」

「僕は平気だよ」

 道具係は僕しかいない。

「そっか。まあ、そういうことなら俺も一緒に行かせて貰うよ。俺もゼラム通りに行くのは初めてじゃないし」

「ありがとう」

 やはりカルベンは友達思いの良い奴だ。

「でも、慣れてくると、サンクフォード学園も普通の学校とたいして変わらない感じがするね」

 僕はしみじみと言った。

「そうなのか?」

「うん。この目で神や悪魔を見られればもっと違ったんだろうけど」

 新鮮さを感じたのは三日くらいだった。

「そうだな。俺もドラゴンのジャハナッグを見た時は腰を抜かしそうなほど驚いたけど、今は普通の鳥を見るのとたいして変わらないし」

 カルベンは窓の外の青空を見て言った。

「やっぱり慣れって恐ろしいね」

「まったくだ。ま、学生の本分は勉強だから、今は一生懸命、退屈な勉強するしかないさ。学期末には試験もあるからな」

「簡単な試験だと良いけど」

 普通に勉強していれば落第はしないはずだが。

「たぶん、大丈夫だ。もっとも、魔法を使える奴には魔法検定もあるからな。それを通過しないと魔法の授業が受けられなくなるかもしれないんだ」

「そうなの?」

「ああ。だから、魔法を使える奴は俺たちの何倍も必死さ。俺としては憎たらしいマッドたちが検定に落ちてくれることを祈ってるけどな」

 カルベンは舌を出して笑った。

 その後、僕たちは学園を出ると、町に行く。それから、オカルト的で何とも暗い雰囲気の漂うゼラム通りに来た。

 ただ、暗くはあるが、ゼラム通りを歩いている人の数は多い。僕は何となく中東の地下街を思い出していた。

 アンダーグラウンドな雰囲気は別に嫌いじゃない。

 僕は綺麗な服を着ていない人たちが歩く通りを進んでいく。

 魔法品を売る店はたくさんあったので、どこがルーヴェンの店なのかはそう簡単には分からなかった。

「君たちはサンクフォード学園の生徒だね」

 道を歩いていると、青いローブを着た青年が紙の束を手にしながら僕に話しかけてくる。

「あなたは?」

 僕は警戒した。

「私は見ての通りゼラム教徒さ。いきなり、不躾なことを聞くけど君たちは最近のサンクフォード学園の状況についてはどう思う?」

 青年は柔和に笑いながら尋ねてきた。その笑みを見るに悪い人間には思えなかったので、僕も気を緩める。

「どうって言われても」

 僕は言葉に詰まる。

「君たちは魔法使いかい?」

「違います」

「なら、魔法主義同盟を掲げる連中が威張り散らしているのは嫌な感じだろ?君たちも、彼らに対する嫌悪感は隠さなくて良いんだ」

 青年はニヤッと笑った。

「はあ」

 僕は曖昧な返事をした。

 この数日間で分かったことだが、魔法主義を掲げているのはあのルフィアだけではなかった。

 クラスでも純粋なリバイン人の生徒が、主に魔法を使えない生徒を馬鹿にしていたのだ。それには僕も嫌なものを感じていた。

「私たちは誰もが等しく、自由にこの天空都市で暮らすことができるようにしようと思っている」

 青年は何とも力強く言った。

「だからって邪神の力を借りるのは」

 僕はつい反論していた。

「君たちは何を持ってして邪悪と言うんだい。ゼラムナート様はかつて多種多様な種族が暮らす魔界を平和に治めていた方だ」

 青年の声のトーンが大きくなる。

「だからこそ、この天空都市に来てからも、人種間の対立には心を痛めておられる」

 青年は嘆くように言った。

「でも、どんな人間でも暮らせるようにするって言うのはさすがに無理があるんじゃないんですか」

 僕は食い下がるように言った。

「それは可能だよ。君たちも魔法使いがこの世界を裏から支配しているのは知っているだろ?」

「はい」

「その魔法使いの中には当然、ゼラムナート様を芳信する人たちもいる」

 青年は力説を続ける。

「彼らが裏で動いていたからこそアメリカやヨーロッパでは色んな人種の人間が共に暮らせるようになったんだ」

「へー」

「でなければ、差別をよしとしない国作りなんてとてもできなかった。平和な時代に生きている君たちには実感が持てないかもしれないが」

 その言葉を聞き、僕も日本で受けてきた苛めを思い出した。

「そうですか」

「真に邪悪なのは、ごく一部の人間だけを幸せに暮らせるようにする善神サンクナートのような神さ」

 青年は眉間に皺を寄せながら言った。

「それも仕方がないんじゃ。色んな人たちを受け入れたら、治安だって悪くなるし」

 魔法主義の人間たちの言うことも分からなくはないのだ。

「そんなことはない。ゼラムナート様は混沌を追い求めているようなことを言われているけど、その一方で真の秩序も求めておられる」

 その言葉には僕も興味を持った。

「真の秩序は混沌の先にある。混沌を制することができないような秩序は、真の秩序たり得ないってゼラムナート様は言っておられるんだよ」

「確かに」

「つまり、色々な人たちが暮らしても、平和でいられるような秩序こそが本物だってことさ」

 青年の言葉は筋が通っていた。

「なるほど」

 僕も青年の話を鵜呑みにするわけではない。

 が、それが本当ならゼラムナートは物分かりが良く、自分が思っていたほど悪い神ではないと言うことになる。

「君たちもゼラム教の教えに興味を持ったら、この紙に書いてある集会場に来ると良い。ゼラム教は来る者は拒まないから」

 そう言うと青年は手にしていた紙を僕に渡した。それから、引き止めて悪かったねと言って去って行く。

「ゼラム教か。思っていたよりも悪い人たちじゃないかもしれない」

 僕はぼやくように言った。

「まあ、魔法主義同盟の連中よりかはマシだよ。もっとも、混沌の先にある秩序なんていう言葉はちょっと胡散臭いけどな」

 カルベンはドライに肩を竦めた。

 

 僕はとカルベンはやっとのことで見つけたルーヴェンの魔法品店で魔除けの護符を買う。

 それから、護符をマクレガー先生に渡すためにまた学園に戻ってきた。

 すると、校門の前では華やかで豪奢なローブを着た生徒が何人もいた。その生徒たちは魔法主義同盟と書かれているプラカードを手にしていた。

 プラカードには「今こそ天空都市を蝕む、劣った人種を排除しよう」とも書かれていた。

「ゼラム教の次は、今度は魔法主義同盟の連中か。関わり合いになると面倒だからさっさと行こうぜ」

 カルベンがうんざりしたように言った。でも、僕は彼らがどんな主張をしているのか知りたくて、立ち止まっていた。

 すると、栗色の髪をした少年が、笑いながら近づいてきた。

「君たちも僕たち魔法主義同盟の活動に興味を持っているようだね。まだ一年生なのに感心だな」

 自分も一年生のネクタイを締めている少年は笑みを崩さない。

「いや、ちょっと何をしているのか気になっただけで」

 僕は引き気味だ。

「そうか。ならこの機会に自己紹介をして置くけど僕はマリウス・マールハイト。あの執政院の院長マルコス・マールハイトの息子さ」

 マリウスは誇り高ぶるように言った。

「へー」

 マリウスが凄い人間の息子だと言うことは僕にも分かった。

「僕たち魔法主義同盟は天空都市に魔法使い以外の人間が入り込むのをよしとしない」

 マリウスは頑迷に言葉を続ける。

「そして、純粋なリバイン人じゃない魔法使いは、僕たちのような純粋なリバイン人の魔法使いに従うべきだとも説いている」

 マリウスの言葉にカルベンが顔をしかめる。

「酷い考え方もあったもんだな。要するに純粋なリバイン人が一番、偉いってことだろ?」

 カルベンは苦い顔で言った。

「酷いだって?それは一体、どういう意味だい?まさか君たちは魔法が使えないのか?」

 マリウスの目が蛇のように細められる。

「ああ」

 カルベンがぎこちなく頷く。

「なるほど。君たちはできそこないの人間だったか。どうりで、品性の感じられない顔をしていると思ったよ」

「顔は関係ないだろ。まあ、俺も自分がハンサムな顔をしてるとは思ってないけどさ」

 カルベンが反発した。

「だろうね。とにかく、魔法を使えない人間たちは、この天空都市にとって、がん細胞のようなものだ」

 マリウスはせせら笑いながら言葉を続ける。

「奴らは自由だの平等だのと言って、巧みに天空都市に入り込もうする。その上、できそこないの子供さえ生み出そうとするんだ」

 マリウスは忌々しそうな顔をする。

「はっきり言って、吐き気と反吐が出る。そのような恥知らずな真似をするのは薄汚い地上だけにして貰いたいものだ」

 マリウスは憤りを込めて言った。

「なら、お前の親父さんに頼んで改善して貰えば良いんじゃないのか」

 皮肉を返したのもカルベンだ。

「とっくにそうしている。だが、執政官の中には大賢者とか言われてのぼせ上がっているウルベリウスの意向に逆らえない者が多くてね」

 マリウスはウルベリウスが相当、嫌いなようだった。

「だから、純粋なリバイン人どころか魔法使いですらない奴らが、天空都市に入り込むのを許してしまっているんだ」

 マリウスは悔しいのか拳を震わせている。

「なら、それが正しい判断じゃないのか。執政院の決定でもあるわけだし」

「とんでもない。この天空都市サンクリウムを作り上げた善神サンクナート様はこの状況を大いに嘆いている」

 マリウスは自分も嘆いていると言いたそうに言葉を続ける。

「いつかウルベリウスには善神サンクナート様の天罰が下るさ。そうなれば今も魔法至上主義を掲げている暗黒の魔導師ヘルガウスト様が学園に返り咲くことも可能だ」

 マリウスの声は陶酔していた。

「サンクナートは魔王アルハザークの力を借りている奴を保護するって言うのか。アルハザークに殺された奴は一杯いるって言うのに」

 カルベンが批難するように言った。

「サンクナート様は寛大なお方だ。どんな人間であってもご自分の考えに従う者には祝福を与えてくださる。例え、魔王を使役している者でもね」

 マリウスは方便のようなことを言った。

「魔王に魂を売った奴を祝福するなんて間違ってるだろ。お前もヘルガウストみたいな奴に校長をやらせて良いのか、よく考えろよ」

 カルベンは諭すように言った。

「君に言われなくても、ちゃんと考えているさ」

 マリウスは薄ら笑いを浮かべながら言葉を続ける。

「それに魔王が必ずしも悪とは限らない。この世界を創造された絶対神ゼクスナート様は神も悪魔も等しく良いと言われた。その一節は聖典にも書いてあるだろ」

 キリスト教の聖書すら読んだことがない僕はそんなことは知らなかった。

「あいにくと俺は聖典なんて読んだことがないんだ」

 カルベンも僕と同じようだった。

「それは大いなる不幸だな。聖典はこの天空都市にあるどの本屋にでも売っているはずだから、すぐにでも買い求めたまえ」

 マリウスが厚顔に笑う。

「聖典には善神サンクナート様の素晴らしさが記されている。人間を巧みに惑わす邪神ゼラムナートの狡猾さも」

 マリウスは熱の籠もった声で言った。

「考えておくよ」

 カルベンは無感情な声で言った。

「とにかく、僕たちは校長のウルベリウスの横暴を許さない。真の正義は善神サンクナート様と、そのみ言葉に従う僕ら魔法主義同盟にある」

 マリウスはそう信じて疑わないらしく、もう話すことはないと言わんばかりに僕とカルベンの傍から離れて行った。


 日曜日が過ぎ、月曜日になる。

 僕とカルベンは昼休みになると、いつものように食堂に行く。そこで、注文していた料理が運ばれてくるのを待っているとエリシアがやって来た。

「二人とも、調子はどう?」

 エリシアは肩に掛かる金髪をサラッと払った。

「悪くはないよ。学園の空気にも慣れたし、授業にもちゃんとついていけてるからね」

 僕は淡々と言った。

「俺も同じだ」

 カルベンも僕の言葉に合わせるように笑う。

「それは良かったわ。もっとも、あたしは授業が簡単すぎて、拍子抜けしてるけどね。期待してた魔法の授業もたいしたことないし」

 さすが優等生と僕は言いたくなった。

「まだ、一年生の初めだからね。難しくなるのはこれからかもしれないよ」

 僕は期待を持たせるように言った。

「なら、これからの授業内容に期待を寄せることにするわ。しっかりと学ばないと魔法アカデミーには進学できないし」

「魔法アカデミーねぇ」

 陳腐な響きを感じるな。

「そうよ。アカデミーに進学すれば、好きな魔法の研究が幾らでもできるもの。地上の大学に行くよりはよっぽど良いわ」

 エリシアの言葉にカルベンも触発されたような顔をして口を開く。

「俺は大きなものは目指さずに地上の大学に通うよ。そんでもって、ゲーム会社に就職してやるんだ」

「ゲーム会社ね」

「ああ。この天空都市で経験したことを生かして、ファンタジーのRPGを作るんだよ。きっと売れるぞ」

 カルベンの言葉に、この天空都市以上のファンタジーがこの世にあるのかと僕は思った。

「面白そうね」

「そうは言っても、まだ俺たちはサンクフォード学園に入ったばかりだ。将来の展望を語るなんて気が早すぎるだろ」

「それもそうね。でも、時は金なりよ。成功を掴む人間は、幼い頃から自分の夢をはっきりさせているんだから」

 エリシアは教育者のようなことを言った。

「それは言えてるな」

「セリオは何か夢はないの?」

 エリシアが僕の意見を求める。

「ないよ。僕は差別されることなく、普通に暮らしたい。ただそれだけさ」

 僕はあまり感情を込めずに言った。

「差別ね」

「うん。この天空都市にいれば差別に苦しむこともないと思ったけど、そう簡単な話じゃなさそうだ」

 まだ子供だから救われている部分もあるのだろう。

「だな。俺もルフィアやマリウスのような奴がいなければ、天空都市で暮らし続けるのも悪くないと思えたのに」

 カルベンは宙を仰いだ。

「あんな連中に負けたら駄目よ、二人とも」

 エリシアが叱咤する。

「分かってる。僕はここから逃げ出したりはしない。僕にはもうここ以外に居場所がないから」

 僕は決然と言った。

「でも、今後はもっと過激な思想が蔓延しそうだぜ。そうなれば、またいつぞやのように死人が出るかもしれない」

 カルベンの危惧は僕にも理解できた。

「校長のウルベリウスが何とかしてくれるわよ。何だかんだ言ってウルベリウスの手腕は高く評価されてるし」

 エリシアの言葉にカルベンは皮肉で応える。

「そう願いたいもんだ」

 カルベンがそう言うと、その傍に三人の生徒がやって来た。

「よっ、エリシア。何、熱く語ってるんだ」

 現れたのは、軽薄そうな笑みを浮かべている、闊達の雰囲気を漂わせるスポーツマン然とした男子生徒だった。

 ネクタイの色から一年生だと言うことが分かる。

「マーフィじゃないの」

 エリシアはトーンの狂った声を上げた。

「俺たち、噂の魔法が効かない生徒を見に来たんだよ。ひょっとして、お喋りの邪魔をしちまったか?」

 マーフィがそう言うとエリシアは首を振る。それから、エリシアは僕の方に指を向けて「彼がその生徒よ」と言った。

 それを受け、別の男子生徒が割って入るように口を開く。

「フッ、お前が噂のセリオ・オリオールか。お前の噂はこの俺のクラスにまで届いているぞ」

 嫌味なほど整った顔をしている男子生徒は尊大な態度で言った。

「エリシアも全クラス合同の魔法の授業では、お前の持つ力を教師の前で熱心に説明していたからな。だから、さすがの俺も好奇心を抑えることができなかったのだよ」

 男子生徒は首の辺りの髪を撫でつけた。

 そのあまりにも芝居がかった口調に僕は思わず噴き出しそうになった。とても一年生とは思えない。

 とはいえ、この天空都市にいる人間に地上の人間の常識を当て嵌めるのは間違っているだろう。

「そうなんだ」

 僕は自分なんてたいした人間じゃないのにと言いたくなる。

「こらこら、リアン。セリオ君にプレッシャーをかけるようなことを言うのは止めなさいよ」

 そう取りなしたのは、長く伸ばしたブルネットの髪の女子生徒だ。エリシアとはまた違った可愛らしさがあり、大人っぽい雰囲気も漂わせている。

「そうは言っても、魔法が効かない力は、我々、魔法使いにとって看過できないものだ。なぜ、そんな力を持っているのかは知りたいところだろ?」

 男子生徒は鋭い目で僕を見る。

「そうね。でも、セリオ君の両親は魔法が使えないって言うし、突然変異じゃないの」

 ブルネットの髪の女子生徒はさばさばと言った。

「確かに、両親が卓越した魔法を使えるのに、その子供が全く魔法が使えないというケースもあるからな。誰とは言わないが」

 リアンの言葉にカルベンがビクッとした。

「それよりも私たち自己紹介をした方が良いんじゃないの。セリオ君も困ってるし、何よりも失礼でしょ」

 ブルネットの髪の女子生徒が、利発そうに言った。

「フッ、この俺としたことが礼儀を欠いていたようだ。なら名乗らせて貰うが、俺はリアン・リアベルグ。アメリカにあるリアベルグ財団の御曹司だ」

 リアンは自信に満ちた声で言った。

「私はジェシカ・クライストンよ。英国貴族の末裔で、リアンとは財界のパーティーで知り合ったの」

 ジェシカの自己紹介に淀みはなかった。

「俺はマーフィ・マクフィアン。二人のような大金持ちじゃないが、親父はベースボールのプレイヤーだぜ」

 マーフィは明るく言った。

「ちなみに私たち三人は魔法使いよ。リアンはアメリカで暮らしていた純粋なリバイン人だし」

 ジェシカの言葉にリアンは仏頂面をする。

「純粋なリバイン人などという、ステータスをちらつかせるつもりはない。そんな小さいことに拘るのはあのマリウスだけで十分だ。この俺の人間としての器はもっと大きいと自負している」

 リアンはナルシストを気取るように言った。

「は、はあ」

 僕は相槌を打った。

「でも、俺たちちょっとびびっているんだよな。魔法使いにとって、魔法の力は絶対的なものだ。それが効かない人間が現れたりしたら厄介なことになる」

 マーフィは打って変わった真剣な声で言った。

「魔法使いたちは魔法が効かない力を持つのはお前だけだと信じたいんだ。むろん、俺個人はそんな力に臆したりはしない。この俺はもっと巨大な敵を恐れているからな」

 リアンはオーバーに言った。

「でも、この先、そう言う力を持った人間が増えていく可能性はあるわね。私は何とも思ってないけど、それを脅威と感じている人は少なくなくて」

 ジェシカは苦笑した。

「で、セリオを見に来たと」

 黙って話を聞いていたカルベンは揶揄するように言った。

「そういうこと。セリオ君のような生徒が、ゼラム教に入ったりしたら、彼らを調子づかせることになるでしょ」

 ジェシカの懸念は僕も何となく理解できた。

「考えすぎじゃないのか」

 カルベンはあくまで理解を示さない。

「そんなことはないわよ。ああいう極端な思想を持つ人たちは、何がきっかけで火が付くか分からないし」

 ジェシカはブルネットの髪を揺らす。

「俺にとっては魔法主義同盟もゼラム教も下らない連中だという一言に尽きる。徒党を組まなければ何もできない連中だからな」

 リアンはせせら笑う。

「ま、体制に反発したがる気持ちは分からんでもないが、この俺に比べれば連中はまだまだだな」

 リアンの言葉を聞き、僕は無性に疲れを感じた。

「俺も下らない連中ていう言葉には同感だな。自分たちの力で思想を広めるのはまだ許せるが、神様を後ろ盾にするのは卑怯だし、気に食わねぇよ」

 マーフィも口元を歪めた。

「そうね。とにかく、エリシアもセリオ君と一緒にいるなら、何かあったら彼を守ってあげなさいよ」

 ジェシカ半眼で言葉を続ける。

「彼の存在はひょっとしたら、この天空都市にとって、大きな希望になるかもしれないんだから」

 そう言って、ジェシカはエリシアの肩に手を乗せた。

「分かってるわ」

 エリシアは何を考えたのか顔を赤くする。

「じゃ、昼食の邪魔をしちゃ悪いし私たちは行くわね」

 ジェシカはそう言うと、リアンとマーフィを伴って、去って行った。

「随分と個性的な奴らだったけど、あいつらもお前の友達なのか?」

 カルベンはエリシアに話を振った。

「まあね。変わってるけど、三人とも良い生徒よ。あの三人と一緒にいられるおかげで、あたしに因縁を付けてくる生徒もグッと少なくなったし」

 あんな三人に因縁を付ける勇気のある生徒はいないだろうなと僕は思った。

「なるほどね」

 そう言うと、カルベンはちょうど運ばれてきたチキンソテーを食べ始めた。


 ホームルームが終わり、放課後になると僕はマクレガー先生から声をかけられた。

「ウルベリウス校長が、話があるからお前に校長室まで来て貰いたいと言ってる」

 そう言って、マクレガー先生は不審がる顔をした。

「そうなんですか」

 呼び出される心当たりは全くない。

「ああ。もしかして、お前。何か叱られるようなことでもしたんじゃないんだろうな」

 マクレガー先生は僕をギロリと睨んだ。

「そんなことはしていません」

「なら良い」

 そう言うと、マクレガー先生は足早に去って行った。それから、僕は校長室に向かう。

 だが、校長室の場所が分からない。なので、廊下を歩き回る生徒に尋ねながら、何とか校長室に辿り着いた。

「ようこそ、校長室へ」

 僕が書斎を大きくしたような校長室に入ると、そこにはウルベリウスがいた。

「僕、何で呼び出されたんですか」

 僕は不安げに尋ねた。

「もっと気を楽に持つことだ。我が輩は君を怒るためにここに呼んだのではないのだから。紅茶でも飲むかね」

 ウルベリウスは立派な仕事机の上にあったティーポットを持ち上げた。

「けっこうです。それで話ってなんですか?」

「君について一つの噂を耳にした。どうも君は魔法の力を打ち消す力を持っているようだな」

「はい」

 やはりその話か。

「どれ、我が輩もその力を見させて貰おうか」

 ウルベリウスは掌を僕に向かって翳す。すると、掌から発せられた光りの球が僕にぶつかった。

 が、光りの球はすぐに消えてなくなる。

「驚いた。我が輩の魔法ですら、何の効果も発揮できないとは」

 ウルベリウスは愉快そうに笑う。

「何で僕にこんな力が」

「分からん。ただ、色々な血が混じり合うことで、奇妙な力を持った魔法使いが生まれることは証明されている」

 ウルベリウスは静かに言葉を紡ぐ。

「それは血筋に拘る愚か者たちには決して得られぬ力だ。おそらく、君の存在は血筋に恵まれていない魔法使いたちに希望を与えるだろう。あまくで、魔法使いたちだけだがね」

 ウルベリウスは含みを持たせるように言った。

「そんなことを言われても」

「だが、自惚れてはいかんぞ。君も知っての通り、この天空都市では二つの派閥が争っている。魔法主義同盟とゼラム教だ」

「校長先生はどちらの考えが正しいと思ってるんですか」

 僕もウルベリウスの考えは是非とも聞きたいと思っていた。

「どちらも正しく、どちらも間違っていると言える。だが、我が輩はどちらの考えも支持したくない。なぜだか分かるかな?」

「いえ」

「それは人間が自らの手で掴み取った答えではないからだ。この二つの派閥の背後に恐ろしい力を持った神がいるのは知っているだろう」

 さすがのウルベリウスも畏怖を感じているように言った。

「善神サンクナートと邪神ゼラムナートのことですか?」

「そうだ。あの二人の神は人間を争いの道具にしている。自分たちは決して表舞台には現れず、己の思想のみを人間に押しつける。やり方としては最低だな」

「僕もそう思います」

 僕はウルベリウスの平行の取れた見方をする言葉を聞いてほっとした。

「人は必ず何らかの決断を下さなければならない。それには批難が付きものだ。だが、その批難に屈してはならない」

「校長先生について良くないことを言っている人もたくさんいます」

「知っているよ。だが、我が輩は我が輩なりに真剣に考えた行動を取っている。だから、幾ら批難されようと、平気なのだ」

 ウルベリウスは蓄えられた髭を撫でながら言った。

「それを聞いて安心しました」

「我が輩はこの天空都市が好きだ。この天空都市の素晴らしさを世界中の人に知って貰いたいとさえ思っている」

 ウルベリウスは無邪気さを感じさせる声で言葉を続ける。

「だから、我が輩はいつか地上にある観光地のように世界中の人間が自由に天空都市に来れるようになることを夢見ているのだよ」

「そんな日が来るんですか?」

「我が輩が生きている内には来ないかもしれん。だが、我が輩が死んでも、我が輩の意思を継ぐ者はたくさんいる。だから、我が輩は何も心配していない」

 ウルベリウスはそう信じて疑ってないようだった。

「そうですか」

「ひょっとしたら、良くない勢力が君の力を悪用するかもしれん。君もそれには気を付けるのだぞ」

「はい」

 僕も自分の身は自分で守るしかないと思った。

「とにかく、君の力は分かったし、もう帰りなさい。我が輩がブレンドした紅茶が飲みたいと言うのなら、もう少しここにいても良いがね」

 ウルベリウスは飄々と笑った。


 僕は学園を出ると、神殿の方に歩いて行った。

 だが、おかしなことに気付く。

 あまりにも人がいないのだ。この時間ならゲートを通って地上に帰ろうとする子供たちがいるはずだった。

 僕は嫌な気配を感じていた。

 すると、背後からブランド物のような紺のスーツを着た男が現れる。男はスーツの上から裏地が金色になっているマントを羽織っていた。

 僕は男の顔を見る。男は金髪をオールバックの形にした二十代、半ばほどの人物だった。

「警戒することはない。この周囲には人が近寄れないように結界を張ってある。だが、私は君と静かに話がしたいだけなのだ」

 男は柔和な笑みを浮かべながら近づいてくる。

「あなたは?」

 僕は男からただならぬものを感じる。見かけは普通の男なのに、まるで巨人と対峙しているような圧迫感を感じたからだ。

「私は魔導師ヘルガウスト。この天空都市に救いをもたらす者だ」

 ヘルガウストは謳うように言った。

「あなたが暗黒の魔導師ヘルガウストなんですか?」

 僕はぎょっとしつつ尋ねた。

「その通り。君は、もっと年寄りを想像していたようだな。まあ、無理もないが、私は魔王アルハザークの力で不老の体を持っているのだ」

 ヘルガウストがそう言うと、その斜め後ろに恐ろしい怪物が忽然と現れる。

「我が名は魔王アルハザーク。かつて神の座に手を伸ばさんとして、深き闇の底へと突き落とされた者なり」

 魔王アルハザークは僕の腹腔に響くような声で言った。

 そんなアルハザークの姿は下半身が蛇で、上半身は羽の生えたドラゴンだった。

 体の色は真っ黒で、その手には大きな水晶付きの杖が握られている。それは禍々しいという言葉すら生温い姿だった。

 魔王という称号はやっぱり伊達ではない。

 僕は押し寄せてくる途轍もないプレッシャーに体が震え上がりそうになった。

「僕に何の話があるんですか?」

 僕はビクビクしながら尋ねる。

「君には私の計画に付き合って貰いたくてね。だから、こうして人目を忍んでわざわざ会いに来たというわけだ」

 ヘルガウストは不気味な笑みを浮かべた。

「計画?」

 僕は眉間に皺を寄せた。

「そうだ。私はこの天空都市を支配しようと思っている」

 ヘルガウストは回りくどい言い方をせず、単刀直入に言った。

「えっ」

「支配という言葉を悪い意味で受け取らないで貰いたい。とにかく、このままでは天空都市が破壊されかねないのだ」

「どういうことですか?」

 僕は急くように尋ねる。

「かつてこの世界をリバインニウムと呼ばせていた絶対神ゼクスナート様は、魔法の力に溺れた人間たちを大洪水で滅ぼした」

 ヘルガウストは滔々と続ける。

「ただ、天空都市にいる人間だけが助かったのだが、彼らは再び魔法の力に溺れようとしている」

 ヘルガウストは憂いを感じさせるように言った。

「しかも、彼らは魔法の力を使って、この世界を裏から支配することさえしているのだ」

「それで?」

 僕は相槌を打つ。

「ゼクスナート様はこの状況がこれ以上、長く続くようなら天空都市を破壊するつもりだ。だからこそ、誰かが天空都市の体質を変えなければならない」

「そんなことができるんですか?」

「ああ。当然、ウルベリウスもその事実を知っているが、彼ではいかんせ、力不足だ」

 ヘルガウストは嘲笑するような顔をした。

「だが、私ならできると信じている」

 その声には並々ならぬ自信が宿っている。

「あなたはどういう支配を行うつもりなんですか?」

「それは想像に任せるよ。だが、真に恐ろしいのは、ゼクスナート様はもし天空都市を破壊したら、その後、地上も再び大洪水で滅ぼすことに決めていることだ」

 ヘルガウストは怖い顔で更に言い募る。

「ゼクスナート様は今度こそ、過ちを繰り返し続ける魔法使いという人種をこの世界から断ち滅ぼすつもりだ」

 ヘルガウストの目が怖くなった。

「むろん、その魔法使いたちに良いように支配されている普通の人間たちもな」

「そんな」

 僕は絶句した。

「だからこそ、もし天空都市の人間が私の支配をよしとしないようなら、私は思い切って天空都市を破壊してしまおうと思っている」

「何だって?」

 僕の声が裏返った。

「そうしなければ愚かな魔法使いたちの目は覚めまい」

「あなたは魔法至上主義を掲げていたと聞いています。そのあなたが、魔法という力の象徴である天空都市を破壊すると言うんですか?」

 魔法を使えない僕にも理解に苦しむ行動だった。

「ああ。私をサンクフォード学園の校長にしなかった時点で、この天空都市にいる魔法使いたちには愛想が尽きている。魔法至上主義も古臭い過去の思想だ」

 ヘルガウストは痛みを覗かせたような顔をする。

「ゼクスナート様も魔法使いが自らの手で天空都市を破壊すれば、大洪水を起こすことを考え直しても良いと言われた」

 ヘルガウストはつらつらと言葉を続ける。

「そうなれば、猶予の時間もできるだろうし、私もまた違った手を打つことができる」

 考え直すと言うことは、大洪水を起こすことを止めるという意味ではない。

 僕もそれくらいは分かるし、もし、天空都市が破壊されても魔法使いたちが変わらなければ、この世界は本当に滅ぼされてしまうかもしれないということだ。

 ヘルガウストはそれを防ごうとしているわけだし、何か悪い動機があるようには思えなかった。

 そんな僕の心の声を聞いたかのように、ヘルガウストが改まったような顔で口を開く。

「私が天空都市を支配し、その体質を変える。そして、ゼクスナート様による天空都市の破壊を防ぎ、地上も大洪水で滅ぼされないようにする。これ以上、ベストな方法があると思うかな?」

 僕も反駁はできなかった。

「ウルベリウス校長だって同じことができる」

 僕は声を絞り出すように言った。

「無理だな。魔法主義同盟とゼラム教でさえ、御しきれない人間が天空都市の体質を変えられるわけがない」

 ヘルガウストは侮蔑するような声で言った。

「それはサンクナートとゼラムナートのせいで」

 僕の苦しい言葉をヘルガウストは最後まで言わせなかった。

「その二人の神は、ゼクスナート様と古い約束をしていた。必ず二人で力を合わせて天空都市にいる人間たちを正しく導いて見せると」

 サンクナートとゼラムナートが力を合わせるというのは、二人を直接、見たことがない僕にも想像しづらかった。

「だから、天空都市を破壊するのは止めてくれと、その二人の神は大洪水の時にゼクスナート様に訴えた」

 僕もその事実は知らなかった。

「その訴えを寛大なゼクスナート様は聞き入れられた。だが、数千年も経つ内に、サンクナートとゼラムナートはその誓いを忘れてしまったらしい」

 ヘルガウストは本当に呆れたような顔をした。

「しかも、この二人はゼクスナート様が今度こそ本気で天空都市を破壊しようとしていることすら知らない」

 だが、神ではないヘルガウストはそれを知っていた。

「だから、自分たちの歪んだ思想を人間に押しつけることを止めようともしないのだ」

 ヘルガウストは「仮にも神のくせに何という愚かさだ」と吐き捨てた。

「いずれにせよ、私ならその二人の神に振り回されることもない」

「本当ですか」

 僕は期待を寄せるように尋ねた。

「ああ。私は魔王アルハザークだけではなく、魔界の支配者、魔王ヴァルストモロも味方に付けることに成功したからな」

 ヘルガウストは自信を漲らせる。

「サンクナートもゼラムナートも、そこらの神を遥に凌ぐ力を持つ魔王ヴァルストモロを敵に回したいとは思わないはずだ」

 魔王ヴァルストモロはそんなに強いのかと僕は戦慄した。

「そこまでの力を持つというのに、あなたは僕に何をして貰いたいんですか?」

 そこが重要なのだ。

「それは…」

 ヘルガウストが口を開くと、アルハザークが上を向いた。

「邪竜ジャハナッグが接近してくるな。隠していた我が魔力を感じ取るとは、余程、鼻が効くと見える」

 アルハザークは愉悦を滲ませるように言った。

「話はここまでだ。とにかく、君には私の計画に協力して貰う。例え、どんな手を使ってもな」

 その言葉に底知れぬ野心を感じた僕はヘルガウストに従うわけにはいかないなと思った。

 そして、ヘルガウストと魔王アルハザークの姿は背景に溶け込むようにして消えた。それから、すぐに巨大なドラゴンが空から下りてくる。

 八メートルを超える威風堂々としたドラゴンの迫力は魔王アルハザークに負けていなかった。

「ここで尋常じゃない魔力を感じたんだけど、おいらの気のせいだったのかなぁ」

 ジャハナッグは恐ろしい姿に似合わずひょうきんな声で言った。これには僕も体から恐怖が抜けていく。

「気のせいじゃないよ。ここには暗黒の魔導師ヘルガウストと魔王アルハザークがいたんだ。でも、君が近づいて来るのを知ったら去って行った」

 僕は正直に言った。

「やっぱりか。このことは邪神ゼラムナート様に報告しないと。あいつらがコソコソ現れる時は大抵、ろくな時じゃない」

 ジャハナッグは僕には興味を示さずに飛び立とうとする。

「君は誰の味方なの?」

 僕は思わず尋ねていた。

「おいらの主人は邪神ゼラムナート様だ。でも、ゼラムナート様に近い考えを持っているウルベリウスの指示にも従ってる」

 ジャハナッグの言葉には僕も嘘は感じられなかった。

「そっか」

 僕は心からほっとしていた。

「お前も気を付けろよ。おいらがここに駆けつけられたのは運が良かったに過ぎないんだからな」

 そう言うとジャハナッグは羽を大きくはばたかせて大空へと舞い上がった。

 その後、僕は悪い夢でも見ているような心地で神殿に入ると、母親のリリアが待っている家に帰った。

 


 第三章に続く。




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