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<第2章>

 世界が茜色に染まる頃。

 その無駄に広い庭園はもの寂しい雰囲気に包まれていた。まるで世界中に自分一人しかいなくなってしまったかのような錯覚を覚えるほどの静けさ。そんな静謐な空気の漂う広大な庭園の隅で、長く伸びた影を引き連れた幼い少女が、急き立てられる様に術理回路を描いていた。

 自分は出来損ないなどではないのだと、そのことを証明するためだけに術理回路を紡ぎ、必死に足掻いていた。より大きく、より細緻に、魔法という現象を求めて広がる術理回路。

「遙か彼方(かなた)に詩声を、遠き彼方(あなた)に幸いを――」

 少女がか細い声を精一杯に張り上げる。

 会心の出来だった。

 だが、術理回路は淡い燐光に包まれるだけで、何も起こりはしない。少女の僅かな魔力は回路を発光させるだけに留まり、魔法という形で発現することはなかった。

 そんな現実を前に、少女は自らの欠陥に落胆し、肩を落とす。

 魔法の扱えない魔女。出来損ない。それが周りから彼女に与えられた評価だった。

「こんなことすら出来ないだなんて無様ですね、出来損ないのお姉様」

 項垂れる少女へと侮蔑の声が響く。いつの間にか彼女の前にもう一人少女が立っていた。癖のない長い黒髪に、深い色の瞳。その少女は、もう一人の少女によく似た容姿をしていた。だが、姿かたちはよく似ているのに、表情や仕草は似ても似つかなかった。

詩代(しよ)……」

 少女は、顔を俯けながら彼女の妹の名前を口にする。

 彼女はこの少女の事が苦手だった。魔法が扱えない少女とは違い、親の才能を十二分に受け継いだ天才魔女。自らによく似た、でも、決して届くことのないもっとも遠い存在。そんな少女を見る度に、彼女は嫌でも劣等感を覚えてしまうのだった。

「お姉様がそんなだから、私ばかりが母上にきつく当たられるのです」

 少女の妹は恨みがましく口にする。自分ばかりが母親に厳しくされるのだと。だが、それは彼女が期待されているという事実の裏返しだった。出来損ないとしてしか扱われない少女は、逆に声すら掛けてはもらえないのだ。

「お姉さまは、私の名前の意味を知ってらっしゃいますか?」

 渇いた笑顔を張り付けて、詩代は俯いたままの少女へと詰め寄る。

「お姉様の代わりという意味だそうです。たったそれだけの意味だなんて、ほんとうにいい迷惑です。お姉様さえ、こんな出来損ないでなければ……」

「ごめんなさい……」

 少女は顔を伏せたままの状態で、謝罪の言葉を漏らす。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、と。

 少女に出来ることは、ただその言葉を繰り返すことだけだった。

 魔女の家系に生まれたにもかかわらず、魔法を扱えない出来損ないの少女。そんな少女の代わりにその名を受け継ぐために詩代が必要とされたということは、認めたくはないが、どうしようもなく事実なのだ。

 だから、少女はこの妹を見る度に嫌でも思い知らされる。自分は出来損ないでしかないのだと。

 それが悲しくて、悔しくて、痛いくらいに拳を握りしめる。

 出来損ないなどではないと、信じたかった。でも、心のどこかでそれを諦観と共に受け入れてしまっている自分がいた。このままでは、自分は本当の出来損ないになってしまう。そんなことは分かっていて、でも、もう自分ではどうしようもなくて。

 魔法を使えるようになるという、その目標だけが今の少女に残された唯一の希望になっていた。魔法を使えるようになれば、何かが変わるのではないか。そんな淡い幻想に縋りついて、ただ必死に足掻いていた。

 でも、もしそれでも、何も変わらないとしたら、

(その時こそ、わたしは本当の出来損ないになってしまうのですわね――)

 かつて抱いた想いが、諦めにも似た音色で追想されるのは、少女がその結末を知っているからだろうか。

 遠くからの呼び声に導かれるように、少女の意識が覚醒へと向かう。遠山詩乃はゆっくりとその閉じられた瞼を開いて行く。眩しい朝日が網膜を焼き、視界が白く埋め尽くされる。

 すぐに目が慣れ、その視界の中心に徐々に少女の顔が鮮明に写ってくる。それは、詩乃のルームメイトである有馬怜奈の顔だった。そこはもう、夕暮れでも、あの無駄に広い庭園でもなかった。落ち着いた造りの歴史を感じさせる部屋。そこは間違いなく、ようやく慣れてきた蒼華学園の丁香花寮にある詩乃の部屋だった。

「夢、ですの……」

 詩乃は、自らのベッドに横になったまま確認するように呟く。それは、当り前の事だった。自分は出来損ないなどではないと証明したくて、詩乃はあの家を飛び出したのだ。そして、この蒼華学院へとやって来た。なのに、詩乃は頻繁にこうして、悪い夢を見てしまうのだ。どこまで逃げても、結局詩乃はどうしようもなくあの家に囚われてしまっているのだった。詩乃の事を出来損ないだと、そう定義する遠山の家に。

「悪い夢でも見ていたのですか?」

 怜奈は詩乃の目元にうっすらと浮かぶ涙の滴を指で拭ってやりながら尋ねる。

「どうやら、そうみたいですわ……」

 夢の内容を、おぼろげに思い出しながら頷く。

「今日もいい天気ですよ、詩乃ちゃん」

 カーテンの開け放たれた窓から差し込む朝日を浴びながら、

「今日もいい一日になるといいですね」

 沈む詩乃へと、怜奈は優しく笑い掛けた。


◆ ◇ ◆


専用のスタジアムたる第一魔法演習場では、二組四人の少女たちが行使する魔法によって生じた衝撃波や赤熱した圧縮空気が飛び交い、壮大な音や熱を撒き散らしていた。実戦形式の戦闘訓練によって行われる魔法演習の授業。全国から魔女となることを志す少女たちの最高峰が集まるこの私立蒼華学院高等魔法女学校ではごく有り触れた光景だった。

 スタジアム中央のグラウンド上で華麗に舞う四人の幼き魔女達。試合の成り行きをグラウンドを取り巻く観客席で見守る普通魔法学科の生徒達。そして、教師は演習中の魔法がグラウンド外部に影響を与えないように魔法障壁を張り巡らせながら、魔女達の動きを目で追っている。

 そんないつも通りの授業風景の中で、詩乃だけが試合を観戦する生徒たちの輪から離れた場所で膝を抱えて俯いていた。詩乃が所属している魔法術理学科には同学年に詩乃一人しか生徒が在籍していないため、人数の都合上他学科に混ざってこの授業を受けなくてはいけないのだ。そのため、見渡す限りの他学科の生徒の中で詩乃は一人肩身の狭い思いをしながら俯き、ただ時間が過ぎ去って行くのを待っていた。

「……乃っ! っもう、この出来損ないっ! 私の話、聞いてるのっ!」

 不意に、自分の世界に閉じ籠っていた詩乃の耳へと苛立ち交じりの声が響いてくる。聞き覚えのあるその声に、我に返った詩乃は顔を上げ、おどおどと声の主を探してあたりを見回す。しかし、詩乃の見知った、声の主であろう少女は見つからなかった。

「こっちよ、こっち。どこさがしてんのよバカっ」

 呆れた音色で響くその声は、詩乃の真後ろから響いてきた。詩乃が振り向くと、声の主の少女――水沢莉伽子が冷ややかな視線を送っていた。詩乃は、そんな彼女のことを見上げながら、でも、瞳だけは俯けて、視線が交わらないようにしてしまう。

「あ、あの、莉伽子さん。すいません……ちょっと、考え事を……」

 しどろもどろに応える詩乃に対して、莉伽子はふんっと鼻を鳴らして肩をすくめてみせる。苛立っているという分かり易過ぎる合図だ。

「さっきから、ずっと私の話を無視して、それはそれは素晴らしい作戦でも考えていたのよね? これでまた、わたしの足を引っ張るような真似をしたら許さないわよ」

 莉伽子は端整な顔の眉間にしわを寄せて、棘のある言葉を吐く。

「ごめんなさい――」

 莉伽子に対する引け目から、謝罪の言葉しか口に出来ない詩乃。だが、そんな詩乃の態度を見るごとに莉伽子の苛立ちは募っていく。

「もういいわ、ちゃんと試合でも見ていなさい。終わるわよ」

 そんな莉伽子の警告に従い、視線を演習が行われているグラウンドへと向ける。試合は佳境を迎えていた。高度な攻性魔法の応酬。詩乃には決して手の届かない次元での戦いが行われていた。そんな光景を前に詩乃は萎縮してしまう。

 拮抗した戦況のまま、試合時間が切れ、教師のやめの合図で試合が終わる。演習を行っていた少女たちがグラウンドから観客席の方へと戻ってくるのを茫然と眼で追っていると、

「あなたはいつまでそうしているつもり? 置いて行くわよ」

 莉伽子の言葉で、次が自分たちの番だということを思い出す。逃げ腰になる気持ち、それを必死に抑え込みながら、詩乃はグラウンドへと向かう莉伽子の後に所在なさげに続く。


◆ ◇ ◆


(わたしには、無理なんですわ――)

 そんな想いを胸に抱きながら、詩乃は魔法演習の試合が行われるグラウンドに居心地悪そうに立っていた。詩乃の隣では、彼女のパートナーである莉伽子が凛とした出立ちで、観戦している生徒たちの視線を集めている。

 出来損ないと天才少女。相容れない二人組であることは誰の目にも明らかだった。今しも試合が始まるというのに、顔を伏せたまま相手の事を見ようとすらしない詩乃と真摯な眼差しで相手を見つめ、勝ちを求めてグラウンドの中心に悠然と立つ莉伽子。彼女たちに対峙する二人の魔女のいずれも、莉伽子同様に自信に溢れた表情で身構えている。

 詩乃と彼女たちとでは、立っている場所がまるで違った。それを自覚する度に、詩乃は自らの肩身が狭くなっていくのを感じた。この学園に全国から集まって来る天才と呼ばれる魔女たちと、魔力の不足から十分に魔法を扱えない詩乃とでは、あまりにも見えている世界が違うのだ。

 教師の始めの合図で試合と共に、誌乃たちペアの敗北へのカウントダウンが始まる。

 この演習のルールはいたって簡単だ。二対二の魔女ペア同士で魔法を用いた戦闘を行い、ペアのうちのいずれかが攻性魔法による致命打を受けたら終了となる。この授業の参加者は、魔法による特殊加工の施された、黒を基調とする演習服を着ているため、致命打を受けてもめったなことでは怪我をすることはない。

(こんな試合、無駄なんですわ――)

 誌乃は諦めの気持ちを抱きながらも、両手を使って宙に術理回路を描き上げていく。魔法とは、魔力と呼ばれるエネルギーをこの術理回路によって他の力へと変換する技術の総称を言う。故に、魔法を扱う才能――つまり、魔女としての才能というのは、魔力というエネルギーに干渉することの出来る術理回路を知覚し、自在に操ることの出来る力の事を指す。詩乃には、術理回路を扱う才能は備わっているものの、それによって変換すべき魔法の根源的力たる魔力が僅かにしか備わっていないのである。

 詩乃は相手が描く攻性魔法の術理回路を見ながら、その回路が生み出すであろう現象を解析し、最適な防性魔法を選択する。その魔法を生み出すべく、自らの術理回路を組み上げながら横目でパートナーである莉伽子の様子を窺う。莉伽子は流れるような華麗な手つきで虚空に緻細な術理回路を描き上げていた。見える者には、まるで魔法陣のように映る術理回路。莉伽子の描く、圧倒的なまでに攻撃的で一種の芸術品のように研ぎ澄まされた巨大な術理回路に試合を見守る生徒たちの誰もが感心する。そんな莉伽子のパートナーである詩乃は、天才少女の天才たるゆえんに自らの惨めさを痛感する。自分のような出来損ないではなく、莉伽子の様な少女こそがこの蒼華学院に相応しいのだと、詩乃は自らの術理回路を描きながら自嘲的に胸中で呟く。

(いにしえ)(とぎ)に祀られし白き花。狂いて咲き、乱れて散れ!」

 誰よりも大きな術理回路を、誰よりも早く完成させた莉伽子が高らかに始動鍵(イグニッション・スペル)を口にする。術理回路へと魔力が注ぎ込まれ、事象へと変換されてゆく。その際に生じた魔力の損失が、光や熱として現れ、術理回路自体が淡い光を帯びる。幻想的な光景、それと同時に、魔力から変換された力によって空気が圧縮され、莉伽子に対峙する魔女へと高速で打ち出される。しかし、

(どれだけ、莉伽子さんが強かろうと無駄なのですわ――)

 超高圧で圧縮され赤熱する気弾の軌跡を目で追いながら、詩乃は諦めの言葉を胸の中で漏らす。

 通常、攻性魔法と防性魔法を打ち合った場合、術者に圧倒的なまでの力量差でもない限り、防性魔法が打ち勝ってしまうのだ。攻性魔法に比べて防性魔法の方が容易であるというのは魔法戦闘の基礎中の基礎、魔法戦闘における黄金律だ。だから、魔女同士の一対一の戦いは基本的に決着がつかないといわれている。放った攻性魔法は、防がれるべくして防性魔法によって防がれてしまうのだ。

(ことわり)を解きて、炎は凍る」

 莉伽子の魔法が放たれた直後に防性魔法の術理回路を完成させた相手ペアの始動鍵が響く。術理回路が発光し、魔法が発動していることが確認出来る。莉伽子が放った気弾は、その軌道上に生じた空気の壁に阻まれ、相手へと届くことなくその力を解放し、圧縮されていた空気が弾けてしまう。

 莉伽子は悔しそうな表情を一瞬見せてから、すぐに次の魔法を放つべく術理回路を描き始める。圧縮空気の起こす風に髪をなびかせながら、詩乃は自らの術理回路を完成させ、すぐに来るであろう相手からの反撃に備える。

もう一人の魔女が始動鍵を口にすると同時に「遙か彼方(かなた)に詩声を、遠き彼方(あなた)に幸いを――」詩乃も僅かしかない魔力を犠牲に防性魔法を解き放つ。詩乃の術理回路はほとんど光を放つことなく、穏やかに魔法を顕現させる。防性魔法の基本の一つたる、魔法による強制的な燃焼現象を中和する魔法。詩乃の放ったその魔法が、相手の生み出した魔法による自然界では起こらないであろう酸化現象によって生じた青白い火球を霧散させる。

 そこからは互いに魔法の応酬だ。莉伽子が攻撃し、詩乃が守る。それが彼女たちペアの役割だった。だが、防性魔法により詩乃が攻撃を防ぐ度に、一手ずつ確実に敗北へと近づいていってしまう。

 一対一での戦闘では、戦局が膠着し、決着がつかなくなってしまう。それを打開する為に演習の授業や夜会などの魔法競技は、二対二のペア戦で行われるのだ。二人の連携という要素を取り入れることで、相手の防御を崩すために。そのため、相手の攻撃の隙を突き、攻防のサイクルを崩すためには、どうしても手数が必要となってしまう。しかし、詩乃の少ない魔力では、使える魔法の回数に大きな制約がかかってしまうのだ。いわば、たった数手以内に勝ちを拾わなくてはいけない、不公平なチェスゲームの様なものだ。

(そんなの勝てるわけありませんわ――)

 諦めの想いを胸に術理回路を描く。相手の描く術理回路を解析、それに合わせて適宜回路に手を加えていく。一分一秒でも長くこの戦場に立っているために。少しでも莉伽子の足を引っ張らないようにするために。でも、心の中には、早くこんな試合終わってしまえという気持ちも芽生えていた。相反する二つの気持ち。それを抱えながら、

「朱き衝動――」

 相手の口にする始動鍵に合わせて、

「遙か彼方に詩声を、遠き彼方に幸いを――」

 詩乃も始動鍵を口にし、回路を活性化させる。術理回路へと残り僅かな魔力が流れ込み、魔法へと変換される。だが――

「バカッ! なにやってるのっ!」

 莉伽子の叱責の声が響く。しかし、声は間に合わない。詩乃の魔法が大気を押し固めた不可視の壁を生み出してしまう。一方、相手の術理回路は発光しているにもかかわらず、それが生み出すはずの魔法は発動していない。

過詠唱(オーバースペル)、ですの……」

 自らの過ちに気付き、ポツリと溢す。過詠唱――始動鍵後に術理回路に手を加える基礎技術の一つだ。その応用として、今のように始動鍵後に術理回路内にループ回路を組み込み、魔法の発動を遅らせることが可能となる。

 タイミングをずらされ虚しく発動する魔法。それを呆然と見ていることしか出来ない詩乃とは違い、莉伽子は自らが描いていた攻性魔法の術理回路に大きく手を加えながら修正を施していく。

 詩乃が生み出した壁が途切れると同時に放たれる相手の魔法。もう一方の相手もその期に畳み掛けるべく、攻性魔法を編んでいる。一度、攻防のサイクルが崩れてしまえば、後は一方的な試合になってしまう。それでも莉伽子は諦めずに、神技といっても差し支えない速度で再構成した魔法で、空気を圧縮し、相手の放った衝撃波へとぶつけることで相殺する。衝突により解放された圧縮空気の余波が暴風となり吹き荒れる。

「しっかりしてっ、この出来損ないっ!」

 吹き荒れる風に負けないくらいの大きな声が耳に響く。詩乃は我に返り、思い出したかのように防性魔法の術理回路を編み始める。

すぐさま魔法を完成させた莉伽子が、相手からの追撃の一撃をぎりぎりで防ぐ。攻性魔法に比べて防性魔法の方が簡易だとは言うものの、たった一人で二人分の攻性魔法を相手にすることは決して容易ではない。あまりの手際の良さにざわめく観戦者達。

次の攻撃を詩乃が防ぎ、その隙に莉伽子が攻性魔法を編み、反撃へと転じる。しかし、

「ごめんなさい――」

 術理回路を描きながら、ぽつりと詩乃が溢す。持ち直すかに見えたこの場面で、ついにチェックメイトだった。完成した回路を前に、始動鍵を口にする。しかし、なにも起こりはしなかった。ついに詩乃の魔力が底を尽きたのだ。相手の放った衝撃波が一切減衰することなく詩乃の小さな体を直撃する。その瞬間、彼女が身に着けていた演習服が発光し、緊急防性魔法が発動して詩乃の事を守る。

「そこまで――」

 教師の短い声がグラウンドに響く。それで終わりだった。互いに向き合い礼をする。揚々と去っていく相手ペア。それに対して、礼の姿勢のまま、顔を起こすことなく固まってしまう詩乃。そんな詩乃を尻目に、

「さっさとどきなさい。次の邪魔になるでしょ、出来損ない」

 押し殺した声でそう吐き捨てて、莉伽子は早足に去っていってしまう。残された詩乃もその後を追い、逃げるようにグラウンドを後にする。

(また今日も同じ、ですわね――)

詩乃は落ち込みながら観戦席へと戻る。いつもと同じように今日も負けてしまった。いや、いつも以上にひどかったと言っていいだろう。試合前にあれだけ注意されていたはずなのに致命的なミスを犯し、大いに莉伽子の足を引っ張ってしまったのだから。自分の無力さがあまりにも悲しくて、涙が零れそうになってしまう。それを必死に堪えながら俯いて歩く詩乃の耳へと、

「で、いったいどういうつもりなの?」

 怖いくらいに落ち着いた、それでいて怒りの感情が見え隠れする声が響く。顔を上げた詩乃の前で莉伽子が仁王立ちしてた。表情の消えた顔をしてはいるが、腸が煮えくり返りそうなほど怒っていることが詩乃にも分かってしまう。不運にも、詩乃がパートナーであったがために、莉伽子は今日もまた連敗記録を一つ伸ばしてしまったのだ。だから、

「ごめんなさい――」

 そうとしか口に出来なかった。

「もう何度も言わせないで。ごめんじゃないわ。私は謝らせたいわけじゃないの。ただ、理由を聞いているだけ。さっきのあの無様な試合は何? さっさとこたえなさいっ」

 そんな莉伽子の怒気を孕んだ声にひるみ、顔を俯けてしまう。どれだけ追求をされようと言い訳のしようがなかった。だって、全面的に悪いのは詩乃なのだから。

「ごめんなさい――」

 他に言葉が見つからなくて、そう繰り返す。でも、そんな言葉では莉伽子は納得できなくて、堪え切れずに感情的な声で叫ぶ。

「いい加減にして、この出来損ないっ!」

 大きな声に、観客席にいた他の生徒たちの視線が集まる。試合を観戦しているどころではなかった。そんな中、一人の少女が莉伽子へと寄り、

「まあまあ、莉伽子さん。少しは落ち着きなよ。負けたからって、声を荒げるなんてみっともないよ?」

 甘い声で、宥めると言うよりは嘲りを含んだ言葉を紡ぐ。そんな光景を見守りながら、生徒たちの幾人かがくすくすと小さく笑いを溢す。

「詩乃さんが、出来損ないの集まりの魔法術理学科生だということくらい、あなたもよく知っているはずでしょ? それを責めるだなんて可哀想じゃない。出来損ないは出来損ないなりにがんばっているのにねぇ」

「あなたには関係ない。余所者が口を挟まないで。私はこの出来損ないに話してるの」

「やめておきなさいよ。自分の負けを他人のせいにしようだなんて、かつて全国にその名をとどろかせた魔女のするべきことじゃないでしょ? 莉伽子さん」

 表面上はこの上もなく優しく、棘のびっしりと生えた言葉を投げかける。全国から優秀な魔女が集まってくるこの学院では、中学時代に敵同士として大会で争った魔女達が同じクラスにいることになる。それ故、莉伽子のように突出した魔女には良い意味でも悪い意味でも対抗心を燃やす生徒たちがたくさんいるのだ。

「それにしてもがっかりだわ。あの莉伽子さんが、今ではこんなに堕落してしまっているだなんて。わたくし、昔は憧れていましたのに――」

 彼女の言葉に同調する生徒たちがくすくすと笑い声を上げる。だが、誰も彼もがそういった空気を肯定しているわけではなく、

「ほら、もうその辺にしときなさいよ」

 呆れた声が少女たちの笑い声を牽制する。その横やりに、ここらが潮時だと判断したのだろう、少女たちは興味をなくしたといった顔で二人から視線を逸らしていく。

 残されたのは、詩乃と莉伽子の二人だけ。

「あの、わたしのせいで、ごめんなさい――」

 詩乃が組んだことによって負けることさえなければ、彼女達の様な少女に付け入る隙を与えることなかっただろう。それに申し訳なさを感じて、またその言葉を口にしてしまう。

「あなたは、本当に成長しない人ね。もういいわ。次までに少しは反省して考えなさい」

 莉伽子は、言い捨てると先ほど声を挟んできた少女がいた方へと歩いて行ってしまう。

 一人残され、立ち尽くす。

 自らの欠陥によって、術理学科が、それだけではなく莉伽子まで馬鹿にされてしまった。それがやるせなくて、詩乃は零れそうになる涙を堪え、他の生徒たちの輪から離れた場所でうずくまる。

 先天性魔力欠乏症という欠陥。でも、それは彼女自身にはどうしようもないことなのだ。

(わたしは、出来損ない、なんですわ――)


◆ ◇ ◆


 夕日によって淡く染められた放課後。

 人々の喧騒から離れたいつも通りの校舎裏で、その日も詩乃はひっそりと涙を溢していた。俯いた顔を両足の間にうずめ、小さな肩を両手で抱きながら、自らの情けなさに打ち震える。

 傾いた夕日。背の高い影が地面に落ち、今日という日の終わりを静かに告げていた。

 今日も何も出来ずに負けてしまった自分自身。自分が無力であったがために馬鹿にされていた莉伽子の姿。そして、自分のせいで出来損ない学科と蔑まれた魔法術理学科。なにもかも、すべては自分の無力さが招いてしまった結果だった。自分のせいで、自分が無力なせいで――詩乃はそう自らのことを責める。自らのことを嘆く。

 あなたには無理よ――そうきっぱりと断言した莉伽子の声が自然と思い起こされた。

「わたしには、無理なんですわ――」

 小さく口にする。そうすることで、自分には無理なんだと、嫌なくらいにはっきりと自覚させられる。

 今日の魔法演習での完膚なきまでの敗北。それは、未来の夜会で起こりえるかもしれない醜態だった。それを現実のものとしてしまうくらいなら、いっそ逃げ出して正解だったのだ。自分なんかに夜会は相応しくない。それは、嫌なくらいに分かっていた。

 そんな彼女の自責の念を打ち砕くように、明るい声が響く。

「こんなとこでなにやってんの、泣き虫さんっ」

 その声だけで彼女には誰だかすぐに分かった。

「湊先輩。わたし、泣き虫なんかじゃありませんわ……」

 泣き顔を見られたくなくて、顔を上げることはせずに鼻声で抗議の声を上げる。それが今の彼女の精一杯の強がりだった。

「落ち込んでんならさ、泣き虫さんっ。また元気の出るおまじないしてあげよっかっ?」

 そう口にして、湊は薄い唇を舌舐めずりする。そんな湊の姿は詩乃には見えてはいないはずなのだが、不穏な気配に詩乃はとっさに身構えて、

「け、けっこうですわっ」

 と、ついつい大きな声を出してしまう。

「冗談だって。そんな身構えんなよ、泣き虫さんっ」

「だから、泣き虫なんかじゃ――」

「ないんだろ? ならさ、ほら、顔を上げようぜっ」

 湊がそっと詩乃の頭に手を添える。

「ちょ、ちょっとだけ待ってくださいな――」

 慌てて詩乃は涙で湿った顔を拭う。泣いていたことが丸分かりな顔で、それでも、わたし泣いていませんでしたからと主張しながら湊へと顔を見せる。

 そんな詩乃の顔を見つめて微笑み、

「昨日の話さ、考え直してくれた?」

 しゃがみ込み、詩乃の顔を正面から覗きながら尋ねる。

「夜会のこと、ですわよね……」

「そう、あたしと一緒に出ようって話。あたしたちならさ、きっとやれるはずだって」

 期待の眼差しを向ける湊。でも、詩乃は、

「わたしには、無理ですわ……」

 視線を逸らすように顔を俯けてしまう。

「なんでさっ、あの莉伽子とかいう子に、無理だって、そう言われたから?」

「そうじゃありませんわ……先輩だって知ってらっしゃるじゃないですか、わたしの魔力のこと……」

「知ってるよ、だから誘ってるんじゃん。魔力がなくたって詩乃は立派な魔女なんだって、そう証明してやろうってっさ。あたし可笑しなこと言ってる?」

「言っていますわ。わたしなんかが夜会に出るだなんて無理に決まってますもの――」

「無理じゃないさ、詩乃。あんたが自分のことを信じてやんなくてどうすんだよっ」

 湊は詩乃の肩を掴んで、諭すように口にする。だが、

「信じて、でも、嫌になるくらいに思い知らされてきたんですわ――」

 返って来たのは、感情の押し殺された悲しげな台詞だった。

「なぁ、詩乃。あんたはさ、自分のことを出来損ないだって、そう思っていたりする?」

 真正面から詩乃の瞳を覗き込み、尋ねる。湊の問いにはいと小さく言葉にして頷く詩乃。

「それはさ、魔力のせい?」

 次の問いには、はいとは口にせずに黙って頷いた。先天性魔力欠乏症。それによる劣等感。それが詩乃の事を蝕んでいる。

「確かに、詩乃の魔力はさ、人には劣るかもしれない。でもさ、もしも詩乃が一緒に夜会に出てくれるって、そう言ってくれるならさ、あたしが詩乃に足りないものを補ってやれると思う」

「わたしに足りないもの、ですの?」

「あぁ、二人で戦うってそういうことだろ? 一人じゃ足りなくても、二人なら助け合って戦える。そのための力ならあたしがいくらだって何とかしてやるよ。でもさ、詩乃の戦おうって気持ちだけはあたしにはどうしようもないわけよ。それだけは詩乃が自分で選ぶしかない。だから、詩乃――」

 そう呼び掛けて詩乃の両肩を掴み、立ち上がらせる。一緒に行こうと、そう促すように、

「あとはあんたが自分で決めな。もしも、夜会に出るって、そう詩乃が言ってくれるなら、あたしが詩乃の力になってやるよ。それだけは約束する」

 強く、でも静かに言葉を告げ、湊は詩乃の事を掴んでいた手をそっと放す。

「でも、自分は出来損ないだから、夜会には出られないんだって、そんな風に思ってるんだとしたらさ、詩乃」

 湊は詩乃の瞳を見据えてはっきりと言葉にする。

「あんたはただの出来損ないだっ」

 湊の口から出た出来損ないという言葉。それに打ちひしがれた様に呆然と立ち尽くす。ついに先輩にまでその言葉を口にさせてしまったという想いで胸が張り切れそうになる。

「でも、あんたは違うだろ、詩乃っ。少なくとも、あたしはそう信じてるぜ」

 湊はそれだけを告げてくるりと向きを変え、歩き出す。少しずつ遠ざかって行く湊の背中。自分のことを信じ、声をかけてくれた優しい先輩。それが今詩乃から遠ざかって行く。

 待ってくださいましっ! 胸の中で叫ぶ。わたしを置いて行かないでくださいましっ! 一人で取り残されてしまうのが怖くて叫ぶ。

 いつだって、泣いている詩乃を見つけてくれるのは湊だった。こんなとこでなにやってんのっ、泣き虫さんっ、そう明るい声で笑い掛けながら詩乃のもとへとやって来てくれた。だから、そんな湊に甘えて、彼女が来てくれると信じて泣いていることが出来た。一人でいても湊が決してひとりぼっちにはさせてくれなかった。

 でも、今、ついにその湊が詩乃へと背を向けている。湊は自らの行為が、詩乃が前へと進む妨げになっているということに気付き、あえて背を向けこう告げている。次はあんたの番だぜ、泣き虫さんっ、あんたがあたしのところまで来て見せな――

 背を向けながら、湊はそう手を差し伸べてくれていた。今行かなくては、本当に出来損ないになってしまう。なのに、

「出来損ない――」

 小さく口にする。それは、遠山詩乃という少女に嫌というくらい染みついた言葉だった。遠山の後継者としての出来損ない。詩代という妹の存在そのものが彼女が出来損ないであるという証拠に他ならなかった。この学院に来れば、あの自分を出来損ないだと定義する家を抜け出せば、その言葉から解放されるのではないか。そう思っていた。でも現実はこのざまだ。家を出る際に妹に言われたように、逃げても何も変わりはしなかった。詩乃は出来損ないのままだった。

 去り行く湊の背中をただ見つめることしか出来ない。それが悔しくて、いや、悔しくすらなかった。ただ、悲しかった。これで湊にまで出来損ないだと、そう思われてしまうのが悲しかった。

「ごめんなさい、湊先輩……わたしはどうしようもなく出来損ないなんですわ……」

 後ろ姿が見えなくなってから、漏らす。自然と涙も溢れてきた。


◆ ◇ ◆


 いつの間にか、夕焼け空は夜の帳へと変わり、ぽつりぽつりと小さな星が浮かんでいた。

「ついに湊先輩にまで失望されてしまいましたわ――」

 先刻、湊と別れた時と同じ膝を抱えて俯いた姿で、詩乃は自嘲的に小さく溢した。

寮の門限は既に過ぎてしまっている。早く戻らなくてはならない。頭では、そのことを分かっていても、身体はそうは動いてくれなかった。詩乃にはもうどうしていいのか分からなくなってしまっていた。ただ、うずくまって泣き続けることしか出来なかった。こうして泣いていれば、もう一度湊がやって来てくれるのではないか。そんな卑怯な想いが浮かんでは、自らの嫌さ加減に吐き気を覚える。そんな詩乃へと不意に声が掛った。

「余計なことかもとは思ったんですけど――」

顔を上げた詩乃の前には、心配そうな顔をしたルームメイトが立っていた。

「でも、詩乃ちゃんの帰りがあまりにも遅いんで、湊先輩の所に押し掛けて、話を伺って、それで、来てしまいました」

「怜奈さん……」

 そこにいる相手の存在を確かめる様に名前を呼ぶ。怜奈は、はい、と言って笑い掛けてくれる。

「迷惑でしたか?」

「そ、そんなことありませんわ……むしろ、ありがたいくらいです……わたしひとりでは、もうどうしたらいいのか……」

 詩乃は、自らの顔が涙で湿り、泣き声であることにも構わず、怜奈へと応える。怜奈は、膝をかかえて校舎へもたれかかっている詩乃の隣に並んで座り、肩を寄せる。

「日、暮れちゃってますね」

 星空を見上げながら、怜奈はぽつりと呟く。

「きっと、寮監の先生に叱られてしまいますね」

「ごめんなさい、わたしのせいで――」

「いいんですよ、詩乃ちゃん。私が一緒にいたかっただけですから。でも、叱られる時も一緒ですからね」

 そう言って怜奈は笑ってみせる。それにつられて詩乃の表情も少しだけ和らぐ。

「だから、詩乃ちゃんの気が済むまで、私もここに居させてください。そして、一緒に怒られに戻りましょうね」

 そんな怜奈へと詩乃は涙を拭い、これ以上みっともない声を聞かれてしまうのが嫌で、声には出さず頷いて応える。

「それまで、少し私の話をさせてもらってもいいですか?」

 怜奈は、少し間を置いてから、そう尋ね、詩乃の答えを待たずに続ける。

「実は、少し前に私も詩乃ちゃんのように同じ学科の先輩から夜会へのお誘いを受けたんです」

 怜奈の様な優秀な魔女ならば、パートナーに選ばれるのも当然のことだろうと詩乃は思った。出来損ないで泣き虫の自分と違い、魔法の腕もトップクラスで人柄も良い。誰かから選ばれて当然の人なのだ。

「でも、そうですね。私も詩乃ちゃんと同じでした。その先輩は私では釣り合わないようなすごい人だったんです。私がパートナーでは力不足になってしまうような。もちろん、誘ってもらえて嬉しくなかったわけではないんです。嬉しくて、でも、嬉しかったからこそ、その人にだけは失望されたくなかったんですね、私――」

「怜奈さんは、わたしなんかとは違いますわ――」

「いえ、同じですよ。違うなんて言わないでください。少しさみしくなってしまいます」

「でも、わたしは出来損ないで……それに比べて、怜奈さんは――」

 意識しないように努めていたはずの怜奈に対する劣等感からそう溢してしまう。

 有馬怜奈――彼女は詩乃とは対極にいるような魔女なのだ。この学院でも一、二を争うくらいに強力な魔法を行使出来るまごうことなき天才。

「私は詩乃ちゃんのことを出来損ないだなんて思ってませんよ。私も詩乃ちゃんもそんなに変わりはないはずです。それでも、もし私と詩乃ちゃんとの間に壁があるのだとしたら、それを作っているのは詩乃ちゃん、あなた自身なんじゃないですか?」

「そう、なのでしょうか? わたしには、そうは思えませんわ――」

 詩乃は、そう口にする怜奈のことをどこか遠く感じてしまう。

「少し、話を戻しましょうか。私が先輩から夜会へのお誘いを受けたという話です」

 詩乃の卑屈な態度に少しだけ苦笑して、怜奈は話の筋を戻す。

「最初はですね、断ろうと思っていたんです。私なんかには無理だって、そう思いましたから。だから、素直にそう先輩に言ったんです。そしたら、怒られてしまいました。選んでもらえたっていう、そのこと以上にパートナーになるに相応しい何かなんてないんだって、そう説教されてしまいました。理由なんて、きっかけなんて、選んでもらえたっていう、それだけでよかったんです。私の力を知った上で選んでくれたってことは、そんな私を必要としてくれたってことです。他の誰でもない今の自分を。違いますか、詩乃ちゃん?」

 怜奈は長い台詞を詩乃への問い掛けで締めくくる。

「わたしは……でも、仮にそうだとしても、もう何かもすべて手遅れなんですわ――湊先輩に、失望されてしまいましたから――」

 湊の手を取れなかった時のことを思い出して、詩乃は悲鳴を上げる。

「先輩は、まだ詩乃ちゃんのことを待ってくれているはずですよ」

「嘘ですわ。だって、出来損ないだって、そう先輩に言わせてしまったのですから――」

 頑なな詩乃の態度に、怜奈は意を決する。一呼吸置いてから、

「一つだけ聞かせてください、詩乃ちゃん。あなたは、自分のことが出来損ないだって、そう思ってるんですか?」

 詩乃の核心に触れる問いを口にする。

「わたしだって、自分は出来損ないなんかではないと思いたいですわ……でも――」

 胸の中にしまいこまれていた思いを絞り出すように言葉を吐き出す。でも、そうはなれないのだと、否定の言葉は声にならずに胸の中にわだかまる。

「私は、詩乃ちゃんは出来損ないなんかじゃないって、そう信じていますよ」

 自分一人ではもうどうしたらいいのか分からない、そう漏らした詩乃の声を思い出しながら、怜奈は詩乃の肩を抱く。そして、怜奈は優し続ける。

「もしも、詩乃ちゃんもそう思ってくれているのだとしたら、私が詩乃ちゃんの力になってあげれると思うんです」

「どういうことですの?」

「明日の放課後、少し私に付き合ってもらえますか? 私とデートしましょう、詩乃ちゃん。私が詩乃ちゃんに自信をつけさせてあげます」

 きょとんとした顔をする詩乃へと、怜奈はとびっきりの笑顔を見せた。


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