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違います、ちがうんです。  作者: 炭酸電池
3/6

なんださん?

まだ終わりそうにありません…。すみません。

あれこのパターン、と一瞬嫌な予感がよぎる。


……そう、そうだ。


このパターンは、私の間の悪さと勘違いされる偶然の連鎖が起きる、前触れだ…!!



最初はちょっとした偶然。

だがしかしその偶然を皮切りに、私の間の悪さは連続して起こる。

狙ってんじゃないかな、ていうくらい起こる。

この人にも!?この人にもですか!



「ふふ。さっきの従業員さん。またお会いしましたね。」


「あっ、えと、向こうのレジに置いてある商品、も、持って来ますね。」



まずい!いつもお客さんの前では完璧な従業員を演じる私も、これから始まるであろう恐ろしい偶然の連鎖に動揺してしまっている!

落ち着け私。慌てれば慌てるほど罠にハマる。

商品を打つ時は顔を上げては駄目だぞ!絶対目合うからね!



「951円が10点、1896円が2点、3800円が1点、………」



おかしいな。

他のレジは長蛇の列が出来てるのに、私のレジだけ金髪外国人しか並んでない。

でもあちこちから、こっちをチラチラ伺う視線は感じる。

こっちというか、恐らく金髪外国人のお客様を見てるんだろう。


なにこれ………。



「なんださん、っていうお名前なんですね。」



機械的に商品を打っていると、金髪外国人が私の名札を覗いて楽しそうに笑った。

うんそうだよ、私の名前は南田だよ。



「南の田んぼで、南田さんですか?」


「はい。そうです。」


「へえ。変わった響きのお名前ですね。」


「あはは……。」



やめてくれ!!私では貴方の望むような田舎のスーパーの店員さんとほのぼの暖かい会話など出来ない。

コミュニティ障害だからね!

だからもう話しかけないで下さ…


ん?


あれ。なんか鼻がムズムズする。

やばい、レジ打ってる途中なのにくしゃみしたくなってきた。

マスクしてくれば良かったな。



「ううっ。」


「?」


「はっ、ふぁっ、な、なんでもないです。」



く、くしゃみが、くしゃみが。

抑えきれそうにない。私のポーカーフェイスも一気に崩れ去る。

世の中には抑えきれるくしゃみと濁流の如く止まらぬくしゃみがあるが、これは後者だ。

このまま商品を打っててうっかりしてしまったら、商品が汚れてしまう。


よし、開き直って、後ろ向いて思い切りやってしまおう。


そっと顔を上げる私。

すると、金髪外国人と目が合った。

いや、今はそんなことどうだっていい、くしゃみだ。



「やっとこっちを見てくれた。」


「!」



ふぐ……!早く後ろ向かないと出ちゃう!

ばっと後ろを向いて口を抑える。


だが、いざくしゃみの衝撃に備えると、我慢し過ぎたのか気配がなくなってしまった。


くっ……!

皆様にはお分かり頂けると思う。

くしゃみし損ねたこの私の悔しさ、無念を。

鼻がもやもやする!



「………。」



し損じたのは悔しいが、今は接客中。

向きを直してレジの方に戻る。

続きを打とうと商品を手に取るが、ふと金髪外国人のほうから妙な視線を感じた。

しかしどうせ気のせいなので、無視して早くお会計に移ってしまおう。



「合計23951円になります。25001円からお預かり致します。」



1050円のお返しになります、のところで、また目が合った。

にこにこ笑ってる。日本人だとこうはいかない。私も見習いたいものだ。



「次、お会いしたら、」


「はい。」


「下のお名前も教えて下さい。」


「え、あ、はい。」



なんで?









金髪外国人のお客様が退店すると、一気にレジに並ぶお客様もいなくなって、店内は静かになった。

これは一体どういうことなんだろう。恐ろしい。


私も一息ついたので、納品を出そうと台車でダンボールを運ぶ。

ダンボールを下ろして商品を陳列しようとすると、ガラスに映る自分の姿が目に入った。


太いなぁ……。


ガラスの向こうに駐車場が見える。

でこぼこしたコンクリートに、オレンジ色の夕日の光が当てられて、きらきらと輝いている。

夕日は少しずつ光を増していった。

するとガラスに映る私はどんどん薄くなっていくので、つい目を凝らしてジッと見てしまう。



「(…いやそれにしても本当に太いな…………ん?)」



ずっと見ていたら、ふと気付いた。

ガラスに映る私と、ダブって見える人影がある。

これは………?



私は視野を目の前のガラスの表面から、ガラスの向こう側に広げる。

すると、ガラスの向こう側、つまり私が凝視していた先に一人の男性がいた。



缶を口に付けたまま此方を振り返り、目をぱちくりさせて私を見ている……………金髪外国人だった。





私も思わずきょとんと見つめる。

向こうもきょとんと見つめてくる。



え?なんで私をそんな目で見る?

そう思ったのも束の間、私は……気付いてしまった。


このガラスは勿論透明だ。

私は鏡のように映った自分の贅肉を眺めていたワケだが、相手はそんなこと知る由もない。自分が見られてると思うだろう。

そう考えると相手からすれば、変なデブスが俺に見惚れてるぜといった所だ。





………………。




金髪外国人が、何事も無かったように、私ににっこり笑って手を振った。

私も笑う。力無く。







あー、夕日が綺麗だな。

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