ごめんね南田さん
前編後編の予定です。
「ごめんね、南田さん。俺、細くて派手めな子が好きだからさぁ……。」
「はい?」
「いつも南田さんが俺を見てるの、知ってたよ。気持ちは嬉しいんだ、ホントに。」
「?」
「でも、彼女いるから。ごめんね。」
「???」
この人は何を言っているんだろう。
スーパーのバイトの休憩中、社員が気まずそうに話しかけてきたと思ったら、この内容。
もちろん私はこの社員に告白した覚えは無いし、いつも見ていた覚えも無い。ついでに言うと名前も思い出せない。
こんなことを言われる筋合いは無い。
ないない尽くしである。
いきなり意味の分からない事を言われて、えっ?えっ?と動揺してしまった私。
そんな様子の私を見て苦笑いした社員は、「そんなに慌てなくてもいいって。じゃあ、ごめんね南田さん。」と言って休憩室から出て行った。
「……………。」
若くてオシャレで、お客さんにナンパされるようなイケメンな社員。
かっこいい、とは思っても別に好きとかじゃなかった。
すごいナルシストな勘違い野郎だ。
今後関わらないようにしよう………。
「南田ちゃーん!!マジ分かりやす過ぎっ!」
「はい?」
「でもすまん!南田ちゃんは大好きだけど、オレ彼女のことすっげ愛してるんでー!」
「?」
「いやいや……南田ちゃん、結構分かりやすかったよ?オレが振り返るといつも顔逸らしたりするじゃん?」
「???」
この人は何が言いたいのだろう。
バイトを終え、帰宅する前に夕飯の食材を買おうとスーパー内を彷徨う中、チャラい食品の社員に話しかけられた………と思ったらこの内容。
何が分かりやすいのだろうか。
私は特にこの食品の社員に対して何かを思ったことは無いし、この人が振り向くに合わせて顔を逸らした記憶も無い。ついでに言うと名前も思い出せない。
ないない尽くしである。
話に追い付けなくて、えっ?えっ?とキョロキョロしてしまった私。
それを見た食品の社員は、あはは。と笑って「誰も聞いて無いからだいじょーぶだよ。んじゃ、お疲れっす、南田ちゃん!」と従業員用のドアに引っ込んで行った。
今日の休憩中に来た社員と同じくイケメンでナンパされるチャラ男。
そんな彼は一体何が言いたかったのだろう。
うーん。まあいいか。
一人頷いて、私は再び夕飯の材料を選んだ。
…………と、以上の出来事が起きたのが、一ヶ月前。
あれから七人もの男の社員、アルバイトに同じようなことを言われてしまった。
ここまで来ると、さすがに気付くことがある。
わたしは、知らず知らずのうちに勘違いされる行動をしてる、と。
例えば、バイト中に私が作業をしていると、背後に誰か通る。私がなんとなく通り過ぎた人に目をやる。するとその通行人が用事を思い出して振り返り、私と目が合うのだ。
違う、違うんです。
あなたの後ろ姿を見つめていたわけじゃないんです、偶然なんです。
例えば、売り場を掃除しようと、道具を取りに倉庫へ向かった時。
ちょうど大学生アルバイトが帰宅で、事務所から倉庫内にある出口に向かうところだった。
道が同じなので途中まで私はその人の後ろを行く形になる。
倉庫についたが、いつもかかっている箒とちりとりが無いので、そのまま踵を返す。
すると、裏口のドアを開けていた大学生アルバイトが、いやに此方を見ながらそそくさ帰って行った。
違う、違うんです。
跡をつけたわけじゃないんです、箒とちりとりを取りに来ただけなんです。
他にも、寝不足でボーッとしていたら、偶然ボーッと見つめていた先に人がいたり。
あがり症とどもりグセのせいで恋する乙女のようになってしまったり。
冷静に考えてみると、数え切れないくらいそういう偶然が多かった。(最後のは偶然でもなんでもないが。)
勘違いされるわけだ!
私は普段の行動から、地味で大人しくて自信の無い子、と思われてるから、こっそり見つめられると余計に誤解してしまうんだろう。見つめてないけど!
「間が……間が悪過ぎるんだ……!!」
どうすれば!どうすれば!?
出来れば誤解は解きたい!
初恋もまだなのに、こっちの知らないところで九回も失恋させられるなんて不愉快極まりない。
ウブな乙女が短期間に九人も好きになるわけねーだろ!!ナルシスト共!!クソがっ!!
ハッ…あまりの悔しさで口が悪くなってしまった。
何か良案はないか。
このままでは精神は荒んでいく一方だ。
『いい方法があるわよ!』
「えっ!?」
自分の部屋で一人でいた筈なのに、他人の声が聞こえて顔を上げると、付けっ放しにしていたテレビが目に入った。
なんだ、コレか。
今人気のドラマで、可愛い女の子が地味な女の子をイメチェンさせる、という内容なんだよな。
『あいつらを見返してやるのよ!ダイエットして、可愛い服着て、お化粧して、暗い顔を明るくして!』
「ほ、ほう。」
『な、なんでそんなこと、』
『だって、あいつらがあんな事言えるのは、あなたを密かに馬鹿にしてるってことよ。悔しくないの!?』
突如、私の目からウロコが何枚か落ちた。
あなたの言う通りです、先生……。
告白もしてないのにあんな事言われるって事は、馬鹿にされてるんだよね。
おどおどした気弱なデブスだって。
「よし!決めた!わたし、ダイエットして、オシャレして、お化粧して、うじうじした性格も直す!そして、あのナルシスト共を見返してやる!」
『よく言ったわ!あたし応援するわ!』
「ありがとうございます、先生!」
それにしても、会話の成立率パねーな。