小説未満「反照」
目の前に居る彼女は言った。
『何時までも一緒ね』
私は頷いた。彼女も頷いた。それだけで言いたいことは全て伝わる。私と彼女はそんな関係だった。彼女のことは自分の事のように分かる。きっと彼女も同じだ。
「せめて貴方に手が届いたなら」
私は悲しむ。彼女には手が届かない。私と彼女の間には壁があった。
『それでも繋がっているよ。心はいつでも繋がっている。それに、今、顔を合わせているじゃない』
だから大丈夫。そう言って彼女は微笑んだ。不思議な笑みだった。何だかその笑顔を見ていると、抱えている不安が消えていくように感じた。自然と笑みが零れていることに気づく。
『やっと笑ってくれたね』
良かった良かった。また彼女は微笑む。先ほどのモノとは違い、安心させる、より、安心した笑みだった。
その笑顔を見ると私も安心した。
『それじゃ…ほら、いってきます、だよ』
言われて、彼女の後ろに映る時計を見れば、もう学校に行かねばならない時間だった。
「…行きたくない。まだ貴女とお話していたい」
『ダメよ。貴女は行かなきゃいけないの』
「…貴女とお別れしたくない」
『だから大丈夫よ。私は貴女なんだから。いつでも会えるわ。それに私はいつでも貴女の傍にいるから、ね?』
そう言われても…私はここから出たくなかった。彼女に会えなくなるかもしれない。そんなことを考えると、もうこのままここに根を生やして生きたい、そんな事を思ってしまった。植物が羨ましかった。
「…やっぱり生きたくない」
『ダメよ。貴女は行かないといけないの。そうしないと貴女と会えなくなってしまうじゃない。それに貴女が行かないと私は心配で出掛けることができないわ』
彼女はそう言って私を諭す。それでも私はここから出たくないのだ。外は寂しい。彼女が傍に居てくれない世界は、私にとっては苦痛のみが存在している。周りの人間が私を笑っている気がしてならない。一億人が総笑いしているように思えて仕方無い。そんな世界は見たくなかった。
イヤイヤと首を振る。しかし、彼女もダメダメと首を振る。
お互いに一歩も譲らない。私も彼女も、一度意地になると意見を曲げようとはしないところがそっくりだった。
「…私はここから出ない。心配なんかいらないから勝手に出ていって」
勿論本心ではない。彼女が出ていってしまえば、ここにだっている意味がないのだから。それでもそんなことを言って、彼女を困らせたかったのだ。実に子供だと自分でも思う。だからどうしたのだ、そうとも思う。
『本当に…私が出ていってしまってもいいの?』
そう言って彼女は困ったように微笑む。私は彼女が出ていってしまうかもしれない、そんな予想外の展開に頭が回らなくなってくる。段々と、彼女が何を考えているのかも分からなくなり始めてきた。
彼女と引き剥がされるような感覚がしていた。
『大丈夫?ねぇ?どうしたの?大丈夫?大丈夫なの?』
彼女が焦った様に声を上げる。どうやら私がどうなっているのか、分からないらしい。彼女は私を理解できない。理解してくれない。もう彼女は彼女ではない?
じゃあいらない?
『ねぇ?ね、な、何?何しようとして』
バリン、と綺麗な音がして彼女であった何かが砕ける。彼女らしきものが居た位置には、真赤な鮮血が飛び散っていた。
紅く視界が染まりつつある。しかし、思考は青く透き通ったようにクリアになっている。
クリアになった頭で考えると、さっきまで話していた彼女は偽物だったんだろう、という結論に落ち着く。だって、さっきから彼女はそこにいるんだもの。
そう言って振り返った先には私が望んだ彼女が居る。彼女と私はやはり離れる事は出来ないのだ。
「おはよう」
そう言って笑いかけると
『おはよう』
彼女もそう言って笑うのだった。
そういえば彼女は、頭に怪我をしているようだが、大丈夫なのだろうか?
自分でもよく分からないお話。
これを書いたのが実は一年くらい前の事で、その時の自分が何を思ってこれを書いたのかよくわかりません。
いっそ、彼女の部屋を借りてお話してみたいです。