第９章 原理と帰結について
principiumは物事の始まりを，principiatumはそれによって始められるものを指します。このため、理論などでprincipiumが使われる場合は、「原理」を意味することになります。しかし、日本語ではこの多義的なprincipiumに相当する単語が存在しません。そこで，文脈に応じて，principiumを「始まり」ないし「原理」，principiatumを「始められるもの」ないし「帰結」と訳し分けることにします。
Cap. 9. De principio et principiato.
原理と帰結について
§. 1.
【問い】
Quot modis sumitur vocabulum principii?
原理という言葉は何通りに解されるか？
【答え】
Duobus: late et stricte.
2通り。広義と狭義に。
§. 2.
【問い】
Quomodo stricte?
狭義ではどのように？
【答え】
Ut significet idem quod causa, (de qua cap. seq.)
因と同じものを指す(因については次章で)。
§. 3.
【問い】
Quomodo late?
広義ではどのように？
【答え】
Ut latius pateat quam causa.
因よりも広くなる。
§. 4.
【問い】
Declara.
分かり易く。
【答え】
Iuxta hunc sensum omnis quidem causa est principium, sed non omne principium est causa.
広義において，全ての因は原理である。しかし，全ての原理が因となるわけではない。
【解説】
冒頭で述べたように，原理とは物事の「始まり」である。「因」（causa）すなわち日本語で普通「原因」と訳されるものは，しばしば物事の始まりになる。例えば，ゲーム機の電源を入れることは，ゲームが起動する「因」である（より正確に言うと、生成因である）と同時に，ゲームの「始まり」である。しかし，だからと言って、全ての始まりが原因となるわけではない。その反例については，次の節を参照。
§. 5.
【問い】
Proba hoc per exemplum.
例によって明らかにせよ。
【答え】
Aurora est principium diei, sed non est causa diei.
朝日は一日の始まり〔＝原理〕だが，一日の因ではない。
§. 6.
【問い】
Quaenam acceptio est huius loci?
ここではどちらの意味か？
【答え】
Lata.
広義。
§. 7.
【問い】
Quaenam igitur est prima divisio principii?
したがって，原理の最初の区分はどうなるか？
【答え】
Principium est vel causale, vel non causale.
原理には，因的原理と，非因的原理がある。
§. 8.
【問い】
Quid est principium causale?
因的な始まりとは何か？
【答え】
Quod ita est principium, ut simul habeat influxum causalem.
それは，始まりであると同時に原因としての影響力を持つものである。
§. 9.
【問い】
Da exempla.
例を挙げよ。
【答え】
Sic materia et forma sunt principia corporis naturalis in physicis.
この意味で，質料因と形相因は物理学における自然な物体の原理であると言われる。
§. 10.
【問い】
Quid est principium non causale?
非因的原理とは何か？
【答え】
Quod ita est principium, ut non simul habeat influxum causalem.
それは，始まりであると同時に，原因としての影響力を持たないものである。
§. 11.
【問い】
Da exemplum.
例を挙げよ。
【答え】
Sic privatio est principium corporis naturalis in physicis.
この意味で，privatioは自然学における自然な物体の始まりであると言われる。
【解説】
privatioの意味が不明なので訳語保留。
§. 12.
【問い】
Recita aliam divisionem principii.
原理のもうひとつの区別を挙げよ。
【答え】
Principium est vel essendi, vel fiendi, vel cognoscendi.
原理には，存在原理と，生成原理と，認識原理がある。
§. 13.
【問い】
Unde desumta est haec divisio?
この定義はどこから取られたのか？
【答え】
Ex definitione Aristotelis.
アリストテレスの定義から。
§. 14.
【問い】
Quomodo vero hic definiebat?
では，彼はどのように定義したのか？
【答え】
principium est, unde aliquid est, aus sit, aut cognoscitur.
原理には，それによってそれが何かであるものと，それが何かであったものと，それが何であるかが認識されるものとがある。
§. 15.
【問い】
Quid est principium essendi?
存在原理とは何か？
【答え】
Unde res dependet in esse.
それによって物があるところのもの。
§. 16.
【問い】
Da exemplum.
例を挙げよ。
【答え】
Talia principia sunt materia et forma in physicis.
自然学における質料因と形相因は，この種の原理である。
§. 17.
【問い】
Quid est principium fiendi?
発生原理とは何か？
【答え】
Unde res dependet in fieri.
それによって物が生じるところのもの。
§. 18.
【問い】
Da exemplum.
例を挙げよ。
【答え】
Tale principium est privatio in physicis.
自然学におけるprivatioはこの種の原理である。
【解説】
この箇所は意味が分からないため，privatioの訳語保留。
§. 19.
【問い】
Quid est principium cognoscendi?
認識原理とは何か？
【答え】
Unde res cognoscitur.
それによって物が認識されるところのもの。
§. 20.
【問い】
Quotuplex est principium cognoscendi?
認識原理にはいくつあるか？
【答え】
Duplex: incomplexum et complexum.
2つ。非包括的な原理と包括的な原理。
§. 21.
【問い】
Quid est principium cognoscendi incomplexum?
非包括的な認識原理とは何か？
【答え】
Medius terminus in syllogismo.
三段論法における媒介術語である。
【解説】
次のような三段論法があると仮定する。
１、ソクラテスは人間である。
２、人間は動物である。
３、よってソクラテスは動物である。
ここで、前提１と前提２を媒介する単語「人間」が「媒介術語」である。
§. 22.
【問い】
Quid est principium cognoscendi complexum?
包括的な認識原理とは何か？
【答え】
Propositio maior vel minor in syllogismo, quae continent medium terminum.
三段論法における大前提ないし小前提である。これらが，媒介術語を含む。
§. 23.
【問い】
Quotuplicia sunt principia complexa?
包括的原理にはいくつあるか？
【答え】
Duplicia: prima et secunda.
2つ。基本原理と派生原理。
【解説】
基本原理とは，本当にそれ以上遡れない原理を指す。数学や論理学においては，公理がこれに該当する。派生原理は定理である（第27節参照）。
§. 24.
【問い】
Quotuplicia sunt principia prima?
基本原理はいくつあるか？
【答え】
Iterum duplicia: theoretica et practica.
ここでも2つある。すなわち，理論的な基本原理と実践的な基本原理。
§. 25.
【問い】
Da exemplum principii primi theorethici.
理論的な基本原理の例を挙げよ。
【答え】
Impossibile est idem simul esse et non esse.
同じものがあると同時にないことは不可能である。
【解説】
いわゆる矛盾律に該当する原理である。但し，現代の形式論理学における矛盾律と同一のものではない。真理値を用いていないので。
§. 26.
【問い】
Da exempla principii primi practici.
実践的な基本原理の例を挙げよ。
【答え】
Deus est colendus. Suum cuique tribuendum. Nemo est laedendus.
神は崇められるべきである。各人に各人のものが配分されるべきである。何人も害されるべきではない。
§. 27.
【問い】
Quid est principium secundum?
派生的な原理とは何か？
【答え】
Quod ex primo aliquo probatur seu demonstratur.
基本原理から明らかにされるもの，すなわち証明されるもの。
【解説】
数学においては「定理」と呼ばれるものがそれである。
§. 28.
【問い】
Da exemplum.
例を挙げよ。
【答え】
Furtum non est faciendum.
盗みは為されるべきでない。
【解説】
「何人も害されるべきではない」は，実践的な基本原理である（第26節参照）。ここから，次のように演繹する。
１、何人も害されるべきではない。
２、盗みは人を害している。
３、よって盗みは為されるべきではない。
§. 29.
【問い】
Quot sint requisita principii?
原理の要件はいくつあるか？
【答え】
Duo.
2つ。
§. 30.
【問い】
Quodnam est prius requisitum?
1番目の要件は何か？
【答え】
Ut principium quocunque modo sit prius principiato.
原理は，いかなる形でも，派生物にとって第一のものでなければならない。
§. 31.
【問い】
Quodnam est posterius?
2番目の要件は何か？
【答え】
Ut sit aliqua connexio vel consecutio inter principium et principiatum.
原理と帰結との間には何らかの結合ないし流れがなければならない。
§. 32.
【問い】
Quot sunt praecipue theoremata de principio?
原理について明晰なセオリーはいくつあるか？
【答え】
Duo.
2つ。
§. 33.
【問い】
Recita prius.
1番目のセオリーを挙げよ。
【答え】
In principiis non datur progressus in infinitum.
諸原理においては，無限の過程が与えられてはならない。
【解説】
証明の無限後退の禁止。
§. 34.
【問い】
Recita posterius.
2番目のセオリーを挙げよ。
【答え】
Principia essendi certo respectu sunt etiam principia cognoscendi.
存在原理は，ある観点から見れば認識原理でもある。
§. 35.
【問い】
Quomodo vocatur talis cognitio?
このような認識は何と呼ばれるか？
【答え】
A priori.
ア・プリオリな認識。
§. 36.
【問い】
Quomodo autem vocatur cognitio, quae non sit per principua essendi, sed per principiata?
存在原理ではなく帰結よる認識は何と呼ばれるか？
【答え】
A posteriori.
ア・ポステリオリな認識。
§. 37.
【問い】
Da exemplum cognitionis a posteriori.
ア・ポステリオリな認識の例を挙げよ。
【答え】
Cum Deum cognosco ex creaturis.
私が神を被造物から認識するとき。
