証言と人間
ドアを開けると、昨日の朝、化け物に襲われていた女の人が居た。
何のようだ・・・
「どうしました?」
恐る恐る聞いてみた。
「あっ 何かすいません。 あの時はありがとうございました」
一瞬、戸惑ったが冷静に言葉を返した。
「いえ、人を助けるのに理由はいりません」
「あの、実は一つ、伝えたいことがあって・・・」
彼女の表情は思いつめているように見えた。
「何かあったんですか?」
彼女のその表情を察してか、優一は真剣に聞いた。
「信じてもらえないかもしれないんですけど、あの時見たんです」
彼女は朝、木材を集めるため村の端の方に向かって、歩いていたそうだ。
その時にあの化け物の事件があった地域から知らない男が現れたのだという。
俺と同じように、迷いこんだんだと思った。
だから、話しかけ、介抱しようとしたのだという。
でも、その時、様子がおかしくなって背中から裂けるように化け物が出た。
というのだ。
「ちょっと待て。 そんな事例聞いたことがないぞ」
「だから、信じてもらえないかもって言ったんじゃないですか」
彼女はやっぱりという表情で俺を見た。
「ちょっと、考えさせてくれ」
頭を落ち着かせ、考えた。 でも、やっぱり、理解できなかった。
その時、彼女があることに気づき、とまどいながら質問する。
「ちょっと待ってください。 その荷物。 もしかして・・・」
「そうだ。 これからここを出る」
すると、彼女は想像もしなかったことを口走る。
「もし、良かったら私も連れて行ってくれませんか」
「無理だ。 君には出来ない」
俺は飽き飽きしながら冷静に言った。
「もう怖くて、仕方ないんです」
「だったら何故、着いて行きたいという? 俺はその化け物を狩る、言わばハンター、命の保証はないぞ」
「だから、この事を知ったから、自分から逃げたくない。 もっと、強くなりたい」
彼女の目は本物だった。 その目にやられた俺はとりあえず、外で待ってもらうことにした。
「君、名前は?」
「私は立花奈央です」
「そうか」
「あの・・・」
「何してる。 自分を強くしたいんだろ。 早く来い」
「あっはい!」
ここから、優一と奈央の辛く厳しい旅が始める。
「配置に着け!」
「はい」
化け物の後を追うのも何回目だろうか。
化け物の正体を掴むため、俺と奈央は持ち場の安全を確保しつつ、後を着けていた。
そう、あの時の彼女の言葉を信じて。
実際、俺は半信半疑だった。
これまで、戦っていた化け物が人間だなんて。 これまで、殺してきたのは人間だったなんて。
それが本当なら俺は只の人殺しだ。 そんな事・・・
「優一さん、優一さん!!」
「あっごめん」
「どうしたんですか? 何か顔色が悪いですけど」
「いや、大丈夫だ。 ちょっと、考え事をしてただけだ」
「あんまり、無理しないで下さいよ。 私が居るんですから」
「ああ」
「あっ動き出しましたよ」
三十九分前まで沈黙していた目の前のワニ型(蛙の容姿や鳥の容姿と見られる体型。 ただし、ベースはワニ型である。 詳しくは背中にワニの鱗で形成された羽、顔は蛙のような大きな口のような容姿である)はその先の洞窟に向かって歩きだしていた。
「よし、注意して追いかけるぞ。 絶対、物音をたてるな」
「はい」
地面の石や草に注意し音を出ないよう歩く。 草を踏む僅かな音にも注意しながら。
そのワニ型の化け物が歩き始めた洞窟は一本道ではあるが、カーブが非常に多い構造であるため、尾行には最適だった。
洞窟から三百メートル付近まで来た時、どこの国の言葉でもない聞いたことのない語源が飛び交っていた。
「グーグアイ タラタイトゥー」
「インヤ ハート リッタ」
「ミスヤ ハートクエタラン」
「どういうことですか? 化け物が集まって家族会議ですか?」
「いや、違うだろ」
「で、ですよねー」
そう、目の前には家族会議と間違えるほどの光景だった。
化け物が椅子を囲み、三匹は居るだろう。 それぞれの生物の特徴を持った化け物が席を並べていた。
それも、作戦を立てるような形で話し込んでいた。
まるで、人間のように・・・