終戦と別れ
日本のある研究所。 強化人間を製造、垂れ流ししている通称BTR研究所のスタッフルームに天田の姿が会った。
無数のパソコンがあるそのフロアには重要な強化人間に関しての情報が入っている。
机は丸型になっており、その机の上にパソコンが並んでいる。
「やっぱり、パスワード厳重・・・」
天田はUSBカードを徐に取り出し、目の前にあるパソコンのボードに差し込んだ。
「私です。 天田です。 パスワードの解析に時間が掛かりそうですが、問題はないかと」
「そうか。 良くここまでやった。 情報を手に入れたらすぐにでも理由を付けて退職しろ」
「はい。 そのつもりです」
謎の男との会話。 その会話が意味することはまだ誰も知らない。
二日後の朝、優一は一人で外に出ていた。 強化人間が本当に消えたのか、確かめる必要があったからだ。
それに加え、自分の頭を冷やす作業も欠かせない。
ショックを通り過ぎて、考えるのを止めてしまうかのような地獄の真実。
でも、奈央の顔が時より、飛び出してくる。 その幸せを噛み締める日々。
二日も経つと、地面の溶けた跡もなくなっていた。
そういえば、グライドの修理の時、ここを良く使ってたっけ。
コンビニとビルの間の脇道での出来事を思い出す。
「あれから、先輩から連絡なし。 忙しいのかな・・・ 確か、新人さんが来るとか言ってたっけ」
昨日の先輩との通信を思い出していた。 新人とは勿論、天田の事だ。
「先輩は戻ってきてって言ってたけど、その時は奈央はどうなるのだろうか」
奈央とは離れ離れになるのか。 それもいいかもな。 仕事に集中できないし・・・
でも、寂しい。 それを考えただけで胸が苦しくなる。
「でも、いずれは・・・」
「すいません、今日付けでやめさせてもらいます」
「そうか。 なら、さっさと帰れ・・・ とでも、言うと思ったか?」
「え・・・」
隊長と呼ばれる男は全てを悟ってるかのような表情を見せた。
隊長の呼びかけで、天田は拘束された。
ばれていたのだ。
「上手く情報を抜き出そうとしたみたいだが、詰めが甘いな」
天田の罪はすぐに明るみにされ、岸谷の耳にも伝わった。
「岸谷さん、聞きました?」
「ああ、森村か。 天田の事か。 私達からすれば、逆に上手く行ってほしかったんだけどね」
「はっきり言うと、そうですよね。 ここではそんな事、言えませんが。 それにしても、岸谷さんはこのカフェをいつも、使ってるんですか?」
「いつもって訳じゃないよ。 たまにここ使うんだ。 落ち着きたいときとかね」
「天田さんはどこにいったんですか?」
すぐにでも、聞きたかったのか森村はそこで、初めて目の前の席に着いた。
「どこかの閉鎖空間に監禁されてるって聞いたよ」
「そうなんですか。 やっぱり、岸谷さんの耳には届くんですね」
「まぁね・・・」
「はっきり言うと、流石ですね」
「はっきり言われると、馬鹿にされてるみたいなんだが」
「ああ、申し訳ありません・・・」
そう言うと、森村は椅子に座りながら、頭を下げた。
「それでは、これで失礼します・・・」
「ああ、お疲れさん」
森村が帰るのをしっかり見て、岸谷はコーヒーを飲み始めた。
飲み終えた岸谷は危険と知っていても、その問題にぶつかろうとしていた。
「天田を助ける・・・」
鞄に入っていた監禁所の場所を改めて確かめ、エレベーターに向かった。
ここが監禁所の入り口か。
岸谷くらいのレベルになると、カードキーを渡される。 そのカードキーでしか監禁所には入れない。
-ピッ
持っていたカードキーを使った。 自動ドアがゆっくり開いた。
「あっ岸谷さん・・・ がっかりしたでしょう。 私、本当はスパイだったんです」
壁にもたれかかっている天田は無表情だった。 こうなる事も予想は付いていたのかもしれない。
「貴方しかいないわ。 ねぇ、私達も弱みを握られてやっているの。 私達を解放してくれないかしら?」
「解放?」
「自分なりのやり方でいいわ。 また、危険な目に合うけど、大丈夫?」
「私を逃がしてくれるって事ですか?」
天田の目が光を取り戻したのが分かった。
「そうね・・・」
「岸谷さんも危険なんじゃ?」
「私は大丈夫。 だから、もう行って」
「分かりました。 何とかしてみます」
そう言うと、天田は開いたドアから勢いよく飛び出した。
これからどうなるかは岸谷は想像も着かなかった。
三十分後の隊長死亡報告を知るまで岸谷は自分がやった事の重大さに気付くことはない。
「隊長・・・」
隊長が血を流し、首は部屋の端の方に転がっていた。
凶器はナイフのようなものだそうだ。
あまりにも、突然の事に皆驚いていたが、隊長が居なくなって皆の顔が明るくなったきがした。
隊長の死から二か月後、日本からの情報の漏れはなかった。
天田が気を使ってくれたのだろう。
そして、次期隊長は岸谷が任命された。
「私が隊長か・・・ まず、アシロに投下された強化人間の除去だな」
岸谷の命令により、アシロの強化人間は無事、撤去された。
これにより、アシロと少し、友好関係を築き上げるきかっけにもなっていった。
強化人間の研究も科学技術の発達に当てられ、人々の笑顔が広まった。
「もしもし、優一君、聞こえる? もう戻ってきてもいいわよ。 戻ってきなさい。 これは隊長の命令です」
「隊長? どういうこと? 岸谷さんが?」
「色々あってね」
「そうなのか。 まぁ予想は着くけどね。 でも、帰るのはまだ掛かるかも」
「そう・・・ でも、絶対、帰ってきてよ」
「はい、分かってます」
優一は岸谷との通信を切り、ある場所に行っていた。
その場所とは転送所。 現代に変えるための丸い装置。
この丸い装置の中に入り、装置と肉体ごと現代に戻る。
「奈央、ごめん。 勝手に帰る事になって。 手紙、読んでくれよ」
優一が丸い装置に手を掛け、地場、年代、経度、緯度、その他もろもろの設定をやっていた。
その時、「待ってください~~~い。 優一さ~ん」
遠くから声が聞こえた。 振り向かずとも分かる。 その声。
ずっと、聞いていた声。 聞き慣れた声。
「はぁはぁ。 優一さん、ひどいじゃないですか。 何も言わずに手紙だけ残して、行っちゃうなんて」
気付くと、奈央はすぐ後ろまで来ていた。 優一はすぐ後ろを向いて答えた。
「奈央・・・ ばれちゃったか」
「そりゃ、ばれますよ。 あの、どうしても行かなくちゃならないんですか?」
「俺もあの世界に家族が居る。 だから、行かないと駄目なんだ」
「私も行きます」
「駄目だ。 この時代の物を届けられない。 しかも、これは一人用だ」
「そんな・・・ だって、あんなに楽しかった。 化け物は怖かったけど、優一さんは凄く優しくて、凄くかっこよくて、凄く大好きで、凄く凄く・・・ うわあああ」
奈央は号泣してしまった。
「おい、泣くな。 仕方ないんだ。 俺が奈央とこんなに親しくなったから悪いんだ」
「う・・・ううう・・・」
いつまで、立っても泣き止まない奈央の頭を少し、撫でて話す。
「俺、奈央のおかげでここまでやってこれた所もある。 俺が教えたのもそんな事だったか?」
「え?」
「俺は奈央の精神力も鍛えたつもりだけどな。 こういう時に一人で生きていける人間になる教えはしたはずだ」
「でも、これはあまりにも辛すぎる・・・」
「奈央・・・」
優一は鞄を徐に探った。 その中から出たのは、虹色に輝く水晶とネックレス。
「これ、奈央にいつか渡すつもりだったんだ。 この水晶、綺麗だろ? この水晶、アンネラ山って所で取れる天然水晶なんだ。 これを俺の代わりに持っててくれないか?」
「優一さん・・・」
優一は奈央を抱き寄せ、言った。
「ありがとう。 奈央。 楽しかったよ。 これが自立だ。 お前はいい奴、見つけろよ。 この辺りも人がだんだん、増えてくるはずだから。 じゃあな。 奈央」
優一はそう言うと、そそくさと装置に乗り、現代へ帰った。
そして、奈央がぼそりと呟いた。
「ありがとうございます。 愛してます。 私の王子様」
趣味で、書いていた作品ですが、最初はここまで、話が広がるとは思ってませんでした。
もう少し、書きたかったですが、ここらへんでいいかなと思って止めときました。
短い間でしたが、お疲れ様でした。
この作品はここで終わりです。




