真実は危険
僕と奈央は器用に音を立てず、尚且つ、素早く化け物から逃げるように移動を続けていた。
不意を付けると、推理した化け物は移動しながら、銃で仕留める。
後ろから銃を打ち込む事で確定した事があった。 不意の攻撃には弱い。
それだけ、分かっただけでも大きな収穫と言えよう。
「上手い事、ルーキーはやっているようだな」
本名、川神誠は隊長専用会議室で優一たちの行動を監視していた。
「このくらいの戦闘力があれば、他国との交渉も上手く進むだろう」
川神こと隊長は皮肉な笑みを浮かべ他国との交渉の段取りを考えていた。
隊長専用会議室、と呼ばれるこの部屋は主に隊長しか使用はしない。
その部屋は会議室と言われているが、広さは国の四分の一はあるであろう、会議室で過去に何百とあるカメラから映し出される、映像を見るには最適ともいえる会議室である。
その何百とある映像を一秒も見逃さず、脳に保管する能力も隊長と呼ばれるこの男しか出来ない人間離れした神業である。
何も全て映像を見る部屋という訳ではない。 隊長は長時間その部屋にいるため、時には三日はその部屋に籠るため、健康面に気を使った部屋でもある。
隊長が「水!」と言えばすぐさま、水が用意される。 「食事!」と言えば、すぐさま、食事が運ばれる。
食事が出てくる時間はわずか、約一分の間。
長時間、物事に集中するのにとても適した部屋と言える。
-トントン
会議室の扉をノックする音が聞こえた。
「なんだ」
隊長がそう言うと、ゆっくりとドアが開いた。
「なんだ。 岸谷君か」
岸谷の顔は沈んでいるように見えた。
「何があった?」
岸谷は相変わらず沈んだ顔で話し出した。
「アシロが我々に向けて、攻撃表明を・・・」
アシロ、敵対してる組織である。 それと同時に国である。
アシロは、二千五十年に設立した。 元々、二つの国だったが、それとが合併してアシロという国がうまれた。
それからというもの、アシロは物凄い勢いで経済が発展していた。
日本に追いつくかの如く。
元々、日本はアシロという国を相手にしていなかった。
それを良く思わないアシロは色々と日本に迷惑まがいな事を言うのである。 いや、するのである。
でも、今回は迷惑以上の物だ。 少しでも間違えれば、戦争になりかねない。
でも、日本もアシロに対して、核以上の力を発揮する化け物を使って、脅そうとしていたのも事実である。
「アシロがねぇ。 そりゃ、大変だな」
隊長はどこか、落ち着いているように見えた。
当然は当然かもしれない。 あの化け物が居れば。
「どうしましょう」
岸谷は恐る恐る聞いてみた。
隊長は少し足を踏み出し、額に手をやり言った。。
「う~ん。 一人送り込むか」
「一人?」
岸谷は訳が分からず、慌てて質問した。
「ああ。 アシロ国上空で重機を待機させ、注射した人間をアシロ上空で落とす。 それでいい」
「化け物をアシロに向かわせるという事ですか?」
「あの国は本気だ。 今度こそ、本当に攻めてくるぞ。 それまでに手を打つんだ。」
岸谷は従うしかなかった。
「かしこまりました」
岸谷がそういうと、隊長は手をこちらに向け立ち去れと言わんばかりに手を動かした。
走っていると、大きな建物が見えてきた。
三階建てで、周囲を色とりどりの花で覆いつくされていた。
次にその部屋の外壁が目に留まった。
模様というのかイラストというのか、不気味な模様がその部屋の外壁に無数に貼られていた。
「何か、不気味ですね」
奈央が言った。
「ここに隠れよう」
奈央の言葉を無視し、俺はそう提案した。
奈央は嫌がる素振りを見せたが、しかたないと思ったのか、渋々了承した。
中は想像していたより、広い。
玄関と一階のフロアの境界線が分からないほど、広い。
後からみると、どうやら一階のフロアはそこだけではない。
他に扉が三つほどあった。
僕はそれらの扉を無視して、奥にあった階段で三階に上がった。
上に上がった理由は上の方が安全だという勝手な考えだった。
「いやあ、でもこんな所に一回は住みたいですねぇ」
「ああ、確かに」
すると、奈央は不思議そうな表情をした。
「未来ではこんな建物ばかりじゃないですか?」
「そうでもないさ。 いくら時間が経とうが、広さは変わらない。 それに俺みたいな国から雇われた物はそこまで、良い生活は出来ない。 実際、今も相当なピンチだ」
奈央は俺の話を聞くと、少し顔を俯かせた。
気を遣わせてしまったようだ。
とはいえ、建物に隠れたことは意外と効果があった。
化け物は建物に近づこうとしないのだった。
安全が確保されたことを確認した優一は外の風景に向けてカメラを設置した。
その外の風景は腕時計に同時にホログラムとして、映される。
「よし、これで一先ずは大丈夫だろう」
外の風景が映っている事に奈央は首を傾げた。
「凄いですね。 離れてるのに外の風景が見れるなんて。 しかも、立体的に」
「もう一台、カメラを外に向けて置いてあるんだ。 そのカメラの映像を腕時計でも見えるように設定してるんだ。 まぁ難しすぎるかな」
奈央は難しすぎたのか、顔を顰めた。
少し考える様な表情をしてから奈央はそれより、食べましょうと言った。
「ああ そうだな。 食べるか」
奈央はキッチンで作業を始めた。
「奈央は料理できるのか?」
「出来ますよおお。 そりゃもうとびっきりおいしんですから。 驚きすぎて失神しないでくださいね」
「おお それは楽しみだ」
何故かその会話の後、悲しい気持ちになった。
未来に戻る事を思うと、何故か悲しかった。
それ以上は考えないように食べる事に集中した。
十分くらい経つとキッチンから良い香りがした。
ご飯と肉の香がいいアクセントになり、食欲を掻き立てる。
すると、すぐに白いお皿の上に乗ったご飯とステーキが出てきた。
「見た目は完璧だな」
「味も完璧なんですも~ん」
奈央はいじけたように言った。
「ていうか、良く材料あったな」
「冷蔵庫にいっぱいあったんですよ。 豪邸ですから、いっぱいありましたよ」
「そういうことか」
そう言いながら食べると口に衝撃が走った。
食べるごとに口に香りが広がる。
疲労が回復していくような、凄い料理だった。
「これは・・・おいしい・・・」
「本当ですか?」
「最高だ」
そう言うと、奈央は泣き出した。
「どうした?」
「いっ、いや、嬉しいんです。 おいしいって言ってもらえて」
「そんなんで泣いてると、これから何回泣くことになるか分からんぞ」
冗談まじりで言ってみた。
「そうですね」
奈央は笑顔で答えた。
俺はこの笑顔で救われたんだ。 今まで生きていける。
絶対に何があっても守る。
「ところで、優一さん、これからどうします?」
「まだ、様子を見よう。 前は勝手に蒸発して消えたそうだから、もうちょっと待ってみよう」
「そうですね」
「先に寝とけ。 今日は疲れただろ?」
「大丈夫なんですか?」
「ああ 大丈夫だ。 化け物が来そうならすぐ起こすさ」
「いや、私が聞いたのは優一さんの体調です」
「ああ 俺か? 俺は大丈夫さ」
そう言うと、奈央は安心したように寝室に向かった。
優一は安心していた。 身を隠す場所が絶対的だったのだ。
だが、未来ではとんでもない事が起ころうとしていた。




