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第3話 廻りだす。

「・・・大丈夫。私は貴方を殺さないし、生きている奴に興味もない」


今日の朝、路地裏で遭遇した少女の言葉が頭の中で反芻していた

そして、何よりも


「あれは何だったんだろう・・・?」


確かに少女は男を殺した、オレの目にはそれがしっかりと焼きついている

男がナイフのような刃物で刺され、うめき声を上げたのも聞こえたし息絶えて倒れていく瞬間も見逃してはいない

しかし、『犯人』が路地裏から姿を消した後にはあるはずの男の死体が見当たらなかった

血溜まりどころか、血飛沫のとんだ跡さえも見当たらなかった

それでは、オレはあの時寝ぼけて夢でも見たのだろうか?


「旭!来るぞ!!」


その時オレは現実に引き戻され、


「うわっ!!」


わがクラスの運動神経抜群のエースが放ったボールと顔面衝突した

もちろん威力絶大なそれに当たった__体育、5段階評価中3のオレは地面に倒れ空を仰ぐ形となった。そして、意識が遠のく中でも



「・・・大丈夫。私は貴方を殺さないし、生きている奴に興味もない」



あの少女の言葉と、一瞬だけ見せた感情のこもった目が頭を離れなかった







「大丈夫かい?」


目を開けると、白い天井と空調の効いた涼しい環境だった

そして、この空間に似合わない明るい声


「・・・ここは?」

「保健室だよ、アッキー君」

「だからそのまぬけなあだ名やめてくれませんか?北見きたみ先生」

「あはは。ごめん、ごめん」


北見 空太そらた。うちの中学の保健医・・・兼オレの住所のお隣に6人家族で住んでいる人でもある


「頭を軽く打ったのと貧血だね、朝ごはんちゃんと食べた?」


だめだよ、朝ごはんはね・・・など保健の教師らしく栄養がどうとか語りだした先生を無視して、オレは再びベッドの上に寝転がり天井を見上げる

その時に浮かぶのは、やはり今日の朝であったあの少女で・・・


「ともかく!朝ごはんは家族と一緒に楽しく食べる!これが一番大事だよ・・・って聞いてた?アッキー君」

「・・・・・」

「おーい、あ、き、ら、くーん」


一体、彼女は何者なのだろうか?

目を閉じてあの時の目に映ったものを思い出してみる

あの少女__オレよりも年上くらいで少女と今まで呼んでいたが、どちらかというと大人びていて女性というイメージだった。おそらく17、8歳ぐらいだろう

藍色がかった黒髪に、この辺りでは見かけない赤いネクタイの黒いセーラー服__長袖の冬服だった

そして、光も射さない紺色の瞳

彼女のこの時期には合わない服装よりも綺麗な顔立ちよりもあの目が最も印象に残っていた

さらに、どこか冷たい瞳に一瞬映った『動揺』__明らかにオレの顔を見て動揺していた

一体何に動揺したのだろうか。



「旭君!!アッキー君!」


耳元で聞こえた大声で現実に戻された

それと、


「うわぁっ!!」


先生の顔のドアップに。


「な、何してんですか!北見さん!」

「おお、驚いてる、驚いてる。でも、『北見さん』は駄目だろ。僕はここじゃ『先生』なんだから!」


北見さん・・・基、北見先生は人のリアクションがそんなに面白いのか始終笑っていた

先生は自分の事務椅子に座り、オレの体調を紙に書いていく


「それだけ元気なら、クラスに戻る?・・・あと10分で今日の授業おわるけど」

「え、オレどんだけ、寝てたんですか?」

「倒れたのが3時間目の終わりごろぐらいだから・・・3時間ぐらい?」

「・・・・・」

「昨日、何時くらいに寝た?返答によってはここでお説教タイムだけど」

「10時半過ぎです」

「いたってフツーの就寝時間だね・・・ホントは何か隠してたりする?」

「・・・別にないですよ」


言えるはずがない。自分より少し年上の少女が人を殺す瞬間を見て、しかも気がついたらその死体が消えてなくなっていたなんて・・・言ったら言ったで、病院送りにされるのは間違いない


「・・・言えないならいいよ。言いにくいこともあるだろうし」


先生は違う意味で解釈をしたらしい

これ以上は何も聞いてこなかった


「疲れがひどいみたいだし今日は早めに帰ったほうが良いよ」

「・・・・・」


オレは返事も頷きもしなかった

思うことはただひとつ、


(帰りたくない)


先生もそれを察したのか、


「気まずいのなら下校時刻までここ開けとくから、自由に使っていいよ」


気遣いの言葉をかけてくれた


今日はただでさえ色々と起こったので、やすらぎのひとつもないあの『空間』いたくなかった。だから、先生の言葉に甘えて下校時刻までいさせてもらうことにした


そして、不気味なくらいに晴れ渡るオレンジの空はゆっくりと薄暗くなっていく



「・・・少しいすぎたかな」


時計を確認すると、すでに短針は8時少し前をさしていた

もちろん太陽は空になく、かわりに薄く雲のかかった月と無機質な街灯の光が道を照らしている


「・・・・・」


自分以外の人のいない道にいるとどうにも嫌なことを思い出す

ふと、小学生のころ図書室で読んだ怪談話を思い出し、歩幅は自然と大きくなる

薄暗い道に聞こえないはずのオレの足音が聞こえる・・・そんな状態を30分耐え続けた

そして、角を曲がれば家が見えてくる道まで辿り着いたとき、



月の光を和らげていた薄い雲が晴れ、



オレの行く先にたたずむ



「・・・・・」



人の姿を出現させた


今回出てきた北見先生は男性です

暉君の通う学校には保健の先生が男女一人ずついらっしゃいます(という言い訳)

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