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36.ひみつのしずく
「はぁ、」
ため息の様な、感嘆の様な。呼気と声の間である。
顎を心持上向きにして、ぱたんと目蓋を閉じている。その、下へ撓む弧の一等深い丸みから、ほろほろ雫が零れていった。転がるように頬を走り、緩く開いた口唇に立ち寄ることも頤で一瞬の休息をとることもせず、透明なまま落下した。
きゅうっ、
一度だけ強く瞑ると、目蓋が開いた。ぽかんと音がしそうな潔さだ。
「利人?」
均等な厚さの水幕を一枚増やした目玉で、三津は彼を呼んだ。
--こいつは、
頭の痛む思いで、利人は顔を顰めた。
「……三津、」
「なに、」
--莫迦らしい、
心底。自分が。
「目薬は隠れてつけろ。」
「……はあ?」
--俺は莫迦だ……。
げんなりとして、それでも。
「隠しとけよ、」
良いな?
「……うん?」
--さて、
諸悪の根源は何か。
さて。




