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3.毀れた弓
毀れた弓の形の月だった。
びょう、と吹いて去る風は六月の高い湿度で、あんまりの心地悪さに彼は眉を寄せた。夜の騒音に痛む耳が、不機嫌に拍車をかけていた。時折鋭敏に成り過ぎる五感は、彼を都心部に立たせておくことを難しい身体にした。外の喧騒にも内の鋭敏にも、全てにうんざりさせられる。
--どうするかな。
どうも無い。行き先は決まっている。ここ最近で一等の壊れ方をしているのは、何も弓形の月ばかりでなはいのだ。
「あー、」
ばらばらに砕くほど、力一杯抱き込みたい。
--三津、居なかったらどうするかな。
とりあえず、玄関は壊れる。
他の生き物では埋まる枯渇ではないから、きっと不法に侵入して彼女を待って、待って、
「むいむいしてえ、」
あの胸を抱き潰すのだ。
短い……。