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Lace Edge  作者: 一夏
27/36

27.光彩

 真っ黒髪の女がシャボンを集めていた。虫取り網で。不思議なことにそれくらいでは割れようで、行過ぎる彼は、


--最近のは強いのか、


 なんてことをぼんやりと思っていた。ともあれ、女の集めるシャボンはビー玉の様に網に収まっている。酷く満足げなその顔には見覚えが無いので、彼は唯黙々と歩いていた。三津に会うために、である。


--風向きそっちのけ、か?


 そっちのけ、である。彼が目的地と定めた方向から、風の向きも強さも一向に気にせずに、シャボン玉は漂ってくる。その沢山の軽い球体とすれ違いながらも、彼は未だ、


--不思議なこともあるもんだ。


 とか考えていた。僅かな引っかかりを人は嫌な予感と呼ぶ。


 ひゅう、


 ふわ、


 わわ、


 彼にまとわりつく仕草を見せる。勘違いでもそう思えるくらい傍寄ってくる。丸められた液体の一つを彼の手は、指は、


 ぱちん、


 割ってしまった。


『利人、』


 振り返る。正面に目を凝らす。左にも右にも、上にも下にも。八方に意識を凝らすがどこにも居ない。代わりに漂うのは、ふよよっとしたシャボン玉だけだ。


 ぽちん、


『今日は来ないかな、』


--行くよ。


 ぱち、


『会いたいのに。』


--三津、


 ぱちん、


『アイス食べたい。』


--買ってく。


 ぱ、ち、


『チーズのやつね。』


--分かってる。


 ぱちっ、


『利人、』


--三津?


 ぱちっ、


『早く来て、』


 彼は駆け出した。

 アイスを片手にすることは忘れずに。

 けれどシャボン玉を掻き集めようなんて、思いつきもしなかった。



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