24.プラスチック爆弾
「えいっ、」
2m先から。
「おい、」
「何で避けるの、」
怪訝な顔をした三津に、利人は心底から溜め息をついた。
--本気だ、
本気で三津は投げつけてきたのだ。お茶入りペットボトルを。
「当たってよ。」
「何で。」
「当たらないと意味ないでしょ、」
プラスチック爆弾。
「は?」
落下した500mlを見やると、キャップが外れている。見事に全開の口からとうとうと流れる、元清涼飲料水。
「中身、昨日のなの。」
職場に置いてっちゃった。
「いや、そうじゃないだろ、」
「何が。」
「これを、」
指差したのはアスファルトではなく、外れたキャップでもなく、彼女が言うところのプラスチック爆弾一式である。
「何で投げられなきゃ、いけないんだ。」
左の眉がきゅうっと上がる。反して右目の目蓋は少しばかり閉じられる。器用に筋肉を使って、三津は彼を小莫迦にした。
「おい、」
「un air de comedie」
「いや、」
「MICHEL KLEINなの?今度は。」
「あの、」
「二週間くらい触んないで。あたしに。」
キャミソールのレースから鎖骨を浮かせて、三津は斜に首を捻った。襟足から耳朶までを利人に見せ付ける。そうして2mに2歩分足して離れてしまう。
「三津、」
「仏は三度許すんだけど、あたしは真砂三津だから。」
だから。
「気分によるの。」
ふん、と鼻を鳴らす。
「とりあえず、二週間。」
さようなら。
振り返らずに止まらずに、規則正しく早足で、あっという間に角を曲がってしまった。
例えばこれで、彼がまたしても誰かに触れたとしよう。よしんば上手くいったとしても、きっと駄目だろう。三津はきっと否と言う。
「二週間、か、」
--長いな、
固体として比べるには彼女の存在は異色過ぎるのだ。
「触らなきゃ良いのか、」
取り急ぎ、何とかしなければならない。それは本能からの賛成を得ている。それはもう瞬時に。
--だってなぁ、
つんと怒った彼女が、己の与り知らない所で誰かに宥められたりしたらば、それこそ目も当てられない。
--権利があるだろ。
例のひとつとして。
「口説くのは自由。」
揚げ足取りは割合得意である。
く、と笑うと利人はあの背を追った。




