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Lace Edge  作者: 一夏
24/36

24.プラスチック爆弾

「えいっ、」


 2m先から。


「おい、」


「何で避けるの、」


 怪訝な顔をした三津に、利人は心底から溜め息をついた。


--本気だ、


 本気で三津は投げつけてきたのだ。お茶入りペットボトルを。


「当たってよ。」


「何で。」


「当たらないと意味ないでしょ、」


プラスチック爆弾。


「は?」


 落下した500mlを見やると、キャップが外れている。見事に全開の口からとうとうと流れる、元清涼飲料水。


「中身、昨日のなの。」


職場に置いてっちゃった。


「いや、そうじゃないだろ、」


「何が。」


「これを、」


 指差したのはアスファルトではなく、外れたキャップでもなく、彼女が言うところのプラスチック爆弾一式である。


「何で投げられなきゃ、いけないんだ。」


 左の眉がきゅうっと上がる。反して右目の目蓋は少しばかり閉じられる。器用に筋肉を使って、三津は彼を小莫迦にした。


「おい、」


「un air de comedie」


「いや、」


「MICHEL KLEINなの?今度は。」


「あの、」


「二週間くらい触んないで。あたしに。」


 キャミソールのレースから鎖骨を浮かせて、三津は斜に首を捻った。襟足から耳朶までを利人に見せ付ける。そうして2mに2歩分足して離れてしまう。


「三津、」


「仏は三度許すんだけど、あたしは真砂三津だから。」


だから。


「気分によるの。」


 ふん、と鼻を鳴らす。


「とりあえず、二週間。」


さようなら。


 振り返らずに止まらずに、規則正しく早足で、あっという間に角を曲がってしまった。

 例えばこれで、彼がまたしても誰かに触れたとしよう。よしんば上手くいったとしても、きっと駄目だろう。三津はきっと否と言う。


「二週間、か、」


--長いな、


 固体として比べるには彼女の存在は異色過ぎるのだ。


「触らなきゃ良いのか、」


 取り急ぎ、何とかしなければならない。それは本能からの賛成を得ている。それはもう瞬時に。


--だってなぁ、


 つんと怒った彼女が、己の与り知らない所で誰かに宥められたりしたらば、それこそ目も当てられない。


--権利があるだろ。


 例のひとつとして。


「口説くのは自由。」


 揚げ足取りは割合得意である。

 く、と笑うと利人はあの背を追った。



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