21.光りあれ
さあさあ流れる川には、魚影はない。水位が低い所為だろうかと、利人は思った。小石の大きさが見て取れるほどの、ごく浅い川だった。生活廃水が流れ込んでいる割りに、水草もある透明に近い水だ。
橋が架かっている。川幅に見合った、大きくは無い箸だ。薄っすらと浮くような弧の、丁度真ん中に子供が二人立っていた。大層真剣な表情で、水面を見ている。よく日に焼けた十にも満たない二人組みだ。
「鯉かな、」
「そうだよ、きっと。」
「すごいね、」
「すごいね、」
「死んでるよ。」
こそりとした話し方だというのに、彼の耳は確り捕らえた。真横で、三津の薄ぅいの肩がびくりと引きつった。どうでもいい子供、は、言葉の罪でもって、どこかへ行くべき子供、に名を変えた。深呼吸の一つもしなければ、彼女の肩は背中諸共強張って砕けるのではと危ぶまれる程、骨が浮いている。
「三津、」
呼ばわると彼女は上向いて、何ということも無さそうな顔を彼に見せた。
--また、
上手に仕舞いこむものだと、いつも思う。ささっと包んで、利人には欠片も寄越そうとしない。
「何?」
「なんでも。」
「そう?」
あっさり引き下がったのは、二人ともである。唯、彼女は極々さり気無く振り返り、子供を見やった。二つの子供影は相も変わらず、魚が見せ付ける白い鱗と赤い中身に目を凝らしている。
引っ繰り返った屍の魚は、口をぽかんと開き、目をぱかんと開き、その両方を利人に向けていた。
--妥当だな。
息を吹き返す見込みのないものを見守るのは子供。子供を眺めるのは大事なもの。大事なものを凝視するのはどうしようもないもの。それに食い入るのは屍。
順繰りの光景だった。
利人は「Licht」。「光」です。




