18.スカイハイ
ぽん、
勢いの良い音とともに、コルクは抜けた。欠片の屑も落とさず、とてもきれいに抜けたけれども、腕と胸の間を酷く濡らした気がして、三津は視線を落とした。
「……冷たいからか。」
ボトルの凍えが彼女の衣類を冷やしている。濡れれば冷たいという観念が、彼女を不安にしたのだ。
「どうした、」
「なんでもない。」
伸べられた分厚い手の平に、彼女はボトルを押し付けた。利人は三津に注がせない。ワインに限らず、あらゆる飲み物を注がせない。彼と会うとき、三津の飲み物は尽きず、いかなる種類のグラスやカップも底を見せなかった。
「昨日電話した。」
「昨日?」
「昼間。」
「珍しい。」
「3時ごろ。」
大柄な男が上目で三津を見る。鋭い切れ込みの様だというのに、子供じみた仕草とよくあっていて、彼女は感心してしまった。
世の中には三津よりも背の高い男の人が、それなりに存在する。上を向いて話す機会も、それなりにある。
頬に触れる指が日向の香ばしさに満ちていて、目蓋は閉じることを選ぼうとした。きよらかなひとの目玉は、白と黒の境がぴちっとしている。きれいなラインを認めたことで、彼女の目蓋は安心して落ち込んだのだ。
--したくちびる。
きよらかなひとの肉厚な下唇は、その時においては、いつも一番愛しくなる。
彼女の記憶はさらっと探した。似ている動作が合った気がして、少し過去を遡る。
「眼科。」
「コンタクト?」
「目、見てもらってた。」
「……ふうん。」
薄い色素。薄い目縁。薄い口唇。この男は時々、愛情すら薄いときがある。
「やきもち?」
ごつごつした手の甲に緊張で、ばりっと浮いた骨の形に三津は笑んだ。
「利人のそういうとこ、好き。」
波形を見せる彼の愛惜を、多分彼女はとても愛しく思っていた。