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Lace Edge  作者: 一夏
18/36

18.スカイハイ

 ぽん、


 勢いの良い音とともに、コルクは抜けた。欠片の屑も落とさず、とてもきれいに抜けたけれども、腕と胸の間を酷く濡らした気がして、三津は視線を落とした。


「……冷たいからか。」


 ボトルの凍えが彼女の衣類を冷やしている。濡れれば冷たいという観念が、彼女を不安にしたのだ。


「どうした、」


「なんでもない。」


 伸べられた分厚い手の平に、彼女はボトルを押し付けた。利人は三津に注がせない。ワインに限らず、あらゆる飲み物を注がせない。彼と会うとき、三津の飲み物は尽きず、いかなる種類のグラスやカップも底を見せなかった。


「昨日電話した。」


「昨日?」


「昼間。」


「珍しい。」


「3時ごろ。」


 大柄な男が上目で三津を見る。鋭い切れ込みの様だというのに、子供じみた仕草とよくあっていて、彼女は感心してしまった。

 世の中には三津よりも背の高い男の人が、それなりに存在する。上を向いて話す機会も、それなりにある。

 頬に触れる指が日向の香ばしさに満ちていて、目蓋は閉じることを選ぼうとした。きよらかなひとの目玉は、白と黒の境がぴちっとしている。きれいなラインを認めたことで、彼女の目蓋は安心して落ち込んだのだ。


--したくちびる。


 きよらかなひとの肉厚な下唇は、その時においては、いつも一番愛しくなる。

 彼女の記憶はさらっと探した。似ている動作が合った気がして、少し過去を遡る。


「眼科。」


「コンタクト?」


「目、見てもらってた。」


「……ふうん。」


 薄い色素。薄い目縁。薄い口唇。この男は時々、愛情すら薄いときがある。


「やきもち?」


 ごつごつした手の甲に緊張で、ばりっと浮いた骨の形に三津は笑んだ。


「利人のそういうとこ、好き。」


 波形を見せる彼の愛惜を、多分彼女はとても愛しく思っていた。



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