第二話 後編2 「白都防衛・イシニア平原の戦い」
厚い灰色。雨雲が空を覆い、昼だと言うのに周囲は薄暗く、どこか湿り気を肌に感じる。
あれから進軍を続ける事、三日。目的地はどうやらまだ…遠そうだ。
周囲を見回すと、リアドラやルガント達は疲れをまるで見せていない…勿論リシア達も。
いや、マリアはかなり疲れているのか顔色が余り…。
「マリアに欲情でもしたかの? ん? この猿が」
誰が猿だコラ!! 全く、あれからと言うもの、事あるごとに猿・猿と。
大きく溜息を付くと、コイツの言葉を思い出し考える。心と心を繋ぎ止めるには…。
相手を理解する事が必要不可欠…か。 俺はマリアの何を判っている?
正直な所、何も判っていないだろう。あの時の彼女の恨めしそうな・悲しそうな…。
一体何が…判らない。そんな俺を察したのか、ブレドが心の中に語りかけてくる。
それは、ルヴァンに対しての悩みである。という事だけを。
「後は、お主が考えよ」
いや、そんな余計にワケ判らなくなる事だけ言ってお前…。
また、大きく溜息を吐く俺に、彼女は畳み掛けるように一言。アリシャも忘れていないか、と。
うぐぁぁ。忘れていた、正直忘れていた。彼女の傷を癒して以来、近づくとその歩数分だけ
彼女は逃げてしまうのだ。何かに怯え、戸惑い…だが確かに怒っている様にも思える。
なんだよ、まるで悩む俺を酒の肴にするかのように楽しんで見て…なんて奴だ。
はぁ、そんなこんな出ない答えを求めながら広大な平原を歩き続け、夜が訪れる。
俺は、また一人。そう一人。孤独感に耐えつつベッドに横になり考えている。
あの続きだが…結局答えはまだ見つからず。
そんな俺の横に、またどこともなく現れ、あぐらをかいて座っているブレドが居た。
彼女の事、現時点でお主は何も判っていない、この戦の裏に潜む事すらも…と。
…。まだ何かあるのか、いや、こいつは何を知って、何が目的でそれを語らない。
俺を強くする為だろうか…彼女にそれを聞くと、当たりの様だ。
どんな事をしてでも俺の中のエオンを引き出す…と。
そこまで、俺の中のエオンとか言うのは強いのか。それを続けて尋ねると、
テントの天井を虚ろに眺めだした。
「強い? そんな次元で語れる物ではあらぬ。
あの日、いや、その昨晩。町の明かりよりも明るく光る魂達を眺めておった」
…。
ほぼオレンジで統一された弱々しい光の中でワシは見たのじゃ」
彼女は、両手を全く無い胸に当てて、天井を…いや夜空を見ているのだろうか。
何か身を震わせて嬉しそうに語り続けている。
「暗い世界を…いや、あの夜空を貫き、焼き尽くすかの様に…」
そう言うと、突然俺の方を向いて俺の胸に右手を当て…。
その小さく、頼りなく、何より恥ずかしがり屋の…おい!!!
黙って聞いてりゃ、言いたい放題だな。 少し怒ったが、俺も起き上がり
彼女の目を見て聞いておく事にした。
彼女は、話を変えてエオンの属性というものを持ち出してきたが…なんだ。
エオンは大きく二極に分かれている。それは、白から赤。
その間はグラデーションがかかる様に、その魂の質で色が分かれると。
そう言うと、俺の両肩を掴み顔を…近いっておい。
「紛う事無き、真なる赤。紅蓮…。名を原初の火。それを持つだけでも稀じゃ。
それこそ竜や魔…神ですら持ち得ぬ程にな」
げん…何か物凄そうなのが。俺に? 馬鹿な。
そんな驚く俺を見て気づいたのか、ブレドも頷いた。
だが、事実、今も見ていると彼女は言うが…信じられない。
「まぁ…信じられぬのも無理は無いのう。いや、そうでなければいかぬ…か」
そう言うと、再び俺の胸に右手を当ててきて、早々出てきては、世界がどうなるか
判らん…って、とんでもなさそうだ。
「じゃが…、そうも言ってはおれぬ。ふむ…その焔見せてやろう」
え、いや何か、意識が遠く…。
何か、何だ。体が浮いている様な…沈んでいる様な妙な感覚。
けど、何故だろうこのまま寝ていたいなんて思え…。
「ほれ、目を覚まさぬか」
いや、このまま寝た…いてぇ!? 蹴られたか…。 頭を掻きながら目を開けて
視線の先にある物を見る、紅く焼ける空…紅く焼ける雲。
それに映える裸のブレ…は!? なんで裸!? それ以前に蹴ってる角度的に具が!?
「見る所が違うわ! この猿が!!」
そのまま顔面に落ちてきたのは、彼女の足の裏。
いや、そんな片足だけで踏みつけたらおまっ! 少し開…ちょ!?
…否!! 断じて否ぁぁっ!!! 俺はロリコンじゃないぞ!!!
落ち着け。落ち着け…特に息子。こいつは俺の意思とは無関係に起きるからな。
「阿呆、下を良く見ぬか」
いや!! 見たくない!! そんなツルツルで色気の無いモン見たくも無い!!
そう言うと、今度はおもっきり殴られ、その下では無い!!!と。
ん? ああ、下か下…なんだこりゃ。
「どうじゃ? これがお主のエオン。原初の火じゃ」
地平の彼方まで続く炎の大地。時折、昇龍の様に天に登るとばかりに
火の塊を撒き散らしながら飛び上がり、弧を描いて炎の大地に落ちている。
…た、太陽? どう見ても太陽なんだが…。
「お主は、何者じゃ? 何故そのような小さく弱き体で原初の火を宿せる?」
知らんわ!!! 何がどうなのかさっぱり判らん。が、一つ。
太陽に匹敵するような馬鹿げた何かが俺にある…と。俄かに信じがたい。
そう言うと、彼女は俺にしがみつ…裸でしがみつくな!!! こら!!
「お主は何者じゃ?! お主の世界の大神か!?」
俺が神? いやいや、ただの凡骨高校生ですが。
然し、しがみ付いてくるブレドを余所目に改めて見ると…太陽だよなぁこれ。
そう思った瞬間、あたりが暗くなり…俺の胸に右手を当てたブレドが目の前に…。
元に戻ったのか。彼女も気づいたのか大きく溜息を付く。
「見たじゃろう。アレがお主の内にある焔。原初の火じゃ」
そして、彼女は話を戻した。それは、その原初の火を俺に見た彼女が、
取るも急いで俺を連れてきた…と。
「もっとも…。ここまでマダオだとは一生の不覚じゃったがの」
マダオ!? マダオ言われた!? 酷すぎる…。てか、つくづくこいつはぁぁっ!!!
俺の事を何も知らないで次から次へと押し付けやがって!!!
どこからかこみ上げた怒り。それを彼女にぶつけると…。
「本当に、阿呆め…」
何故、悲しそうな顔をする。…あれ、消えてしまった。
何なんだよ、全く。無理矢理連れてこられただけでなく、こうして孤独感に耐えてる
ってのに。…頭痛くなってきた。
「ルヴァン、いる?」
何だ? テントの入り口から声が…リシアか。何の用だろうか入っていいよと言うと、
また勢い良く飛び込んで…まさか。うわ~、また溜まってきたのか、目が野獣!
ま、まぁ気持ちよかったし、いいか。うん。これはこれで役得役得。
いきなり俺に被さってきた彼女の、厚手の皮の服からチラリと覗くグランドキャニオン。
ブレドと比較するべくもないが、ブレドはエアーズロック…の足元に広がる大地だ。
ちなみにエアーズロックは文字通りヘソだろう奴の。
そのまま、彼女を抱きかかえながら俺が上になり、上着からゆっくりと脱がしていく。
「少し…悩んでる?」
ん? 何か俺の目をジッと見て…ああ。 俺は手を止めて座り込み。
何故だろう、誰かに話したかったのか、この孤独感を彼女に伝えた。
「あ~…。ねぇ」
俺の胸元に抱きついてきて、その孤独感。それは本当? と。
いや、しまった彼女に対して失礼だったか? 謝ると、そうじゃないと。
「君、本当に一人? 私やマリア・オルガは抜きにして…」
どう言う事だよ。そういうと俺の背中を強く叩き、身近過ぎて気がつかないんだね、と。
身近過ぎて…。…。
「気がついた? 誰よりも君を理解して、誰よりも君を心配してくれる存在」
…。今までのソイツの行動が脳裏に過ぎった。傲慢で我侭で毒舌が表に出過ぎて気づかなかったが、
確かにソイツは、何かにつけて俺の傍に居て、遠慮の欠片も無く…。
情けない、俺は誰一人として理解していない。いや、しようと努力していない…か?
軽く頭を下げてリシアに礼を。
「お礼は…いいよ」
いいのか…と、珍しく半裸の美女を目の前にしてお辞儀している俺の息子。
コイツも反省しているのか? うん。そうしておこう。
「さ・て・と」
お。くるか、よしこい。と気分を変えて身構えると、彼女は静かにベッドを降りて
興醒めしてしまったから、出て行くねと…はだけた上着をととのえようとしたが、
何故だろう、据え膳か? いや、興醒めとかいったが彼女の顔はそうはいっていない。
なんとなく、そう思えた。彼女がただ気を使っただけだと。
上着を整える彼女の腕を掴み、そのままベッドに押し倒すと、どことなく寂しそうな顔。
「無理…しなくていいよ」
…してるのか、してないのか… どっちだろうか…。
そのまま何もいわず彼女の衣服を全て脱がし、唇を重ね、舌と体を絡め合わせた。
彼女は待っていたのだろうか求める様に俺に強く絡み付いてくる。
時折こぼれる甘い吐息と声ともいえない声。
「んふ…。この前は驚いたけど」
何が? ああブレドに弄られた息子か。俺も驚いたわそりゃ。
俺から少し離れ、衣服をズラして…舌を這わせてくる。この快感がなんとも…。
暫くその快感に身を委ねつつ、やはりこの…だめ。また彼女の頭を押さえて、その何、うん。
身をのけぞらせて、彼女の頭を押さえつけてまたもや…あーあ。
口を押さえて、またか。また息子と間接キスの刑か?
て、おい。 ちょ…飲んじゃったよ。アレ。
飲みきれなかったのか、口から少し垂れるその様がなんともエロい…。
まぁ、少し驚いたが、その後、俺は彼女を押し倒す様に抱き、また一晩中
彼女の悲鳴に近いソレがテントの中で…。やっぱつらいんじゃないのか?と思いつつも、
彼女の見事な肢体を堪能したのであった。
外が明るくなり、互いに裸のまま抱き合った状態で俺は考える。
どうやったら他人を理解出来るか…だ。
今回、リシアに想いを打ち明ける事でブレドの事、彼女の気遣いに気づいた。
一人で悩んでも判らない時は、誰かに、そして自分の事も同時に知ってもらう。
それが大事なのではないか…そう、思えた。
その後、起きたリシアは冷めた風呂で体を洗い、また俺の前で服を着て出て行ってしまったが…。
一つ、分かった事が出来た代わりに、心配事が出来てしまった。それは…。
「お主…遠慮の欠片もなく、あ奴の中に…鬼畜じゃのう…」
見ていたか出歯亀娘。その通り、…子供出来ちゃったらどうしよう。
余りに気持ちよくて歯止めがきかなくて…その何。うん、どうしよう。
姿でも消していたんだろうブレドが隣に座り、責める様にその事のみを尋ねてくる。
ううう…罪悪感が。いまさらながら罪悪感がぁぁぁぁっ!!!
「まぁ、それもリシアの企みじゃろうな」
え? 何…それ。 聞いてみると…成る程。女って…怖いです。
顔が真っ青になる俺を見てブレドはまぁ正室を誰とするかは俺次第、と言いながら
にやけた顔で俺ににじり寄ってきた。…ああ、西の…。
いや、それ以前に…も? もって事は他に何か…何だろう。
「ふぅ…ドヘタクソのままだと、マリアが可哀想じゃからじゃろ?」
ぶは!? そうきましたか。 そうきましたか!?
そう言うと、ブレドは俺の息子に顔を近づけ…なんだよ。
「まぁ、ヘタクソ以前にこんな凶悪なもので突き破られたら…考えるだけで腹が痛…むがっ!?」
有無を言わさず俺の息子へ近づくブレドの顔を押し付けた。勿論服なぞ着ていない。
何か必死で罵倒しているが問答無用! 顔を背けて逃げようとする彼女に無理矢理押し付け…
いったぁぁっ!? かっ…噛み付きやがった。 冗談だったのに。
「…。食い千切ってやろうか? のう? この戯けめを食い千切ってやろうかの?」
いや、やめて目がマジだ!! 俺の息子を睨みつつ小さい右手で握って…
口を開いていやぁぁぁっ!! ギラリと光る八重歯がこわいっ怖すぎる!! 慌てて謝ると彼女は、
息子から離れて両腕を組んでそっぽを向いて怒ってしまった。
うーん…。遠慮無く冗談かましたつもりが度が過ぎた様だ。
暫く、テントの中を静寂が支配したが、それを破る様にテントの入り口から
そろそろ出発の準備ですよ…と、最悪の展開へとばかりにマリアである。
慌ててるのか、入り口から覗き込んできたマリアが見たのは全裸の俺と、
その横に服は着ているが、ベッドに座っているブレド。
…。
「…」
これ、絶対勘違いされるよね? 幼女趣味とか思われるよね?どう考えても!!!
否!! 断じて…断じて否!!! 急いで誤解を…。
「本当にお主は…毎晩毎晩ワシの肉体を貪る様に求めてきおって。身が持たぬわ」
てめぇ!!!! やりやがった!! とどめさしやがった!!!!!
こいつ俺達に背を向けてるが、絶対に舌出して笑ってるぞ。
いやそれよりマリ…ア? あれ、黙り込んで…体が震えて…出ていっちゃった。
お前ブレド!! なんて事しやがる!! 冗談にも程が!!!
彼女の肩を掴むと、彼女は振り向いて…何だよ真顔で。
「リシアに気づかされたとは言え、まぁ…よかろう。
お主が人心掌握、見せて貰うぞ? 」
…。無理難題押し付けられた。 実際問題、マリアについては、ほぼ何も判らない。
あの表情の意味はおろか、彼女が俺をどう思っているかすらもだ!!
せめてヒント! この未熟者にヒントをお与えください神様!と拝み倒すと、
彼女は大きく溜息を吐いて一言、今までの彼女の動向を振り返り、
今のワシのした事の反応を考えてみよ。そう言うと、また姿を消してしまった。
慌てて考える俺。然し何一つ…いや、彼女は何の為にセアーラに身分・名前を
偽ってここに来た? …それは、俺を利用して母親を救い出す為だろう。
その罪? それは許しただろう。じゃあなんだ? リシア…。
リシアはマリアの付き人であるが、どこか姉妹の様に感じなくも無い。
そのリシアに俺を先に寝取られたと思う焦り? 彼女もリシアの様に…なのか?
いやいや、そんな黒い事考えそうな人には到底見えない…よなぁ。
単純に俺を好き? だとしたらさっきので嫌われ確定だろう。
だが、ブレドの言葉から察するにそれは違うだろう。何か別の事か…判らん。
何かが決定的に足りない。彼女を理解するのに決定的な何かが。
結局、テントの中を近衛達が片付けにくるまで考えたが答えは出ず。
そのまま頭を抱えて、衣服を整えて外に出た。
外は明るく、朝日がとても眩しい。 あのどんより雲は既に無く、晴れ渡っている。
逆に俺の心の中は曇り空…だな。はぁ…。
「兄貴!!」
お? どうした慌てて、まさかマリアが失踪したとか…じゃないか。
流石に一人で母親助けに行く程、馬鹿じゃないよな。
で、何だとオルガに尋ねると…なんだよニヤニヤして。
「兄貴の…デカいんだってな。畜生、羨ましいぜ…!!」
何…だと。…視線が俺の息子。こいつ…誰から。
首を軽く絞めて吐け! 吐くんだ!と典型的な事をやってるとあっさり吐いた。
考えるまでも無く、覗いてた奴が居た…と。人の情事を…。
ま、まぁあれだけリシアが声出せば覗くなという方が無理…か。うん。
何だよ、まだ何かあるのか。何を指差して…大きい木の枝?
「アレより太くて長いってマジ!?」
どんなだよ。馬の雌でも裸足で逃げ出すぞ。どんだけ蛇矛だよ。
俺の息子は三国志のあの猿人の矛か! 話に尾ひれどころか竜鱗ついてそうだな。
ちょっと草陰にオルガを引っ張り込んで、ズボンを脱いでリシアのエロい肢体を妄想中。
「うわ…」
まぁ、俺もそう思ったし、リシアも言ったな。見せる俺も俺だが。
変な尾ひれ付かれても困るんだよ。特に幼女趣味は断固阻止したい。
て、おい。つつくなコラ。男につつかれても嬉しくねぇ。
「これでリシア姉ちゃんを? …いたそー…」
まるで凶器でも見るかの様なその視線。
まぁもう凶器と言う他無いソレは野郎につつかれ通常サイズに。
余りの落差にオルガが驚いているが、俺だって驚くはこの膨張率。
全く。どんだけ凶器。見た目は短剣、中身はドラゴンスレイヤーってか?…頭痛い。
…はぁ。 まぁ、それよりマリアだな。 俺はオルガに用事があるといって、そのまま
草陰を出てマリアを探し兵達がテントの片付けをしている中を歩く。
リシアは…うわー。エオンを使っているのか、素なのか。とんでもない力である。
命を削る…が、加減して使えば暫くすれば元に戻る…か。
扱いに慣れているんだな。あ、でも腰が痛そ…すまん。あれは俺の所為か。
そんなリシアを通り過ぎ、テントが並列して並ぶその端に、マリアの姿が。
何か考え事をして、大きく溜息を吐いている。
どうしようか迷ったが、思い切って彼女の元に駆け寄り、弁解しようとする。
「おはよう…ございます」
う。何か余所余所しい。笑顔が当然ながら無い。完全に変態扱いされているのだろうか。
アレは彼女の、いつもの性質の悪い冗談で…と言うが、首を振っている。
…う~ん。どうしよ。
「そうじゃなくて…その」
なんだよ、視線が…まさかあの噂聞いたのか? 聞いたのか!?
なんっっったるなんっっっっったるっ!! …まさか見せるワケにもいくまいし。
あれ? ブレドの事は気にしていないのか? 何かそんな感じだな。
「その…」
何か怯えだしたぞ。まさか本当にあんな長さ2m以上太さ40cmはあるかと言う枝というかもう幹。
それくらいあると信じ込んでいる!? 馬鹿な!!! 人間じゃねぇそれもう。
つかそんなもん、服着てる時に立ってしまったら服破けるだろう。
それこそ、ほわぁぁっちゃぁぁっ! 服びりびりびりぃぃぃっ…みたいな。
余りにギャグ。余りにシモネタな寒い絵が脳内に浮かんで頭痛がしたわ。
さて、どうこの誤解を解く? いやいや、そんなモン立てたら服破けるだろうと、
普通に言うと、ただの噂だと判ってくれたのか、納得してくれた。
まぁ、リシアが目を丸くして驚いたサイズである事には変わりない。
それを付け加えると…あ、一歩引いてしまった。しまったぁぁっ!!
オルガと話してる気分で話してしまった!!
ん? 少し怯えながら、今度は歩み寄ってきて…何。
「その…本当かどうか」
見たいと? また立たせろと? 鎮めるのにどれだけ苦労すると?
流石にそれは断ろうと…つか清楚な見た目に反してなんという。
いや、年頃だからか。俺だって異性に興味無い筈も無く。
さて、どうしよう…断るか? 何か悪手な気がするが、仕方ない。
彼女を近くの草陰に誘い、再びズボンをズラすこれどうよ。
まるで自分の一物を見せびらかす変態王って感じしないか。
…。諦めてまたリシアの…っておま!! 舐め……余り気持ちよく無い。
いや、リシアのが凄すぎたんだろう。マリアのそれは…うん。
だが、何かこうたどたどしさというか、必死な顔が快感に…。
「…」
いや、もうちょっとで立ちそうなのに、止めないで下さい。
俺の息子に顔を近づけたまま、俺を見上げる彼女が何か凄くエロいです。
何か言いたそうに…ぉぉぅ。 生唾でも飲んだのか、何か意を決した様に口の中に…。
「む…んぐ」
何かうん…もうしん棒たまらん的に息子が。あー…飛びのいて尻餅ついちゃったよ…いや、
それでも息子を見てる。
多分、あれだ。判る気がする。今のマリアの脳内。
マリアの目の前に見た目以上に大きく、いや、俺本体よりデカく見えてる息子が
怒髪天を突くといえばいいのか。それだろう。
…で、予想外の展開に怒ってしまったこの息子。どうしよう。
とりあえずマリアは再起不能。首をかすかに左右に振っているが、
目はそれから離れず口を押さえて怯えてしまってるよ。
まさかこのまま、彼女の頭を抑えて無理矢理捻じ込むなんて事は…出来ない、うん。
静かにほとぼりが冷めるまで待つしか無し…と。
ズボンを上げ…あれ。ちょ!! 邪魔であげきらんとか…どんなだよ!!
仕方なく半ケツのまま彼女の横に座り、ジッと黙っている。
何言えばいいのかさっぱり判らんのだよ。うん。
「あ、あの。すみません。私…その…怖くて」
ああ、そりゃ判る。こんなモン見せられたら俺でも逃げる。
驚かせて悪かったなと謝ると彼女が首を横に振ったところをみると、気にして無い
という意味合いだろう。安心した。が…何かこう雰囲気的に色々聞けそうな…。
そんな空気が…うん。俺は、彼女の目を見て尋ねた。
何か、悩みがありそうだが、俺は頼りにならないか? と、かなり卑怯だが、
立場的にこれは使えるんじゃ? と思ったワケだ。 そう言うと彼女は黙り込んでしまった。
…選択肢間違ったか? うーん。どうしよ。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
いや、何で謝る? …? おい。ようやく収まった俺の息子を口で刺激するな!!!
何かもう何? 何かこう…まるでそう、背水の陣というかソレに近い鬼気迫る様な
彼女の必死の奉仕…なんで? どうして!? …あら、なんかさっきより気持ちよく…。
裏側を小さい舌で必死になめたり、こう…入りきらないような小さな口で…うぉ。
余りの必死さにか、息子が限界きてしまったらしく…あ~あ。
ごめん。顔に…やっちまった。慌てて懐にある布で彼女を拭きながら謝ると、
向こうも謝って…うーん。だからどうして…。
あれ、いてもたっても居られなくなったのか…そのまま立ち上がって走ってテントの方に。
何かまだ息子がアレなもんで、まさかこのままあの中を走って追いかけるワケにもいかず。
困った。余計に判らなくなった。
「何と言う阿呆なのじゃお主」
お前、また見てたのか。呆れた様に言う彼女はややげんなりしていた。
そんな俺を一瞥して、彼女の走っていった方向を見ると…。
「身分も名も隠して…これがどう言う事か」
え、まさか。 いやいや。第一王女だろう? いくらでも出迎えてくれるだろう?
それをブレドにぶつけると、ルシアの存在。何よりリアドラの娘である事と、
王子も含め、国には敵は多いと言う事を…成る程。
隠して、というよりも捨てた。というべきなのか。…母親のために全てを。
「ま、綺麗に言えばそうじゃろうが…」
母親を理由に、その敵から背を向けて逃げた…か? 相変わらず手厳しいな。
納得する俺を見て…何か…何。
「ここまで言って気づかぬか? つくづく…阿呆が」
いや阿呆阿呆ってお前…。なんだよ。 聞くが彼女は答えず、
ここから先は知らない、何があろうと己が未熟さを恨め。
それが嫌なら賢しく・強くなれ、と。 そう言い残して消えてしまった。
どう言う事だよ。西のクラヴェリアに何かあるのか? …判らん。
あの国の王様は、妃だろうマリアの母を愛しているっていってたしなぁ…。
だからこそ、西の精鋭とその先陣にクエスターである妹のルシアを送ってくれた。
マリアも母親も愛してくれる良い親父じゃないか。
結局、何も判らないまま、旅支度といえばいいのか、まぁそれを終えて進軍を続ける事
二週間。 ついに北のガレアストへと辿り着いた。
晴天の下に映える灰色の城。その城下。
同じく灰色のほぼ石造りの町並みを…ぉぉおお!?
年老いた人達と年端も行かない子供達が、城下町の入り口を覆い尽くして声を上げてまっている。
最早それは凱旋というに等しいだろうか…、が、ここで気を緩めてはいけない…な。
俺は馬から降りず、その戦えないリアドラ達の前に立ち、一望する。
衣服もそうだが、このやつれた体はどうだ。よくもまぁこんな状態を…。
何か、こう…そう怒りだ。この地に住む中級階級から上の奴等を全て殺してやりたい。
そう思えなくも無いが…それはやったら駄目だな。あの時ブレドが俺を乗っ取った時にも
それを言っていた。抑えるべき衝動である。
後ろを向くと、同じ考えなのだろう、必死で怒りを抑えるリアドラ達がいる。
俺は彼等の方を見て、こう大声で叫んだ。
ここで、イリエドに手をかければ、立場が逆転するだけで何も変わらない。
俺はそれを望むべき秩序では無い事を告げる。
すると、どうだろう。全員が腕を上げてゼオ・ルヴァン…我等が王、と。望むべき未来、
それを判ってくれたのだろうか、あるいは彼等もそれを望むのか。
それとも…ただ強大な力に従うだけなのか、判らないが、今はこれで良い。
まるでモーゼだな。杖を掲げ大海を割って見せた賢者…。
まぁ、海では無く、人だが。
腰に差した剣を掲げると、ガレアストにいるリアドラ達が道を明けていく。
真っ直ぐに、ガレアスト城を目指して…。恐ろしい程の人の海。
その中を進むと、イリエドだろう者が住む家、木造建築やレンガ造りが多い。
その窓から恐怖・憤怒…色々な視線が俺に叩きつけられてくる。
当然か…こいつらから見たら俺は――侵略者。
ただ彼等の幸せを奪いにきた悪魔だろうしな…。
だが、ここで引く事は出来ない。 マリアの母親を救い出さないとな。
戸惑いを見せず、ただ天を突く様に聳えるガレアスト城を睨みつけ、進む。
やがて、その城は近づき城門へと…当然城門は…あれ? 開かれている。
いかにもなソレは、早く来いとばかりに開かれているが…。
周囲にブレドを探すが…いない。 本当に俺に任せる気か…。
いや、いつまでもおんぶにだっこじゃ駄目だしな。 さて、どうする。
敵の兵。その士気はもう地に落ちただろう。何より兵数とクエスターも居ない。
罠を張るにしてもその罠が考え付かないな…。降伏か?
一応の事、大声を上げ、いわゆる降伏勧告。それを申し出てみたが、無反応。
うーん…。どうしようか。
開かれた城門。その中は暗い…。
「困ったねぇ」
と、横に居たリシアも同じ考えあぐねて苛立っているな。
本当にどうしようか…。
「ふん。黒の王はとんだ腰抜けの様だな」
なんだ? 城門よりおくにある城。そのテラスより人が…衣服から察する所カラーナか。
黒い髪を後ろに纏め、口髭だけ蓄えた中年の男がそこに居た。
その目は怒りに満ちており、歯を食いしばっているのか、
顎に力が入っているのが判る。…いやそれよりもその右手に無理矢理抱えられた長い茶髪の女性。
妙齢というかまぁもう、それなりにお歳を…。
「お母様!!!」
…。そう言う事か、どこまで下衆な事を。いや、そこまで追い詰められた…か。
追い詰めたはいいが、それで手段を失うとはどうしたものかなこれは。
ただ、マリアが俺の横でリシアに取り押さえられ、母を泣き叫び呼んでいる。
全てを捨てても手に入れたい温もり。唯一の心の拠り所…いや、リシアが居るが
それ以上の何かだろう。力の限りリシアから身を乗り出し母親に向けられた右手がそれを語っている。
然し、いかんせん救い出す手立てが…皆無。 そうだ。アリシャ…。
あいつなら既に…いや、期待出来そうに無い。 あの明るい位置でアリシャの姿が全く見えない。
完全に手詰まりな俺の心境を悟ってか、相手のカラーナがマリアの母さんの首下に刃物を
当て…るどころか少し斬りやがった。白い肌からうっすらと鮮血が走り、胸元を伝わり
胸元の白い衣服に鮮血が滲む。
…くそ。
「さて、黒の王よ。貴様の命と、この女の命。引き換えでどうかな」
…。どうする。ここでマリアの母さんを捨てて…いや、そんな事をすれば…。
考えるまでも無く、俺は腰の剣を地面に投げ、馬を下りて皆に動くなと。
そして、あの暗い城門へと歩み出す。
「ル…イクト!! 」
リシア? 初めて名前呼んでくれたな。何か…嬉しい。心配そうな彼女の顔が目に浮かぶ。
だが、俺だって死ぬ気は無い。隙を見て噛み付いてでも奪ってやるさ。
意を決して、城門へと続く堀の上の橋を渡り、暗い城門の口へと…。
薄暗い廊下を一人歩く、視界も宜しくない…が、ほんのりと左右上部にある灯。
リアドラ達の命の灯火が通路を照らす。灰色の石畳…灰色の石壁。
薄暗さと灰色一色が更に不気味さを醸し出している。
ただ響く皮の靴と石畳が擦れ合う音…重い足取り。
考える…何故、自分の命を賭けてまでマリアの母親を救うのか。
王として、これは正しいのか? マリアの母親を捨て多くのリアドラ達を救うべき
では無いのか?
否定する。この戦はマリアの母親を救出する為のモノ。
その為にリアドラ達は力を貸し、命を賭けてくれた…なら。
俺も…命を賭けるべきでは無いか?
自身は高みで見物しているのが王なのか?
思い出す。先代白の王、彼は自らを白刃の下に晒し続けた。
そしてそれに多くの者が惹かれついてきた…。
立ち止まり、首を振り溜息を大きくつく。
理解不能―――王とは何か。 どうあるべきか。
再び歩き出す俺の目の前に一人の…カラーナの従者だろうか、薄暗くて判らないが
手招きを…穏やかに見えるがその目は憎しみに満ちている。
今にも襲い掛かってきてもおかしくない程に。
招かれた場所は、先程とは打って変わり一際明るい。
テラスから陽の光が差し込み、やや埃でも舞っているのか、光の差す場所に
白いモヤの様なものが漂い、その先にマリアの母親の首元にナイフを宛がう男。
さて、どうしたものか。…軽く溜息をつくと男は笑い従者の持っていたナイフを
俺の足元に投げさせ…自害しろと言う所か。
近づく事も出来ないか…どうすれば…。
暫しの静寂が訪れ、それを破ったのは叱咤する線の細い声。
私一人の為に、多くの者を危険に晒すべきでは無い、若き王よ…と。
肯定、それが正しい選択だろう。だが…判らない。
何かが否定する、自分でも判らない何かがそれを否定する。
意を決し、しゃがみ込み…ナイフを手に取り考える…投擲。
投げれば…いや、彼女を盾にするだろう。…どうすれば。
「世界を敵に回す覚悟はあっても、人一人見殺しにする覚悟はありませんか?」
ぐ…。痛い所を母親に突かれたな。髪を掻きながら黙って頷くと、
彼女は叱る様に続けて口を開く。
『報われない者、恵まれない者』
どちらかを見殺しにしなければならないとすれば、俺はどちらを取るか…と。
どう言う意味だ? 何かを伝えたいのか…。
「ふはは、そのような何も知らぬ若者に答えなぞ出せるものか。
が、もし答えが出せたなら、それは恐ろしい王ともなろうが」
く…言いたい放題言いやがってこいつ、無防備に笑い出した名も知ら無いカラーナ。
言われるがままに唇をかみ締め、ナイフを握り締める俺…どうすりゃいいと悩む最中…。
「射て!!」
外から強く言い放たれた言葉、醜く歪んだ笑い顔の男は、苦悶の顔へと歪み、
前頭部から矢の穂先が顔を出し血を滴らせ…うげぇ。
白目向いて身体を痙攣させ断末魔をあげる暇も無く崩れ落ちたじゃないか。一体誰が…。
「ルシア、貴女も着ていたのね」
ルシアだと!? 慌ててテラスに走り、身を乗り出して外を見ると、何と言うお手前。
男の眉間を正確に後ろから射抜いただろう長髪の男が、
テラスから見えにくい位置で弓を構えていた。
一体…誰が…? 声の主、ルシアを探すと、兵がどんどん道をあけて…向こうからくるようだな。
「黒の王。ガレアストとレアリアの大軍をあの僅かな兵で打ち破った力は認めよう」
いや、それブレドなんだけどね実の所。兵達の中から現れたのは、誰と言うまでも無く
ルシアという奴だろう女。白い鎧…妙に胸元が開いてるが。
厚手の茶色生地のドレスに白い鎧。中々いいものだな…じゃなくて。
そんな衣服というか衣装?それを纏った彼女が歩み寄ってテラスを見上げ…
うぉぉこれまた可愛らしい。その威風堂々とした物腰と口調に反し、
まだ幼さがどこか残る大きめのどんぐり目に…表情が険しくやや釣り目にも見える。
「然し…たかだか女一人の命と引き換えに、王である貴様が命を落とすのか!」
左腕を振り払う彼女…いや、ご尤も。
だが死にに行くつもりは無かった事を言うと、軽く笑い出した。
うわー可愛い。なんて可愛い。でも口調は…。
「そうか、いらぬ世話であったか」
何か、ムカつくような。…。で、なんで跪く? おもいっきり上から目線だったのに。
「黒の王。姉上の母を救って頂き、感謝致します」
ちょ、掌返した様に…ああ。今度は妹として…か、続けて謝罪をしてきた。
まぁ、あの言葉も俺の身を案じての事だったんだが…。
て、いや、それよりもマリア…あれ? いないリシアも…。
ああ、こっちにきてるのだろう。
で、何だよルシアちゃん。さっきから俺をまじまじと見て…。
「俄かに信じがたい…」
何だよ、何その疑いの眼差し。 俺を品定めする様に足元からジーっと。
「本当に、ギルビットクエスターを?」
…。こいつ、意外にストレートだな。 眉間にシワがよったのを見たのか、
彼女が謝罪をしてきたが…それを割ってはいる様にオルガが飛び込んできて、
あの時の事を身振り手振りどころか、飛んだり跳ねたり大忙しで伝えてまぁ…元気な。
「そうなのか。あの大空を覆った命導力は君の」
ああ、成る程。それが気になってコチラに着ていた。遊撃、状況で攻撃にも防御にも
転ずる部隊…か。あれ、ルシアの目がこう…何。うん。
「一度、お手合わせ願いたいものだ」
向上心。その一言に尽きるその視線と言葉! 凄く彼女が眩しく見えます。
その後から来たマリア達…お~お~、勢いよく母親の胸に飛び込んで、
余程嬉しいのか、声にもならない声で泣いているな…当然か。
暗い部屋に差し込む光が二人を包み込み、二人の再会を暖かく祝福しているような。
「良かったねマリア…」
ん? リシアが俺の隣に来て二人を見…何だろう羨ましそうにも憎らしそうにも取れる視線。
リシアの目を見た瞬間思い出した事がある。愛する事は人を強くもするが…。
過去に彼女に何か在ったのか、それは今のリシアの目を見るとある程度の予想はついた。
が、彼女の傷口を抉る事になりそうなので、彼女から語るまで待つ事にしようと思い、
一緒に子供の様に泣き抱かれるマリアを見守っていた。
首元まで伸ばした金髪と、前髪は邪魔になるからだろうか、
短く切っているアンバランスなルシアの髪が城門の擱くり吹いた風に揺れ。
その風吹く場所より、マリアに肩を預けて歩いてくる母親と俺達…よかったな会えて。うん。
お? マリアが俺に歩み寄ってきたな…まぁ、無事で何よりだ。
満面の笑顔でマリアに歩み寄り、軽く頭を撫でたその刹那。
「ルヴァン様…ありが・・・危ない!!」
「イクト!?」
「黒の王!?」
え? 何、何か…腹部が背中から物凄く熱い…いや、痛い。
恐る恐る、自分の腹を見ると…あれ。血…剣? なんで?
「動くな! 動くと黒の王の命は…無い!!」
ちょ…おま。刺し…ルシア? 首に腕を回され、引きずられているんだろうか、
薄れ往く意識の中で…あれ? ブレドが見下ろして…なんでお…前。